17話 勝つのはどっち?
「ムリムリムリ、絶対ムリっ!」
「ムダですわ。このフィールドに入ったからには、どちらかが気絶するまで出られませんの」
「だったら降参します!」
──親衛隊の皆様に無理やり連れてこられた格技場。
そして私は、そのままフィールドへと放り込まれた。
何をどう抵抗してもムダ。始まってもいないのに、すでに降参を宣言する。
だいたいなんで勝ちを譲ってるのに、勝負にこだわるわけ?
そんなに私をコテンパにして……ああ、そうか。
私が“エルヴィスさんの隣にいる”から、だね。これで少しでも実力があればマシなんだけど、魔術を発動させたら暴走するしか芸がない。
それに私はエルヴィスさんに依存しきってて、残念ながら独り立ちもまだできない。
……うん、こういうところがルル先生には気に食わないんだ。
これからはちゃんとしよう。ほんとに。
「却下です。では開始してください」
「分かりました。――二人とも、正々堂々戦ってください!」
親衛隊のジャッジが、無情にもゴングを鳴らす。
いや、困るんだけど!?
「では、いきますわよ」
バチバチッ!
すっかり悪役令嬢モードに入ったルル先生が、雷を発動。
稲妻が可憐に舞い、私めがけて襲いかかる。
必死に避けながら、フィールド中を逃げ回る。
ウィッグがズレないようにも気をつけないと。
とたんに応援席から、ゲラゲラと笑い声が響いた。
……笑い者上等。痛いのだけはごめんだ。
「穂香ちゃん、逃げてばかりいないで反撃しなさい!」
なにも知らないマミア様から、厳しい声援。
すみません、反撃なんてできません。
発動させたら暴走して、会場が吹っ飛びます。
――ベチャッ。
しばらくしてついに足がもつれて、フィールドのど真ん中で顔面から再び転倒。
その瞬間、明らかに“変な音”がして、痛みが走る。
爆笑はさらに大きくなり、立ち上がろうとしても足に力が入らない。
こんな肝心な時に足を捻るとか、私の加護ってラッキーガールじゃなかったの!?
「観念しなさい。え……?」
ズドォォンッ!!
這いつくばった私に、今までで一番大きな雷の舞が襲いかかる。
間一髪で直撃は避けたけど、爆風に巻き込まれて宙に浮き――
そのまま床に叩きつけられた。
「――ッッ!」
人間って、本当に痛すぎると声が出ないんだね。
全身を激痛が襲い、指先ひとつ動かせない。
たぶん骨、数本いった。火傷もしてる。
痛い。痛い。熱い――。
「穂香ちゃん? え、どうして……?」
さっきまでの威勢はどこへやら。
ルル先生が呆然と立ち尽くして、私を見下ろしている。
笑い声が止まり、代わりにざわめきが広がる。
「ジャッジ! 早く中断しなさい!」
「は、はいっ! 試合終了! 勝者――ルル先生!」
「今はそれどころじゃないでしょ!? 穂香ちゃん、しっかりして! あなたたち、校医を早く呼んできなさい!」
マミア様が目を丸くして駆け寄ってきた。
焦る周囲に、的確に指示を飛ばしている。
でも――もう、声が遠くなっていく。世界の色がぼやけていく。
ただ、どこか懐かしくて、安心出来る大好きな匂いがした。
「……なにがどうしてこうなった? ここは、特に優秀な者しか立ち入りを許されないフィールドだぞ?」
静かな怒り。
今まで聞いたことのない、低くて強烈な声。
……エルヴィスさんだ。
また頼っちゃった。結局、最後は助けてもらってばかりだ。
「……ごめん、な……さい……」
どうにか絞り出した声。
すると彼は、優しく言った。
「どうしておまえが謝る? もう大丈夫だ。安心していい」
――その声が、あたたかかった。
体がふわりと宙に浮く。
さっきとは違い、温かくて心地よい。
安心した私の――意識は静かに途切れた。




