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第4話:『知識の役割』が呼び出した、おっとり天才大賢者

奈落の深淵、仮設拠点。

クロノの周囲には、三人の美少女英霊たちが常に寄り添っていた。


「マスター!今朝の朝食は、私が奈落の最奥で狩った『魔力結晶体マナ・クリスタル』入りのオートミールです!生命力と魔力の回復効果が三倍になっております!」

シヅクが、完璧な笑顔で熱々のオートミールを差し出す。彼女の瞳は、クロノの健康管理に全てを捧げる崇拝で満ちている。


「ふん!そんな生ぬるいものでマスターが満足すると思うか、メイド!マスターの食事は、我の剣術訓練で得た肉体から出る熱気で十分に満たされるのだ!」

アステラが真っ赤な顔で言い放ち、クロノの隣に座って肩を抱き寄せようとする。しかし、その瞬間、イージスが素早くクロノの前に滑り込み、重装甲の背中でアステラを押し返した。


「マスターの聖なる肉体に、粗野な熱気を与える必要はありません。私の冷徹な『盾』の内に包まれることこそが、マスターの安息。この寝袋も、私のテリトリーです」


イージスはクロノの足元に座り込み、その足首を冷たい手で抱きしめた。

三者三様の、クロノへの過剰な愛と献身が、小さなテントの中を満たしている。


クロノは、そんな彼女たちに苦笑しながらも、温かいオートミールを口にした。

「みんな、ありがとう。いつも感謝してる。でも、そろそろ、地上に戻る準備をしないと」


クロノの言葉に、英霊たちの表情が引き締まる。


「はい、マスター」シヅクが真剣な顔で言った。「現在の奈落の状況は、マスターが『奈落の看守』と『奈落の巨人』を討伐したことで、以前よりも安全になりました。しかし、地上は情報が少ない。あの卑劣な元パーティの動向、現在の王国の情勢、そして《英霊喚び》のスキルを地上でどう使うか……。知るべきことが多すぎます」


「ぐむむ……我らの剣と盾があれば、情報は必要ない!全て斬り開けば良い!」アステラが剣の柄に手をかける。


「いいえ、アステラ。無益な争いは、マスターの御身を危険に晒すだけです。情報こそ、最強の武器。マスターの聖域を守るためにも、知るべきことがあります」イージスがクロノの足首から顔を上げて、真剣な瞳で言った。


クロノは頷いた。

「そうだ。以前の僕は、情報係としてパーティの地図を作り、魔物の弱点を調べていた。レオンたちはそれを蔑んだが、実際はあれで多くの危機を回避できていたんだ。今の僕には、その『役割』の頂点が必要だ」


クロノは、自分の『英霊喚び』が持つ、無限の可能性を確信していた。

(僕が求める『役割』は、きっと現れる。僕を、そして英霊たちを守る、究極の知識が!)


クロノは深く息を吸い込んだ。三人の英霊の熱い視線が、彼に注がれている。


「来い!僕の『知識』!世界の全てを解き明かし、僕と英霊たちを導く、真理の探求者よ!」


クロノの全身から、今度は七色の光を放つ、複雑な紋様を帯びた魔力がほとばしった。その光は、奈落の空気を魔法陣のように彩り、空間を複雑に歪めていく。


キラァン!


空間の裂け目から、本が幾重にも重なったような、巨大な魔法陣が浮かび上がる。その中心から、ふわりと一人の少女が、ゆっくりと降りてきた。


現れたのは、淡い桃色の髪を長く伸ばし、縁の大きな丸眼鏡をかけた、おっとりとした雰囲気の美少女。彼女は分厚い古書を抱え、召喚された瞬間に、奈落のあらゆる魔力と情報が一瞬にして彼女の頭脳へと流れ込んだかのように見えた。


少女は、自身の周囲に広がる空間を一瞥し、そしてクロノへと視線を向けた。その瞳は、宇宙の深淵を覗き込むような、深い知性で輝いている。


「……あら、こんな深層で、私を呼ぶ存在がいたなんて。しかも、これほどの未知の魔力を持つ方が……」


少女は、クロノの魔力の波動を分析するように、クロノの全身をじっと見つめた。その視線は、まるで希少な標本を見つけた研究者のように、強い好奇心と、そして抗いがたい敬愛に満ちていた。


「ハッ、ハジメマシテ、マスター!我こそは、知識の役割の頂点、星読みの大賢者リリ!貴方様が、我を『役割』として導いてくださったのですね!」


リリは、クロノの前に音もなく膝をつき、抱えていた古書を広げた。


「マスター。貴方の御身には、このリリの全ての知識が流れ込み、そして、貴方が辿るべき世界の真実が、無限に広がる未来が示されています。どうか、このリリに、貴方の探求の旅の道しるべとならせてください!」


リリはクロノの魔力に触れると、その膨大な知識を一瞬で共有した。


「なるほど……《雑用召喚》から《英霊喚び》へ。そして、マスターは過去に『情報収集』の役割を担っていた。この奈落の深淵に隠された『古代文明の転移ゲート』の場所も、あの『レオン』という愚か者の現在の凋落も、全て解析可能です」


リリは、クロノの頭を、まるで研究対象を分析するように撫で回した。その指先が触れるたび、クロノの脳裏に、莫大な情報が流れ込んでくる。


「えっ!?リリ、あのレオンたちは今、どうなってるんだ?」クロノは驚きを隠せない。


「解析結果……ふむ。マスターを追放したことで、彼らは『地味な雑用』や『精度の高い情報収集』の価値を失いました。ダンジョンの攻略効率は落ち、新たな宝の発見もなく、魔物の不意打ちに遭う回数が増大。現在、彼らのパーティ【神銀の誓い】は、Sランクへの昇格が遠のき、内部の不和が表面化。人気も評価も急落しており、『あの雑用係がいた頃の方がマシだった』と陰口を叩かれているようですわ」


リリは、クロノの頭を抱きしめ、熱い視線を送った。


「マスター……やはり、貴方がこの世界の『真理』です!貴方を追放したなど、世界への冒涜!貴方の持つ『情報』の価値を、あの者たちは微塵も理解できていなかった。貴方こそ、最高の『知識』なのです!」


アステラとイージスが、新たな英霊リリの行動に、またしても火花を散らす。


「貴様!マスターの頭に、不躾に触れるな!マスターの脳味噌は、剣士である我の訓練によって活性化されるべきだ!」アステラが剣の柄を叩く。


「マスターの聖域(頭部)への無許可の接触は、私の『盾の役割』に反します。リリ、マスターの生命力を吸い取るような解析は謹んでください」イージスが低い声で威嚇する。


「あらあら、お二人とも。マスターの『知の探求』を阻むのは、愚の骨頂ですわ。マスターの賢明さを高めることこそ、最も崇高な行いです!」リリはおっとりとした笑顔で言い返す。


クロノは、新たな英霊の登場と、彼女がもたらした衝撃的な情報に、全身が震えるのを感じた。レオンたちの凋落は、彼が望んだ「ざまぁ」の始まり。


「よし……!リリ、僕の『知識』として、奈落の深淵に隠された『古代文明の転移ゲート』の鍵を見つけ出してくれ。僕たちは、地上へ戻る。そして、僕を捨てた全ての人間に、僕たちの真の価値を思い知らせるんだ!」


クロノの言葉に、四人の美少女英霊たちは一斉に跪き、熱狂的な忠誠を捧げた。


「「「「御意に、マスター!」」」」


奈落の底で最強の英霊ハーレムを築き上げたクロノ・アークライトの、地上への逆襲の物語が、いよいよ幕を開けるのだった。

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