11話 師弟関係継続中
私が異世界転移してから、あっと言う間に一ヶ月が過ぎた。
エルヴィスさんと、三バカ――いや、“トリオ”のおかげで、助手生活はおおむね順調に過ごせてい……る?
「イグニション!」
バチャーン!!
私の放った火が炎となり制御不能。森が大惨事になりかける。だけど、いつも通りエルヴィスさんが鎮火してくれた。こめかみをピクピクさせながら、じっとこちらを睨みつける。
「……穂香、諦めろ。お前には魔術の才能がまったくない。魔力の供給自体はできるんだから、生きてはいける」
「いやだ~! 魔術が使いたい!」
強い口調で無理だと突き放されても、泣いてすがる私。
せっかくステータスを調節してもらったのに、まだダメなの?
「姐さん、なんで出来ねぇんだ? オレなんか三歳の時には出来てたぜ?」
「同じく。なにも考えなくても普通に出来るよな?」
「そうそう、簡単簡単」
トリオが首をかしげるように言う。
……ムカつく。
こいつら、問題児でも超エリートなのが余計に腹立つ。
「エリートのあんたたちには、劣等生の私の気持ちなんて分からないわよ!」
『そりゃそうだな』
「ムキ~~!!」
まさかの即答。
思いっきり肯定されて、余計に悔しくて頭に血が上る。ここ最近、このやり取りがもう日課みたいになっている。
――というか、なんでこいつらは毎回私につきまとうのよ? 放っといてくれてもいいのに!
「まったく……。穂香でも制御できる方法を探してやる。だから、絶対に一人で練習するな」
「ありがとうございます! 神様、仏様、エルヴィス様!」
そして今日も、最終的に折れてくれるのはこの人。
私は大袈裟に手を合わせて感謝した。
今日も見捨てられなくて良かった。
「エルヴィス、姐さんにちょっと甘くないか?」
「そうか? 出来損ないの弟子なんだから仕方ないだろう。師匠である俺が手綱を強く握っておかなければ、何をしでかすか分からない」
え、なにそれ。私、馬扱いですか?
扱いはだんだん雑になってきたけど、彼は師匠で私が弟子という認識はまだある。寧ろ気に入っているのか、何かある度に師弟関係だという。
だからこそ、私の中で芽生えかけていた恋心は、根こそぎ刈り取られていた。
彼は師匠。そう、師匠。それ以外じゃダメなんだ。
「うん、通常運転だった。全然甘くねぇわ」
「姐さん、エルヴィスを師匠にするのやめて、俺たちに頼りなよ!」
「それがいい」
「ごめん、それだけは絶対に無理。私の師匠はエルヴィスさん、ただ一人だから」
トリオの優しさ(?)はありがたいけど、即答で否定した。
そもそも、あんたら年下でしょ? プライドが崩れるわ!
「バカ言うな。お前たちじゃ穂香を扱いきれん。もっと力をつけてから言え」
「チッ、シラけるなぁ。街に遊びに行こうぜ!」
「え、そこは“鍛錬”して見返す。じゃないのか?」
「アーロンは悔しくないのかよ!」
「うっせぇ! 鍛錬したけりゃ、お前らだけでやれ! オレは遊んでくる!」
アーロンが悪役みたいなセリフを残し、双子と口げんかしながら走り去る。
それを「まったく……」とため息混じりに追う双子。
アーロンは絵に描いたようなクソ悪ガキで、双子は大人びてアーロンをうまくフォローしている。幼い時からつるんでいるらしいから、三人の絆は深い。
「本当にあいつらはいつも騒がしい。……穂香が来てから、問題を起こすことはめっきり減ったがな」
「それなら良いじゃないですか?」
迷惑そうにため息をつきながらも、どこか嬉しそうに笑うエルヴィスさん。
生徒思いの優しい先生。言葉は厳しいけど、本当はすごく温かい。
冷血鬼教師なんて恐れられているけれど、実際は違う。――私は知ってる。
「そろそろ職員会議の時間だ。職員室に行くぞ」
「はい」
懐中時計を見ながら歩き出すエルヴィスさんに、私は頷いてついていく。
私は助手のはずなのに、いつの間にか副担任まで任されていた。
トリオのおかげでクラスの生徒たちには、ほぼ受け入れられていると……思う。
でもやっぱり実力がないぶん、それ以外の一定数には疎まれているはず。特に隠れエルヴィス親衛隊からは敵対視もされていた。
今も、かすかに感じる痛い視線を――私はスルーする日々だった。




