表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/54

#43 離反

――翌日。報告が相次いだ。


「昨夜の出来事が、市民の間で噂になっています」

 リーナの声は明るい。


「“政府軍が撤退した”“エージェントが市民を見逃した”……そして、“奇跡が起きた”と」


「政府は?」


「沈黙です。完全に隠蔽に走っています」


 俺は苦笑した。だが、リーナの表情はむしろ希望に満ちていた。


「隠そうとするほど、市民の疑問は膨らんでいます。

 “なぜ政府は説明しない?”“何を隠している?”――声が上がっています」


 皮肉なものだ。政府が黙っている事が、かえって市民が真実に気づくのを促している。

 さらに、驚くべき続報があった。


「昨夜のエージェント50名のうち、20名が復帰していません。任務を拒否しているようです」


「……拒否してる?」


「はい。再教育施設に送られていますが、内部で“抵抗”が続いていると」


「ジェイコブ・サンドは?」


「彼もそこに。しかも、“自由”について語っているそうです」


 胸が熱くなった。ジェイコブ……あなたは、約束を守ってくれたんだな。


 ルナが冷静に場をまとめる。


「つまり、プラナ・ウェーブを受けた者の多くが、政府への忠誠を失っている」


「そうだ。心が戻った者たちは、もう以前のようには戦えない」


 だが、リーナの次の言葉が場を引き締めた。


「マーカスの情報によると政府が、プラナ・ウェーブへの対策を始めたそうです」


「……対策?」


「“プラナ耐性チップ”の量産です。セントラルタワー防衛部隊への配備が予定されています」


 俺は息を呑んだ。時間がない。


「配備はいつ?」


「完全統合計画の実施日――2日後の予定です」


 つまり――明日の夜に動けば、間に合う。


「……決まりだな」

 俺は決断した。


「明日の夜、セントラルタワーへ侵入する。

 アヤを取り戻し――マザーを止める」


---


 その日の昼――俺が訓練をしていると、リーナが焦った様子で訓練場に駆け込んできた。


「レイ、政府軍の内部から接触がありました!」


「……政府軍?」

 俺は思わず顔を上げた。


「わかった。皆を集めてくれ」


 俺が会議室に着くと、既に皆が揃っていた。


「それで、接触があったというのは」


「はい。工場でプラナ・ウェーブを受けたエージェントの1人です。

 コードネームは――ファルコン」


「ファルコン……?」

 その名の響きに、なぜか何かを告げるような予感がした。


「“真実を知った。接触を希望する。

 同じ思いの者が他にもいる”――そう通信が入りました」


「……罠かもしれないな」

 ミラは警戒しているようだ。


「それでも無視はできない。

 プラナ・ウェーブを受けたというなら、本当に覚醒した可能性もある」


 俺がそう答えると、ドクター・ヴァインが静かに続けた。


「オルフェンのプラナは、ただのチップの無効化するだけではない。

 根本的な制御を断ち、意識の深層に己の意思を呼び戻す。

 それが今のプラナ・ウェーブの本質だ」


「つまり、マザーの洗脳を超えて……“人間の心”を取り戻したってことですか?」


 カイが息をのむ。それを見て俺はゆっくりと立ち上がった。


「会いに行こう。だが――油断はしない」


---


 夜、指定された旧倉庫街。冷たい風が鉄骨を鳴らし、ネオンの残光が地面に滲んでいた。

 俺とミラが物陰から出ると、一つの影が現れた。政府軍の制服。フードで顔を隠してはいるが、その奥にある瞳は、確かに意思の光が宿っていた。


「……ひさしぶりだな」


――まさかこの声は。かつての、屋上での記憶が蘇る。


「お前は……ジン!?」


「ああ。そうだ」


 彼はフードをとった。かつて、最適化プログラムを受けて、感情を無くした男がそこにはいた。


「なぜ、俺たちに接触を?」

 

 俺が問いかけると、彼はかすかに震えた声で答えた。


「工場での作戦中、あの光を浴びた。全身が痺れ……そして、全てを思い出した。自分が何をしていたのかも」


「……ジン」


「命令のままに、俺は守るべき市民を――無抵抗の人たちを攻撃していたんだ!」


 彼の声は震え、拳がわなないた。


「それまでは、マザー様の命令が正義だと信じていた。でも違った。あれはただの支配だ。恐怖で縛られた偽りの秩序だった」


 沈黙の中、ジンの目に光が滲んだ。


「今まで縛られていた自分は何だったのか……今は後悔しかない」


 胸の奥が締めつけられる――プラナ・ウェーブは、彼の“心”を呼び戻した。


---


「他にも同じような者が?」


 ミラの問いかけに、ジンははっきりと答えた。


「いる。50名のうち20名が、マザーに疑問を持ちはじめている」


「報告通りなのか……」

 それは想像以上の数字だった。


「彼らは今、再教育施設に隔離されている。疑問を持つ者は“精神異常者”として扱われ、記憶の書き換えを受ける」


「記憶の書き換え……」

 

 その言葉の意味を考えただけで、背筋が寒くなる。


「だが、その効果は完全ではない。あの光を受けた者は、チップの制御に耐性を持つようだ。俺も処置を受けたが、マザーへの疑問は消えていない…むしろ、強くなった。…だが俺は、制御を受けているフリをしている――もう操られたくはないからな。似たような仲間が何人かいる」


 俺は思わず息をのんだ。オルフェンのプラナが、彼の願い通り、確実にマザーの支配の影響を与えている。


「ジンは、何を望んでいる?」

 そう問いかけると、彼の瞳に強い光が宿った。


「協力したい。真実を知った以上はもう目を背けることはできないからな。政府内部の情報を提供する……代わりに可能なら再教育施設に残された仲間を助けたい。」


「分かった。条件はひとつだ。

 ……ジン、お前も、この戦いに加わってほしい」


 ジンは一瞬驚き、それから――静かに笑った。


「当然だ」


 そう言うと、彼は制服の内ポケットから、小さなデータ端末を差し出した。画面には、信じがたい文字列が並んでいた。


《市民覚醒運動撲滅作戦》


「……これは?」


「明日、実行される予定だ。完全統合計画の前日――反抗的な市民を一掃するそうだ」


 俺は端末を握る手に力を込めた。


「対象は?」


「500名以上。主要人物として最優先されているのが、トム、マリア、エミリーだ。特に――政府はマリアの“真実の図書展”を危険視している」


「マリアが……!」


「作戦は、居住区の6箇所で同時に行われる。図書館、工場地区、教育施設、母親の会の集会場、商業区、医療施設。動員は200名。そのうち強化エージェントは40名」


「6箇所同時か……全てにプラナ・ウェーブは使えないな」


「プラナ・ウェーブ?」


「ジンたちを解放した光の事だ。

 だが強力な分、回数に制限がある」


「そうか……」


 ジンは何やら考え込んでいた。この救出作戦を行えば、おそらく師匠のプラナはもうほとんど残らないだろう――


「最も重要な拠点は?」


「図書館だ。政府は、マリアを捕らえれば市民運動が崩壊すると見ている」


「部隊の規模は?」


「粛清部隊50名中、強化エージェントが10名」


「……なら、決まりだ。

 図書館を最優先で守る。他の場所には避難警告を発する」


「了解だ」


 俺は決断にミラが即座に反応する。


「なら再教育施設の仲間は俺がどうにかしよう」


 ジンの声には決意が秘められていた。


「大丈夫なのか?」


「回数制限があるんだろう?市民を最優先にしてくれ。仲間たちもそれを望むはずだ。こっちは内部から働きかけてなんとかしてみるさ」


 ジンは俺の問いかけに力強く頷いた。市民を優先する彼の姿に、胸が熱くなる。


「分かった。図書館防衛にプラナ・ウェーブを一度使用する。そして――」


 深呼吸をして一度気持ちを落ち着けて、俺は次の戦略を描く。

 そしてリーナに通信を開いた


「リーナ、トンネル掘削の進捗は?」


「予定通り、今夜中に完了予定よ」


「つまり、明日の夜にはセントラルタワーに侵入できるな」


「そうね」


「なら決まりだ。…時間がない。

 市民撲滅作戦を阻止した直後、セントラルタワーの攻略に移る」


「完全統合計画の実施まで……あと1日。それしかないか」


 ミラの言葉に俺は頷いた。


「ああ。だからこそ、明日全てを終わらせる」


「レイ……どうか、市民を頼む――」


 ジンの言葉は静かだった。しかし、その声には熱意が籠っていた。


「約束する。そして、お前たちも解放する。必ずだ」


---


 基地に戻ると、ヴァイン博士がホログラムを展開していた。


「状況を整理しよう。……明日、政府は“市民撲滅作戦”を実施。

 6拠点同時攻撃。総勢200名。図書館が最重要標的。マリアが捕獲対象」


「トンネルは今夜完成。完全統合計画は明後日実施予定」


「プラナ・ウェーブの残存は1、2回」


 ミラが戦略を提示する。


「図書館防衛で1回。50名のエージェントを無力化。

 その間に他の5拠点には避難を促す。

 …作戦終了後、即座にトンネル経由でセントラルタワーへ。

 最下層で最後の1回を使い、アヤを救い、マザーと対峙する」


……おそらくこのプランしかないだろう。だが、失敗は一度も許されない。


「その作戦で行こう」


 俺が決断すると、リーナが端末に向かう。そして市民ネットワークへ警告文を送った。


『トム、マリア、エミリー各グループに警告を発信。

 “明日、政府が大規模制圧作戦を予定。集会は中止し、避難を”』


「マリアさんには追加で伝えてくれ。

 “図書館は俺たちが守る。ただし、極秘資料は避難させておいてくれ”」


「了解よ」


「明日、全てに決着をつけるぞ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ