表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/53

#47 激戦


俺たちは、ついに地下9階へ辿り着いた。


空気が重い。妙な緊張感が辺りに漂っている。


薄暗い廊下の奥から、2つの影が静かに、一定の歩幅で近づいてくる。


――予想はしていた。

当たってはほしくなかったが。


青白い非常灯が揺れ、強化スーツの黒が光を吸い込んだ。


「特殊強化型兵士001、ライアン・ハリス」

「特殊強化型兵士002、キャプテン・ドレイク」


かつて戦ったことがある2人。

だが以前の彼らとは纏う雰囲気が違っていた。


「我々がゼロ・ガード。

 最後にして──最大の守護者」


無機質すぎる声。感情の欠片もない。それが逆に恐ろしい。


ライアンはプラナ耐性チップを持つ最強のエージェント。

以前ですら手を焼いた相手だ。

それに今は、二刀のパルス・ギアを携え、青白い光刃が空気を震わせていた。


だが、それ以上に──背筋を冷やしたのはドレイクだった。


あの時、師匠のプラナで強化されたウェーブを浴びたはず。

普通なら後遺症は残る。実際、他のエージェントは明らかに乱れがあった。


なのに。


ドレイクは、何事もなかったかのように、鋭い眼光で俺を見ていた。

巨大な剣を構えるその佇まいは、隣にいるライアンそっくりだった。


「……厄介だな」


俺は無意識に呟いた。声が震えそうになる。


ライアンは一歩前に出て告げる。


「よくここまで来た、レイ・シンクレア」


別に褒めている訳ではないだろう

単なる音の羅列。


「だが──ここで終わりだ」


ライアンが武器を構えた瞬間、空気が割れる音がした。

二刀のパルス・ギアが完全に起動し、青白い軌跡が残像を引く。


ドレイクもまた、巨大な剣を肩に担ぎ上げる。

その動きには、重さを感じられなかった。

殺意だけが静かに増していく。


出し惜しみをしている余裕はない。

俺が、プラナ・ブレードの柄を握ろうとしたその時――


ミラが俺の前に出た。


「レイ。先に行け」


「待ってください。あの2人は──」


「時間がない」


横からルナが言葉を継ぐ。彼女の瞳はいつになく真剣だった。

更にカイが続けた。


「完全統合計画を止められるのは、あなただけよ」


人類解放戦線のメンバーが次々に俺の横を通り過ぎ、前へ出る。

その表情は、足止めを買って出たジンたちと同じだった。


胸が熱くなる。


「行け。アヤを救うんだろ?」

マルコスがニヤリと笑う。


「ここは任せろ」

チェスターも笑っていた。


その笑顔が──逆に辛い。

彼らが命を賭ける覚悟を、俺は痛いほど理解しているから。


「……ありがとう。

 必ず……必ず成功させる」


「行って」


ルナが震える声でそう言った瞬間、ミラたちは同時に動いた。


「ブラスト・ショット!」

「ストリーム!」

「フレアバースト!」


3つの攻撃が閃光となり、ライアンとドレイクへ突き刺さる。


「今だ、レイ!!」

マルコスが叫ぶ。


俺は仲間たちの背中を見た。

全員が俺のために剣を振るい、力を放ち、命を懸けている。


「……みんな、ありがとう」


プラナを練り、身体強化を一気に高める。


そして、駆けた。


仲間たちが作った時間を無駄には出来ない。

俺は前だけを見て走った。


---


背中に、激しい戦闘音が響く。

剣戟、炸裂、悲鳴、怒号──全てが混じり合った不快な音だった。


「ディスク・アーツ《メテオフォール》」

「ディスク・アーツ《サンダーストーム》」


「シールド!!」

「ストリーム!!」


響き渡る声。

――あの2人を相手にして、ただではいられないだろう。


振り返りたい。

だが振り返れば、戻ってしまう。


──絶対に戻れない。


俺は走り続けた。胸が苦しいのは走っているせいではない。

背後の仲間の叫びを聞くたび、心臓が締めつけられる。


「いや、今は前を向くんだ」


自分に言い聞かせる。


――そして、地下10階。


長い長い階段を降りていく。

ようやく降りきった先には巨大な装甲扉があった。

ここが、コア・プロセッサへの最終ゲート。


「ついに、ここまで……!」


深呼吸をする。

階段の上からは、まだ微かに戦闘音が聞こえている。


(……頼む。みんな、どうか)


焦る気持ちを落ち着け、俺は扉に手を置いた。


「……パルス」


意識が電子回路に接続され、脳内に膨大なデータが流れ込む。

扉の制御システムが、俺の精神を押し戻そうとする。


「開け」


脳内で命令をするが、抵抗は激しい。

頭がズキズキと痛む。


だが──


(諦めてたまるか)


仲間の顔が浮かぶ。

ミラ、ルナ、カイ、そしてレジスタンスの仲間たち。

そして師匠オルフェン。


戦って、守って、ここまで繋いでくれた。


「……みんなの想いを、無駄にはしないッ!!」


プラナが爆発するように輝き、俺は精神力で強引に制御システムを捻じ伏せた。


ギギギ……ッ!!


巨大な装甲扉が、ゆっくりと開き始める。

その時だった。


背後から聞こえていた戦闘音が、止まったような気がした。


胸が締めつけられた。

今にも戻りたくなるのを、堪える。


「みんな……死ぬなよ」


――そして最後の扉が開かれた。


---


ミラ、ルナ、カイ。

そしてマルコスたちレジスタンスメンバーが、ライアンとドレイクに立ち向かっていた。


「シールド!!」

カイが叫ぶ。


ライアンの二刀が縦横無尽に襲い、障壁に波打つほどの衝撃で叩きつけられた。

強化チップのおかげか、どんなに激しく動いても疲労の色が見えない。


「ストリーム──ッ!!」

ルナがドレイクへ攻撃を放つ。


しかし、ドレイクは巨大な剣を軽々と振るい、それを弾き返した。

図書館防衛戦で強化されたプラナ・ウェーブを浴びたのに、その痕跡すら感じられない。


「……再調整、ってやつか……くそっ」

ミラが舌打ちする。


レジスタンスメンバーの連携攻撃が次々に繰り出されるが──

ライアンも、ドレイクも、全てを最小の動きで紙一重に回避する。


「「ブラスト!!」」

「「ストリーム!!」」

「「フレア!!」」


複数の攻撃が同時に襲いかかる。

だが相手の2人は、それを当然のように避けていく。


「このままでは……!」

レジスタンスの1人が怯えた声を上げた瞬間。


ドレイクの剣が振り下ろされた。


「危ない!」


ミラが咄嗟に「シールド」で庇う。

しかし衝撃で彼女は数メートル吹き飛ばされ、床に転がった。


「ミラ!!」

ルナが叫ぶ。


「……大丈夫……まだ、戦える……ッ」

ミラは震える足で立ち上がる。


ルナもすでに限界に近い。

カイも、血を拭いながら構えを取り直した。


「時間を稼ぐだけ………それだけでいい……!」

ルナが言えば──


「……レイがコアを止めるまでだ。簡単だろ?」

ミラが笑う。


「その通りですね」

カイが頷く。


3人は──再び構えを取った。


相手がどんな怪物でも。

自分たちの命がどうなろうとも。


守るべきものの為なら、迷う理由などなかった。


---


「ダブル・アーツ《サンダーストーム》《エクスプロード》」

「ダブル・アーツ《パワースラッシュ》《パワースイング》」


ライアンの爆撃が、ドレイクの斬撃が。

壁と床をまるで紙のように抉っていく。


カイは息を荒げながら「ストリーム」を放ったが、出力は目に見えて落ちていた。


「くっ……もう、限界……」


「カイ、下がれ!」

ミラが叫び、身を投げ出すように盾を形成する。

次の瞬間、爆撃が直撃。

ミラは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「ミラ!!」


カイが駆け寄ると、彼女は血を流しながら笑おうとした。


「だ……大丈夫……ちょっと痛いが、な……」


大丈夫なわけがなかった。

プラナはほぼ枯れ、動くだけでも精一杯。

だが、カイの方も消耗は酷かった。脚は震え、呼吸も乱れている。


2人とも、この激しい戦闘に加わるのは厳しかった。


それを悟ったレジスタンスの仲間たちが、互いに目配せをした。

一人、またひとり。

ミラの前に立って障壁を重ねる。


「ミラ……カイ……」


マルコスが、覚悟を滲ませた声で言った。


「ここは俺たちが食い止める」


「え……?」


「2人はもう戦えねぇ。だから逃げろ」


「大丈夫。私が――」


「ルナは護衛だ」


彼の言葉に同意しようとしたルナの言葉は遮られた。

ミラの目が見開かれる。


「待て……それは――」


「俺たちだけじゃ、奴らは倒せねぇ」


チェスターが真剣な表情で続ける。

「でも、もう少しくらい足止めはできる」


「あ前たちはレジスタンスの中心だ。

 未来のために生き延びろ」


「でもそれじゃ皆が…」


「それは違います」

カイの言葉に別の青年が、弱く笑った。

震えながらも、確かな意思を宿した笑顔で。


「俺たちは無駄死にする訳じゃないです。

 未来を繋ぐんです」


「…バーンズ」


カイも涙を浮かべていた。

ミラは決断に迷った。しかし、彼らの目を見て理解した。


これは彼らの自由意志による選択。

ミラたちが政府と戦ってきた理由そのものだった。


「分かった。

 お前たちの想いは、必ず新しい社会に活かす」


「ありがとうございます」


ミラが頷く。

残ったマルコスたちが、ライアンとドレイクに突撃した。


「行くぞ?」


「「「フレア」」」

「「「ブラスト」」」


空気が震えた。

文字通り命を燃やしてプラナを高めた彼ら。

その攻撃が、ゼロ・ガードの2人に向かう。


「今!」


ルナの合図で、カイはミラの体を支えながら、階段へと駆け出した。

背後で、光が膨れ上がる。


「スプラッシュ!!」


ルナが振り向き様に、光に向かって水流を放つ。


そして――


「「フレアバースト」」


爆発。


轟音が世界を揺るがし、辺りが真っ白に染まった。


「く……そぉっ……!」

ミラの声は震えていた。


「こんなの……」

カイも泣いていた。

声にならない嗚咽が、階段を登るたびにこぼれ落ちる。


「今は行かなきゃ」

ルナの目にも光る雫があった。


だが3人は――止まらなかった。


---


階段を登り切り、地下8階に到達する。

だが、数歩歩いたところでカイが壁に手をついた。


「……ごめんなさい……みんな……」


ミラは肩で息をしながら、かすれた声で言った。


「未来のためにって言われた……なら……」


ミラは涙で濡れた目を拭った。

ルナが頷く。


「今は、……逃げないと」


その瞬間、通信機が震えた。


「ミラ……聞こえるか?」

ドクター・ヴァインの落ち着いた声。


「レイが、コア・プロセッサに到達した。

 もう……十分だ。撤退しなさい」


ミラは歯を食いしばった。


「……ああ。撤退する」


「博士…みんなが……」


カイの言葉は続かなかった。

その泣き声に、ヴァインは状況を察していた。


「そうか……なら尚更生き延びろ。

 これからの世界に……君たちの力は必要だ」


ルナは涙を拭った。


「博士……はい……!」


3人は焦燥感を胸に歩き出す。

足取りは重いが、一歩一歩、確実に。


そして、見つけてしまった。


ジンたちが無残な姿で倒れていた。

ルナが慌てて駆け寄る。


「まだ息がある人も……」

「救援を!」

「わかりました」


――彼女たちの戦いも、まだ終わらなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ