第11話:暗殺組織の罠
クロノ一行が足を踏み入れたのは、王都近郊に位置する、通称『影の迷宮』。複雑な構造と、魔力探知を阻害する特殊な結界により、地図と情報なしでは熟練の冒険者でも遭難する高難度ダンジョンだ。
クロノは、かつてレオンに「お前の作った地図は使えない」と破棄された、手書きの地図を、頭の中で完璧に再生していた。
「リリの解析によると、暗殺組織『血の断罪』の狙撃部隊は、このダンジョン特有の『魔力歪曲の回廊』の奥で、私たちを待ち伏せしているね」
リリはクロノの肩に抱きつき、頬と頬を密着させながら囁いた。 「マスター。私の『知識』が、彼らの最も安全な狙撃ポイントを瞬時に特定しました。ですが、そこへ辿り着くには、マスターが過去に仕掛けた『雑用』の知識が不可欠です」
「『雑用』の知識?」アステラが訝しげに尋ねる。
「このダンジョンの罠と構造は、レオンたちのような脳筋には理解できない」 クロノは、かつて誰も見向きもしなかった、『罠の解除』と『物資の安全な輸送ルート確保』という、自身の『雑用』の経験を語り始めた。
「このダンジョンの落とし穴は、魔力探知ではなく『床の重力バランスの微細な変化』で起動する。魔物を誘導するための『偽の魔力反応』を設置したのも僕だ。そして、最も厄介な『魔力歪曲の回廊』へ続く道は、僕が隠した『非常用資材』のマーカーを辿らなければ、辿り着けない」
クロノは、ただの『雑用係』として、誰にも頼らず、誰にも気づかれずに、この迷宮の『真実の地図』を完成させていたのだ。
「フフフ……!驚きました。マスターの『雑用』は、この世界の構造全てを把握する、最高の『知識』です!」リリは、歓喜のあまり、クロノの首筋に熱い吐息を漏らす。
クロノの指示は、的確かつ迅速だった。
「イージス。最短ルートを確保する。五秒後、右前方の壁が崩れる」
「マスターをお守りします!」 イージスは、クロノの予言通りに崩れた壁の破片を、片腕だけで受け止め、クロノたちを守り抜いた。彼女の純白の肌着は、壁の土埃で汚れるが、その『盾の役割』は完璧だった。
やがて、クロノたちは、暗殺組織『血の断罪』の狙撃部隊が待ち構える回廊へと辿り着いた。
「目標捕捉!リーダーの男だ!撃て!」
暗殺者たちが放ったのは、魔力探知をすり抜ける『闇の魔力弾』。
「マスター!任せてください!」 イージスは、その幼い身体をクロノの前に滑り込ませた。
キィィィィン!
魔力弾は、イージスの張った絶対の守護結界に触れた途端、存在ごと消滅した。
「馬鹿な!?我々の魔力弾が、何も残さず消えただと!?」暗殺者の顔に絶望が広がる。
「マスターの聖域を脅かすものは、たとえ概念であっても、私の『盾の役割』が許しません」イージスは、クロノに抱きついたまま、恍惚とした表情で宣言した。
防御が盤石だと確認したクロノは、次なる指示を出す。
「アステラ。殲滅だ。彼らが隠れている場所は、右、左、そして真上だ」
「フフフ……!雑用係の知識が、剣聖の獲物を見つけてくれるとは、光栄至極!」 アステラは、トレーニングウェア姿のまま、流星剣を抜き放ち、流星の如き速度で回廊を駆け抜けた。
シュンッ!シュンッ!シュンッ!
一瞬の閃光の後、三方向から一斉に悲鳴が上がった。暗殺者たちは、どこから攻撃されたのかも分からないまま、武器と魔力回路を正確に断ち切られ、無力化された。
「マスター!完璧な殲滅です!ですが、まだ後始末が残っています」 シヅクが、濡れたメイド服から、再び完璧なメイドへと戻り、優雅に現れた。
「私の『雑用の役割』が、彼らの命の輝きを消去し、王都の闇から存在ごと清掃いたします」
シヅクは、動けなくなった暗殺者たちの全身に、優雅で冷たい魔力を流し込んだ。彼らは、苦痛の声を上げる間もなく、その場に崩れ落ち、二度と目を覚ますことはなかった。
救出対象の貴族の子息は無事に保護され、クロノは依頼を完了した。この知らせは、王都の騎士団を通じて瞬く間に広まった。
『影の迷宮の難題と、暗殺組織の罠を瞬時に見破り、一掃したフードの支配者』
王都でのクロノの名声は、『英雄』として確固たるものとなった。
一方、ギルドの片隅。レオンは、暗殺組織が壊滅し、クロノが英雄となった知らせを聞き、狂乱した。
「嘘だ!罠は完璧だったはずだ!」
レオンは、激しい屈辱と憎悪に身を焦がした。彼はもはや、パーティのリーダーとしての体裁を保つこともできない。
「セレス、リア!こうなったら、俺たちが正面から叩き潰すしかない!クロノが次に受ける依頼を調べろ!今度こそ、直接この手で奴を殺す!」
レオンは、プライドも理性も捨て、自らクロノの『獲物』となることを選んだのだった。
クロノは、要塞のバルコニーから王都の夜景を見下ろしていた。
「レオンは、ついに理性さえ失ったね。リリ、次の依頼の選定だ。彼らの自滅が、最も効果的に見える舞台を用意してくれ」
「はい、最高の舞台は、すでに私の『知識』の中にあります」
最強の英霊ハーレムを率いるクロノの、華麗なる反撃は、いよいよクライマックスへと向かう。
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