10話 考古学者の恩師
「お待ちしていました、穂香さん」
「え、私を知ってるんですか?」
「学園長は千里眼を持っているんだ」
最上階にある学園長室へ行くと、ノックする前に扉が開き、中から人の良さそうなおじいちゃんが現れた。
何もかも知っているような歓迎の仕方に戸惑っていると、エルヴィスさんが耳打ちしてきて納得する。
この人が、エルヴィスさんの恩師。若い頃はアスラーク最強の魔術師で、加護もきっとレアなのだろう。
――私のこと、どこまで知ってるんだろう? もしかして説明いらない?
「立ち話もなんだ、中に入りなさい。美味しいお菓子と紅茶を用意しておる」
「それは楽しみです」
「余計な気遣い、申し訳ありません」
美味しいお菓子に、さっき飲めなかった紅茶。
今の私には最強の誘惑カードだ。そそくさと学園長室へ入る。
最上階だけあって窓から見える景色は、街並みを一望できるほど。首都というだけに、めっちゃ広い。
エルヴィスさんはやたら腰が低く、学園長を心から慕っているのが伝わってきた。
「元気のいい、素直なお嬢さんじゃね。穂香さん、本当に異世界から来たのかね?」
「はい。地球という日本ってところから来ました。自分の家のドアを開けたら、遺跡みたいな場所でエルヴィスさんに出会ったんです」
千里眼を持っていても、やっぱり確認はするんだね。
「なるほど。それでエルはそんな彼女に興味を持って、親身になって面倒を見ているわけか」
「まぁ、そんなところです。それに“メシアではない異世界人”は前代未聞ですからね。バレたら、アスラーク中が騒ぎになる」
さすが恩師。茶化すことなく、真剣な表情で核心を突いてくる。
エルヴィスさんが“面倒を見ている”だけ。たったそれだけなのに、胸が少しだけ痛んだ。
……まさか、私、出会って間もない人に恋してる?
まぁあんなに優しくされたら、好きになっても無理ないよね?
でも、エルヴィスさんは“異世界人だから”優しくしてくれてるだけ。
良かった、早く気づけて。本気で好きになっちゃったら、取り返しがつかなくなるとこだった。
「ん? 穂香さん、どうかしたか?」
「ちょっと真実に気づいただけです。話を続けてください」
「?」
顔に出てたみたいで学園長に不思議そうに見られるけど、なんとかごまかす。
幸いエルヴィスさんは気づいてない……はず。
「それならいいが。では穂香さん、ステータスカードを見せてくれないかい?」
「あ、はい。どーぞ」
ここは素直に差し出す。多分、これで他人に見せるのは最後になるだろう。
「ありがとう。――本当じゃのう、差が少し開きすぎておる。幸運と技量はこれでよいとして、知識を70、運動を20に振り分けようか。あとは鍛錬次第で暴走は防げるじゃろう」
「そうですね。後のことは、俺が責任を持って教えます」
ステータスを見ながら、あっという間に方針を立てる二人。
そして当然のように胸を張るエルヴィスさん――それが、誤解の元なんだよ。
「すっかり“お師匠”気取りだな」
「あ、それです! エルヴィスさんは私の“お師匠さん”です!」
ナイスな関係性を見つけて、私は思わず指を差して叫んだ。
――弟子と師匠。
この関係なら、変な誤解も生まれない。優しくされても、大丈夫。
「こら、相手に指を差すもんじゃない。だが、確かにしっくりくるな」
「二人はまだまだ若いのう」
「若いって……俺はもう三十一歳ですよ。いつまでも子供扱いしないでください」
「すまんすまん。だが私から見れば、お主達はまだまだ若造じゃ」
ここでようやくエルヴィスさんの年齢を知る。
もう少し年上かなって思っていたけれど、そんなに私と変わらないんだ。
学園長にムキになって怒る姿が、なんだか可愛らしい。
それを優しく見守る学園長は、まるで本当の父……いや、おじいちゃんみたい。
――こうして始まった、私の異世界生活。
ラノベみたいなチートスキルも、派手な戦闘力もないけれど。
いい人たちに巡り会えた。
……なんとかやっていけそうな気がする。
あ、これが――ラッキーガールの効果、なのかも。
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