第8話:『呪いの魔導書』の解除と、図書館の密室で迫られる甘い報酬
王都最大の建造物である王立図書館。クロノたち一行は、ギルドの紹介状と王族直属の書類を携え、厳重に封鎖された最下層の密室へと案内された。
密室の中央には、黒い鎖に巻かれた一冊の分厚い魔導書が置かれている。周囲の空気は重く、触れただけで魂を侵食するような、邪悪な魔力の波動が満ちていた。
「これこそが、王立図書館の全ての魔導書に伝染しようとしている『自己増殖型・魂喰らいの呪い』の源です」
リリは、魔導書から少し離れた場所で、すぐに解析を始めた。
「マスター。この呪いは、普通の浄化魔術では無効。むしろ、解析を試みる魔導士の『知識欲』を食い尽くし、廃人にする仕組みです。非常に巧妙で、悪質です」
「ふん!陰湿な魔術よ。こんなものは、我の剣で叩き割れば……」アステラが剣を抜きかける。
「いけません、アステラ」イージスが静かに制止した。「奴の呪いは魔力的な衝撃に反応して増幅します。私の『盾の役割』は、マスターの周りの空間からこの呪いの波動を完全に隔離することに徹します」
イージスはクロノの周囲に、透明で絶対的な守護結界を張り巡らせた。
「シヅク」クロノが指示を出す。「周囲の空間を浄化し、リリが解析に集中できる環境を整えてくれ」
「御意。完璧な『雑用』をお見せします」シヅクは、空間の魔力粒子一つ一つから不純物を取り除くかのように、清浄な魔力を密室全体に広げた。
環境が整うと、リリは魔導書に一歩近づいた。彼女の丸眼鏡の奥の瞳が、青白い光を放ち、魔導書の呪いの構造を読み解き始める。
「解析結果……この呪いの核は、『孤独』ですわ。知識を独占し、それを他者に伝えなかった術者の強烈な『知識欲』と『絶望』が長い年月を掛けて結晶化したものです」
リリは、呪いの中枢に触れた瞬間、苦痛に顔を歪ませた。
「くっ……呪いが、私の知識を食い破ろうとしてきます……!『知識を独占せよ、マスターに全てを伝えるな』と、囁きかけてくる!」
「リリ!無理するな!」クロノが叫ぶ。
「いいえ、マスター」リリは歯を食いしばった。「私の『知識の役割』は、貴方の為に全てを解き明かすこと。この呪いの絶望ごとき、マスターへの私の愛と探求心の前では無価値です!」
リリは、自らの魔力を呪いの中枢に深く送り込み、呪いの核となっている『孤独』の論理構造を書き換えた。
「呪文は、『知識はマスターと共有し、愛はマスターと独占する』。これで、呪いの核は崩壊します!」
バチバチッ!
魔導書を覆っていた黒い波動が、一瞬で光の粒子となって霧散した。鎖は砕け、魔導書はただの古代の書物へと戻った。
「成功ですわ、マスター!呪いは完全に解除されました!」リリは安堵と共に、その場に崩れ落ちた。
「リリ!」クロノはすぐに駆け寄り、リリの華奢な体を抱き上げた。
「大丈夫か?無理しすぎだ!」
「マスター……私の魂の奥底を、マスターに抱きしめていただいた……最高の報酬です」リリは、頬を真っ赤にして、クロノの胸に顔を埋めた。
その様子を見た三人の英霊が、一斉にクロノに詰め寄る。
「リリ!独り占めは許しません!」アステラが怒鳴り、クロノの反対側からリリを抱えようとする。「マスターの労いは、我の剣術訓練で疲れた肉体へ行うべきだ!私に触れて、剣聖の熱い想いを感じてください!」
「アステラ、やめなさい。マスターは今、過度な精神的刺激を避けるべきです」シヅクは、クロノの腕からリリをそっと引き離し、自分の胸元に抱き寄せた。
「マスター。このシヅクが、最も衛生的で完璧な労いを施します。まずは、硬くなったマスターの全身の筋肉をマッサージ。特に、衣服の邪魔な部分は、私が丁寧に処理いたします」
シヅクのその言葉は、控えめながらも、極めて扇情的だった。
「いけません、シヅク。マスターの安息は、物理的な守護こそ最優先」イージスは、クロノの腰に抱きつき、頭を押し付けた。「私の冷たい重装甲が、マスターの過熱した魔力を鎮めます。マスター、このまま私を抱きしめて、私のテリトリーに永遠に留まってください」
密室の中は、四人の英霊による、クロノへの熱狂的な労い合戦の場と化した。クロノは、最強の英霊たちに囲まれた、この甘く危険な状況に、困惑しながらも幸福感を覚えた。
依頼は無事に完了した。王族直属の担当者は、魔導書が瞬時に呪いから解放された事実に驚愕し、クロノたちに報酬として、Sランク冒険者の一年分を超える莫大な資金を支払った。
この一件は、すぐに王都の貴族や裏社会の頂点に伝わった。
『王立図書館の呪いを一瞬で解除した、正体不明のフードの支配者と四人の美少女』
彼らの噂は、王都の裏社会を駆け巡り、「謎の最強パーティ」として瞬く間に名声を確立した。
一方、ギルドの奥でその知らせを聞いた【神銀の誓い】の三人は、絶望に顔を歪ませていた。
「バカな!あの依頼をこなしただと!?最高難度だぞ!俺たちのパーティでも、二年かかるかどうかの依頼だ!それをたった1日で!?」レオンは、リリに折られた腕を押さえながら、憎悪に満ちた目で呻いた。
「レオン……いや、あのフードの男……私たちは、本当に恐ろしいものを追放したのかもしれない……」セレスの顔から血の気が引いていた。
クロノは、魔改造要塞となった自宅で、リリが収集した情報を確認していた。
「リリ。この情報によると、レオンたちが、次のダンジョン攻略で、僕が提供していた『罠の情報』なしで、致命的な罠に引っかかりそうだね」
「はい、マスター。私の知識とマスターへの愛が、彼らの自滅ルートを完璧に解析しました」
クロノは静かに微笑んだ。復讐の舞台は整った。次の行動は、王都の表舞台で、元パーティの惨めさを公然と暴き出すことだった。
「行くぞ、みんな。僕たちの本当の価値を、レオンたちと、この王都全体に、叩きつけてやる」
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