第10話:『警護の役割』の過剰な執行と、王都に仕掛けられた復讐の罠
王都の外れにある、魔改造要塞。広大なリビングスペースの豪華なソファで、クロノはリリの解析結果を聞いていた。
「マスター。解析結果。レオンの最後の言葉『絶対殺してやる』。これは一時的な激情ではなく、彼の歪んだ自己愛と敗北感が結合した、持続性の高い殺意です」
リリは、クロノの膝の上に座り、両手でクロノの顔を包み込む。彼女の瞳は、データと愛情で揺れている。
「彼の殺意のレベルは、現在、『低』ですが、資金と新たな協力者が得られれば、瞬時に『極めて危険』に上昇します。私の『知識』が、マスターの生命の危機を予測しました」
リリの警告に、他の三人の英霊たちの空気が一変した。
「馬鹿な……!マスターの聖域を、あの愚劣なゴミが侵そうとするなど!」シヅクの完璧な笑顔が消え、冷たい怒りが顔を覆う。
「ふん!もう我慢の限界だ!マスター、我の流星剣で、奴を今すぐ塵にしてきます!」アステラが剣を抜きかけ、殺気を放つ。
「いけません、アステラ。王都で不用意な殺生は、マスターの評判を貶めます」イージスが静かに、しかし絶対的な圧力を以てアステラを制止する。「私の『盾の役割』が、今こそ最大の献身を示す時。マスターの肉体的な警護は、全て私が担当します」
その日以来、クロノの生活は、極限の過剰警護へと変わった。
クロノが要塞内の自室に戻ると、イージスがベッドの上で待っていた。彼女は、純白の薄い肌着姿になり、その身体を毛布のように広げていた。
「マスター。私の『盾の役割』は、マスターの聖域(寝室)に、いかなる脅威も侵入させないこと。レオンの殺意は、空気中の魔力干渉を通して、マスターの精神を攻撃する可能性があります」
イージスは、クロノを抱き上げると、そのままベッドに横たわり、クロノを自分の身体で完全に包み込んだ。
「私の肌とマスターの肌が触れ合うことで、防御結界の魔力同期が最大になります。そして、マスターの甘い寝息を、私の五感全てで感じ取ることこそ、私の最も重要な警護任務です」
イージスの幼い身体は、魔力的な防御結界の塊であり、クロノを包み込むことで、外部からの全ての干渉を遮断する。しかし、その体温と柔らかさがクロノの本能を刺激する。
(「これは……警護なのか、それとも……?全身を密着させた状態で、レオンの殺意を解析しろと言われても……!」)
クロノが必死に理性を保とうとする横で、シヅクが完璧なナイトガウン姿で現れた。
「イージス。『雑用』としての『睡眠環境の最適化』は、私の役割です。マスターの肌と密着した状態で安眠の妨げとなる警護は、不完全な雑用ですよ」
シヅクは優雅にイージスを押し退け、クロノの隣に横たわる。そして、クロノの額に、冷たい魔力を帯びた唇を触れさせた。
「マスター。私とマスターの魔力経路を接続することで、精神的な防御結界を完成させます。これで、レオンの邪悪な殺意は、マスターの夢にすら侵入できません」
結果、クロノは一晩中、イージスの肉体的警護と、シヅクの魔力的警護に挟まれた状態で、最も安全だが、最も安眠できない夜を過ごすことになった。
翌日。リリが、王都のギルドで新たな情報を手に入れた。
「マスター。レオンが、王都の裏社会の悪名高い暗殺組織『血の断罪』に、マスターの抹殺を依頼しましたわ。報酬は、彼らの残りの財産全て。彼らは本気で、マスターを『障害物』として排除しようとしています」
「暗殺組織か……」クロノの顔が引き締まる。
「ご心配なく、マスター」イージスがクロノの背中に抱きつき、囁いた。「私の盾が、彼らの暗殺を光の粒子一つも通さずに防ぎます」
「いいえ。受動的な防御は、私の『雑用』の美学に反します」シヅクが冷たく言い放つ。「王都で暗殺者を動かすレオンこそ、王都の秩序を乱すゴミ。私たちが、逆に『王都の英雄』として、彼らを排除しましょう」
リリは、クロノに一つの依頼を見せる。
「マスター。王都の騎士団から、『王都近郊のダンジョンで、行方不明となった貴族の子息の救出』依頼が出ています。このダンジョンは、レオンたちがかつて『雑用がいない』と撤退した、最も複雑な罠と情報が入り組んだ場所です」
「そして……」リリは瞳を細めた。「私の解析結果、暗殺組織『血の断罪』の狙撃部隊が、このダンジョン内部でマスターを待ち伏せする準備を進めています。レオンは、この依頼を公開処刑の舞台に選んだようです」
「フフフ……!」アステラが、喜びに満ちた、血に飢えた笑みを漏らした。「暗殺組織!我が剣の献身を捧げるにふさわしい、最高の獲物です!」
アステラは、クロノの前に剣を突き立て、熱烈に訴える。
「マスター。彼らは卑怯な待ち伏せを選ぶでしょう。その時こそ、我の流星剣が、奴らの隠れた場所ごと一閃します。マスターの真の強さと支配者としての格の違いを、王都の闇に刻み込みましょう!」
クロノは、レオンの殺意、そして英霊たちの過剰な警護と溺愛を受け止め、静かに立ち上がった。
「分かった。レオンが選んだ舞台で、僕たちが王都の英雄となる。そして、彼らが僕に何を仕掛けたところで、全てが無駄だと知らしめてやる」
クロノは、四人の英霊たちを従え、王都の騎士団を通じて、その高難度救出依頼を受注した。彼らが向かうダンジョンは、かつて『雑用係』なしでは攻略不可能とされた、複雑な迷宮。
公開処刑の舞台は整った。しかし、処刑されるのは、クロノではない。最強の英霊ハーレムを率いるクロノの、華麗なる反撃が、今、王都の衆人環視の下で始まろうとしていた。
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