表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/54

#47 激戦

 俺たちは、ついに地下9階へ辿り着いた。だが空気は重く、妙な緊張感が辺りに漂っている。薄暗い廊下の奥から、2つの影が静かに、一定の歩幅で近づいてくた。

――予想はしていた。当たってはほしくなかったが。青白い非常灯の明かりが揺れ、その影が纏う強化スーツの黒が光を吸い込んだ。


「特殊強化型兵士001、ライアン・ハリス」

「特殊強化型兵士002、キャプテン・ドレイク」


 かつて戦ったことがある2人。だが以前の彼らとは纏う雰囲気が違っていた。


「我々がゼロ・ガード。

 最後にして──最大の守護者」


 無機質すぎる声、感情の欠片もないその音の羅列が逆に恐ろしい。ライアンはプラナ耐性チップを持つ最強のエージェント…以前ですら手を焼いた相手だ。それが今は、二刀のパルス・ギアを携え、青白い光刃が空気を震わせていた。

 だが、それ以上に──背筋を冷やしたのはドレイクだった。あの時、師匠のプラナで強化されたウェーブを浴びたはずで、普通なら後遺症が残っている。実際、他のエージェントは明らかに乱れがあった。

 なのに…ドレイクは、何事もなかったかのように、鋭い眼光で俺を見ていた。巨大な剣を構えるその佇まいは、隣にいるライアンそっくりだった。


「……厄介だな」


 俺は無意識に呟いた。その声が震えそうになる。

 ライアンは一歩前に出て告げた。


「よくここまで来た、レイ・シンクレア」


 別に褒めている訳ではないだろう。単なる音の羅列。


「だが──ここで終わりだ」


 ライアンが武器を構えた瞬間、緊張が高鳴り、空気が割れる音がした。二刀のパルス・ギアが完全に起動し、青白い軌跡が残像を引く。ドレイクもまた、巨大な剣を肩に担ぎ上げる。その動きには、重さを感じられなかった。殺意だけが静かに増していく。

 出し惜しみをしている余裕はない。俺が、プラナ・ブレードの柄を握ろうとしたその時――ミラが俺の前に出た。


「レイ。先に行け」


「待ってください。あの2人は──」


「時間がない」


 横からルナが言葉を継ぐ。その彼女の瞳はいつになく真剣だった。更にカイが続けた。


「完全統合計画を止められるのは、あなただけよ」


 人類解放戦線のメンバーが次々に俺の横を通り過ぎ、前へ出る。その表情は、足止めを買って出たジンたちと同じだった――思わず胸が熱くなる。


「行け。アヤを救うんだろ?」

 マルコスがニヤリと笑う。


「ここは任せろ」

 チェスターも笑っていた。


――だが、その笑顔が逆に辛い。彼らが命を賭ける覚悟を、俺は痛いほど理解しているから。


「……ありがとう。必ず……必ず成功させる」


「行って」


 ルナが震える声でそう言った瞬間、ミラたちは同時に動いた。


「ブラスト・ショット!」

「ストリーム!」

「フレアバースト!」


 3つの攻撃が閃光となり、ライアンとドレイクへ突き刺さる。


「今だ、レイ!!」

 マルコスが叫ぶ。


 俺は仲間たちの背中を見た。全員が俺のために剣を振るい、力を放ち、命を懸けている。


「……みんな、ありがとう」


 プラナを練り、身体強化を一気に高める。そして、駆けた。仲間たちが作った時間を無駄には出来ない。俺は前だけを見て走った。


---


 背中に、激しい戦闘音が響く。剣戟、炸裂、悲鳴、怒号──全てが混じり合った不快な音だった。


「ディスク・アーツ《メテオフォール》」

「ディスク・アーツ《サンダーストーム》」


「シールド!!」

「ストリーム!!」


 響き渡る声――あの2人を相手にして、ただではいられないだろう。

 振り返りたい。だが振り返れば、戻ってしまう──絶対に戻れない。


 俺は走り続けた。胸が苦しいのは走っているせいではない。背後の仲間の叫びを聞くたび、心臓が締めつけられる。


「いや、今は前を向くんだ」


 自分に言い聞かせる。


――そして、地下10階。


 長い長い階段を降りていく。ようやく降りきった先には巨大な装甲扉があった。ここが、コア・プロセッサへの最終ゲート。


「ついに、ここまで……!」


 深呼吸をする。階段の上からは、まだ微かに戦闘音が聞こえている。


(……頼む。みんな、どうか)


 焦る気持ちを落ち着け、俺は扉に手を置いた。


「……パルス」


 意識が電子回路に接続され、脳内に膨大なデータが流れ込む。扉の制御システムが、俺の精神を押し戻そうとする。


「開け」


 脳内で命令をするが、抵抗は激しい。頭がズキズキと痛む。だが──


(諦めてたまるか)


 仲間の顔が浮かぶ。ミラ、ルナ、カイ、そしてレジスタンスの仲間たち。そしてオルフェン師匠。…共に戦って、守って、ここまで繋いでくれた。


「……みんなの想いを、無駄にはしないッ!!」


 プラナが爆発するように輝き、俺は精神力で強引に制御システムを捻じ伏せた。


ギギギ……ッ!!


 巨大な装甲扉が、ゆっくりと開き始める…その時だった。背後から聞こえていた戦闘音が、止まったような気がした。

 胸が締めつけられた。今にも戻りたくなるのを、堪える。


「みんな……死ぬなよ」


――そして最後の扉が開かれた。


---


 ミラ、ルナ、カイ。そしてマルコスたちレジスタンスメンバーが、ライアンとドレイクに立ち向かっていた。


「シールド!!」

 カイが叫ぶ。


 ライアンの二刀が縦横無尽に襲い、障壁に波打つほどの衝撃で叩きつけられた。強化チップのおかげか、どんなに激しく動いても疲労の色が見えない。


「ストリーム──ッ!!」

 

 ルナがドレイクへ攻撃を放つ。しかし、ドレイクは巨大な剣を軽々と振るい、それを弾き返した。図書館防衛戦で強化されたプラナ・ウェーブを浴びたのに、その痕跡すら感じられない。


「……再調整、ってやつか……くそっ」

 ミラが舌打ちする。


 レジスタンスメンバーの連携攻撃が次々に繰り出されるが──ライアンも、ドレイクも、全てを最小の動きで紙一重に回避する。


「「ブラスト!!」」

「「ストリーム!!」」

「「フレア!!」」


 複数の攻撃が同時に襲いかかる。だが相手の2人は、それを当然のように避けていく。


「このままでは……!」

 レジスタンスの1人が怯えた声を上げた瞬間――ドレイクの剣が振り下ろされた。


「危ない!」


 ミラが咄嗟に彼を「シールド」で庇う。しかし衝撃で彼女は数メートル吹き飛ばされ、床に転がった。


「ミラ!!」

 ルナが叫ぶ。


「……大丈夫……まだ、戦える……ッ」

 ミラは震える足で立ち上がる。


 だが、ルナもすでに限界に近い。カイも、血を拭いながら構えを取り直した。


「時間を稼ぐだけ………それだけでいい……!」

 ルナが言えば──


「……レイがコアを止めるまでだ。簡単だろ?」

 ミラが笑う。


「その通りですね」

 カイが頷く。


 3人は──再び構えを取った。相手がどんな怪物でも。自分たちの命がどうなろうとも。守るべきものの為なら、迷う理由などなかった。


---


「ダブル・アーツ《サンダーストーム》《エクスプロード》」

「ダブル・アーツ《パワースラッシュ》《パワースイング》」


 ライアンの爆撃が、ドレイクの斬撃が、壁と床をまるで紙のように抉っていく。カイは息を荒げながら「ストリーム」を放ったが、出力は目に見えて落ちていた。


「くっ……もう、限界……」


「カイ、下がれ!」


 ミラが叫び、身を投げ出すように盾を形成する。次の瞬間、爆撃が直撃。ミラは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「ミラ!!」


 カイが駆け寄ると、彼女は血を流しながら笑おうとした。


「だ……大丈夫……ちょっと痛いが、な……」


 大丈夫なわけがなかった。プラナはほぼ枯れ、動くだけでも精一杯。だが、カイの方も消耗は酷かった。脚は震え、呼吸も乱れている。

――2人とも、この激しい戦闘に加わるのは厳しかった。それを悟ったレジスタンスの仲間たちが、互いに目配せをした。一人、またひとり、ミラの前に立って障壁を重ねる。


「ミラ……カイ……」


 マルコスが、覚悟を滲ませた声で言った。


「ここは俺たちが食い止める」


「え……?」


「2人はもう戦えねぇ。だから逃げろ」


「大丈夫。私が――」


「ルナは護衛だ」


 彼の言葉に同意しようとしたルナの言葉は遮られた。ミラの目が見開かれる。


「待て……それは――」


「俺たちだけじゃ、奴らは倒せねぇ」


 チェスターが真剣な表情で続ける。


「でも、もう少しくらい足止めはできる」


「あ前たちはレジスタンスの中心だ。

 未来のために生き延びろ」


「でもそれじゃ皆が…」


「それは違います」


 カイの言葉に別の青年が、弱く笑った。震えながらも、確かな意思を宿した笑顔で。


「俺たちは無駄死にする訳じゃないです。

 未来を繋ぐんです」


「…バーンズ」


 カイも涙を浮かべていた。ミラは決断に迷った。しかし、彼らの目を見て理解した。これは彼らの自由意志による選択。ミラたちが政府と戦ってきた理由そのものだった。


「分かった。

 お前たちの想いは、必ず新しい社会に活かす」


「ありがとうございます」


 ミラが頷く。残ったマルコスたちが、ライアンとドレイクに突撃した。


「行くぞ?」


「「「フレア」」」

「「「ブラスト」」」


 空気が震えた。文字通り命を燃やしてプラナを高めた彼ら。その攻撃が、ゼロ・ガードの2人に向かう。


「今!」


 ルナの合図で、カイはミラの体を支えながら、階段へと駆け出した。背後で、光が膨れ上がる。


「スプラッシュ!!」


 ルナが振り向き様に、光に向かって水流を放つ。そして――


「「フレアバースト」」


 爆発。轟音が世界を揺るがし、辺りが真っ白に染まった。


「く……そぉっ……!」

 ミラの声は震えていた。


「こんなの……」

 カイも泣いていた。声にならない嗚咽が、階段を登るたびにこぼれ落ちる。


「今は行かなきゃ」

 ルナの目にも光る雫があった。


 だが3人は――止まらなかった。


---


 階段を登り切り、地下8階に到達する。だが、数歩歩いたところでカイが壁に手をついた。


「……ごめんなさい……みんな……」


 ミラは肩で息をしながら、かすれた声で言った。


「未来のためにって言われた……なら……」


 ミラは涙で濡れた目を拭った。隣でルナが頷く。


「今は……逃げないと」


 その瞬間、通信機が震えた。


「ミラ……聞こえるか?」

 ドクター・ヴァインの落ち着いた声。


「レイが、コア・プロセッサに到達した。

 もう……十分だ。撤退しなさい」


 ミラは歯を食いしばった。


「……ああ。撤退する」


「博士…みんなが……」


 カイの言葉は続かなかった。その震える声に、ヴァインは状況を察していた。


「そうか……なら尚更生き延びろ。

 これからの世界に……君たちの力は必要だ」

 

 ルナが涙を拭って答える。


「博士……はい……!」


 3人は焦燥感を胸に歩き出す。足取りは重いが、一歩一歩、確実に…そして、見つけてしまった。

 

 ジンたちが無残な姿で倒れていた。そこにルナが慌てて駆け寄る。


「まだ息がある人も……」

「救援を!」

「わかりました」


――満身創痍の彼女たちの戦いも、まだ終わらなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ