表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/53

#39 救出作戦 


48時間後。

ついに、プラナ・ウェーブ発生装置が完成した。


地下工房の奥、照明が青白く反射する中に、それは鎮座していた。

高さ2メートル、直径1メートルほどの金属製円筒。

表面には旧世界の文様が刻まれ、中央には淡く脈動するプラナ結晶。

――それはまるで生き物の心臓のように鼓動していた。


「……これが、俺たちの切り札か」


思わず息を呑む。

ここまでの道のりを思えば、ただの機械だとは思えなかった。


「ついに完成したな」

ドクター・ヴァインが満足そうに頷いた。

彼の白衣は煤に汚れ、目の下には濃いクマが刻まれている。

それでも、誇らしげな笑みは隠せなかった。


「各部の動作確認は?」

俺が尋ねる。


「完璧です。共振回路も、周波数制御も問題なし。

 理論通り、チップ制御信号を上書きできるはずです」


「装置は3分割構造。運搬車で現地へ。15分で組み立て可能です」


デビットの説明にセシリアが補足する。


「冷却時間は3時間。

 連続使用は不可能ですが、耐久性が十分です」


彼らの声を聞きながら、俺の胸は熱くなった。

――これで、俺たちはチップの制御を断ち切れる。


「いよいよだな」


「ああ、今夜だ」

オルフェンが現れた。

表情はいつも通り冷静だが、瞳の奥には決意の炎が宿っている。

「西部基地メンバーの救出作戦を決行する」


---


作戦室。

壁に投影された拘置施設の構造図を前に、俺たちは円卓を囲んでいた。


「標的は居住区北部の拘置施設。西部基地の仲間12名が収容されている」

オルフェンの声が室内に響く。


「警備は強化エージェント3名、通常8名。中庭を制圧できれば、内部は一気に瓦解する」


「プラナ・ウェーブの射程は?」


「半径100メートル。

 外壁から発動しても、施設全域を覆えるはずだ」


カイの質問にヴァインは淡々と答える。

だが、オルフェンの表情は険しかった。


「問題は――ライアン・ハリスだ。政府の特殊強化型エージェント。

 EE計画の最新モデルでプラナ耐性チップを搭載している。

 …つまり、ウェーブが効かない可能性がある」


ミラが眉をひそめた。

「正面衝突は避けられない、ってことだな」


「私とミラで引き受ける」

ルナが言った。

「レイは装置の操作とコネクトに集中して」


「……了解」

俺は静かに頷いた。


「作戦開始は22時。すべては、そこからだ」

オルフェンが告げると、室内の誰もが黙って立ち上がった。

静かな中にも、確かに闘志が宿っていた。


---


2時間後、俺たちは暗い夜道を走っていた。

拘置施設へ向かう輸送車の中、分割された装置が振動で揺れていた。


「調子はどうだ?」


「……正直に言って、めちゃくちゃ緊張してる」


そう運転席のミラが笑うと、俺は苦笑しながら答えた。


「当然だな。これはただの救出作戦じゃない。

 今後の試金石になるからな」


ルナが後部モニターを確認して言う。

「政府の追跡なし。今のところ、順調」


俺はプラナ・ブレードを手に取り、静かに刃を磨いた。

その青白い光が、車内の暗闇を照らす。


――アヤ、待ってろ…今度こそお前を取り戻す。


その狼煙が今夜上がる。


---


施設外壁前。

冷たい風が吹き抜け、緊張が肌を刺した。


「組み立て開始」

俺の号令で各チームが動き出す。

分割された装置が次々と連結され、淡い光を放つ円筒が姿を現した。


「稼働確認、オールグリーン」

カイの声。


「内部の反応も検知。強化エージェント3、通常8。収容者は地下」

ルナが続けた。


「行くぞ。外壁を破砕する」

ミラが壁に向けて銃口を向けた。


「ブラスト・ショット」


爆ぜるような青白い閃光が走り、分厚い壁が一瞬で吹き飛ぶ。


警報音。

赤い光が点滅し、施設中に緊張が走る。


「プラナ・ウェーブ、発動!」


俺は装置の結晶に手をかざした。

次の瞬間、全身のプラナが流れ込み、空気が震えた。

青い光が爆発的に広がり、世界が光に包まれる。


――来た!


見えない波動が周囲に広がり、地面が微かに震える。

施設内部で、エージェントたちが苦悶の声を上げた。


「システム異常……制御不能……!」


「何が、起きて……いる……」


強化エージェント2名がその場で膝をつく。

その目に、確かに困惑の色が宿っていた。


「成功だ……!」

俺の胸に歓喜が走る。だが――。


「……侵入者、発見」


冷たい声が、瓦礫の向こうから響いた。


そこに立っていたのは、漆黒の強化スーツを纏った男。

鋭い灰色の瞳、静かに構えたパルス・ブレード。

その刀身が淡く光を放つ。


「特殊強化型兵士001、ライアン・ハリス」

彼は淡々と名乗った。


「精神耐性チップ、正常稼働。任務継続――対象排除を開始する」


平然としている姿に、俺たちの空気が凍りつく。

――これが、対策チップの効果なのか。


---


2人の強化エージェントが制御を失い、錯乱したように呻いていた。


「……不適合者による精神干渉を感知。

 標準型チップの無効化を確認」


だがそんな中、彼――ライアン・ハリスは淡々と呟いた。


瞬間、彼の手に収まったパルス・ギアが高周波を放ち、赤い光が閃く。

それはまるで、捕食者が牙を剥く瞬間のようだった。


「敵対勢力の排除を開始する」


低く冷たい声が、空気を切り裂く。


「来るわ!」


カイが叫ぶと同時にライアンが動いた。


「ディスク・アーツ《メテオフォール》」


次の瞬間、上空に無数の光球が出現し、隕石のように降り注いだ。

地面が爆ぜ、衝撃波が空間を歪ませる。


「シールド!」

俺は咄嗟に防御壁を展開したが――耐えきれない。

プラナの流出が一気に上がり、全身が焼けるように熱い。


「レイは装置の側を離れないで!カイはサポート!」

「了解!」


ルナの指示にカイが頷いた。


「私たちがライアンを引き受ける!」


ミラの言葉に、俺は歯を食いしばって頷いた。


---


「ルナ、一気にいくぞ」

「ええ」


ミラとルナが同時に跳び出した。

2人のプラナが交差し、青と白の閃光が夜を切り裂く。


「ブラスト!」ミラ光弾が炸裂し――

「ストリーム!」ルナの光の奔流が追撃する。


だが、その両方を、ライアンは最小限の身動きでかわしていた。

視線すら動かさず、まるで未来を読んでいるかのように。


「スプラッシュ!」


だが、そこにカイが水流を放つ。

さすがに避けきれなかったライアンは、後方へ押し流された。


「ブラスト・ショット」


ミラの銃から光の弾が連射され、ライアンはさらに距離をとる。


「目標の脅威レベルを修正。優先度を変更する」


ライアンの纏う空気が変わった。


「あっちの廃墟まで離れる」

「了解!」


ミラとルナは、連携を取りながらライアンを牽制していく。

ライアンは余裕を持って、その攻撃を捌いていた。

――まるで、データを収集するかのように。


「ディスク・ワード《クイック》」


空気が裂けた。

ライアンの身体が光の残像を引きながら加速し、次の瞬間にはルナの背後に回っていた。


「速いっ!」

ルナがなんとか反応し、プラナ・ブレードで受け止める。

パルスとプラナの光がぶつかり合い、火花が散った。


「くっ……!」


衝撃が広がり、空気が震える。


「ディスク・アーツ《サンダーボルト》」

雷光が走り、ルナを飲み込んだ。


「ルナっ!」

「シールドッ!」


辛うじて防御したルナだったが、吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。


「……はぁ、はぁ……クソ、こいつ――化け物」


ライアンはその様子を冷静に観察していた。


「対象の戦闘能力を評価。脅威レベル、中。戦術レベルを上げる」


冷酷な声が、まるで処刑の宣告のように響く。


「ディスク・アーツ《サンダーストーム》」


複数の雷撃が同時に放たれ、空気が爆音で震える。


「ミスト!」


ミラはとっさに霧を展開した。白い煙幕が一帯を覆う。


「今だ、ルナ!」


「分かってる」


2人は霧の中で息を潜め、包囲するように動いた。

しかし――。


「熱感知システム起動。対象の位置を特定」


ライアンの目が赤く光った。


「ディスク・アーツ《フレア》」


閃光が爆ぜ、霧が一瞬で焼き払われた。


「しまった――!」


ライアンの姿が霧の中から現れ、次の瞬間、鋭い光の斬撃がルナを襲う。


「ディスク・アーツ《スラッシュ》」


再度のプラナ・ブレードと激突。

火花が散り、ルナの足元の地面が砕けた。


「ぐっ……!」


「ブラスト・ショット!」

ミラのプラナの銃弾が側面から飛ぶ。


だがライアンは、それを感知していた。

軽く後方に跳び、2人の攻撃を同時にかわした。


「複数対象への同時対処が必要。戦術を変更する」

彼はそう呟くと、距離を取って構えを変えた。


「ディスク・アーツ《アイスランス》」


氷の槍が連続して放たれ、空気を切り裂く。

鋭い氷柱が、まるで弾丸のような速度で2人を襲った。


「シールド!」「シールド!」


2人は必死に防御するが、氷の破片が肌を裂き、血が飛んだ。


「チップ制御による最適化ねぇ……無駄がなくて嫌になるわ」

ミラが息を切らしながら呟く。


「こっちの動きを常に先読みしてるみたい」

ルナが歯を食いしばった。


その間も、ライアンは微動だにしない。

静かに2人を観察していた。

その異様な姿は、もはや戦闘兵器そのものだった。


---


俺は装置のそばで、混乱している2人の強化エージェントを見つめた。


今なら――コネクトできる。だが。


「レイ、コネクトを優先しろ」

通信機からオルフェンの声が飛ぶ。


「でも、2人が――」


「2人を信じろ。…時間との勝負だ。

 プラナ・ウェーブの効果が切れる前に、チップを解除しろ」


俺は唇を噛み、決断した。


「……了解」


深呼吸して、心を落ち着かせる。


「ウェイクアップ」


意識が極限まで研ぎ澄まされる。

俺は1番近くにいる強化エージェントに意識を向けた。


「コネクト」


プラナ・ウェーブに乗って、俺の意識が深層領域へ沈み込む。

灰色の精神世界の奥――そこに、彼の記憶があった。


『助けて……俺は……何をしてるんだ……?』


『家族に会いたい……妻と、子供に……』


『もう……誰も、殺したくない……』


その声は、途切れ途切れに震えていた。


「聞こえるか。今、チップの呪縛から解放する」


俺は制御回路に干渉し、ひとつひとつロックを解除していく。

抑圧された人格が少しずつ蘇る。光が闇を押し返していくのが見えた。


『……ありがとう……俺は……やっと……』


繋がりが切れる直前、男の声が微かに震えた。


---


ミラたちとライアンの戦闘は、さらに激化していた。


「戦闘効率の低下を確認。出力を最大化」

「トリプル・アーツ《メテオフォール》《サンダーストーム》《アイスランス》」


三種のアーツが同時展開され、空間そのものが爆ぜた。


「――っ、来るぞ!!」

「もう無茶苦茶」


「スプラッシュ!」「ミスト!」


水流と霧を生み出し、一瞬だけ視界を隠す。

それはすぐさま凍り付き、雷が弾ける。


だが、隕石のように降り注ぐ光弾までは防げなかった。


「「シールド!」」


障壁を貫き、爆風が2人を吹き飛ばす。

辺りに爆音が響いた。


「これはキツイ…」


壁にぶつかるのはなんとか「シールド」で防いた。

だが、2人に疲労が蓄積し始めていた。

一方、ライアンは全く疲れを見せない。


『時間稼ぎに徹しろ』

オルフェンの指示が飛ぶ。


『レイがコネクトを完了するまで持ちこたえるんだ』


「了解」


カイとミラは廃工場の内部構造を利用しながら、ライアンを引きつけ続けた。


---


俺は歯を食いしばり、再びコネクトを発動した。


2人目の強化エージェントの意識へ――。


闇の中、怯えるような声が響いた。

『助けて……もう、命令通りに動きたくない……』


「大丈夫だ。もうすぐ自由になれる」


俺は残りのプラナを注ぎ込み、最後の制御信号を解除した。


光が弾け、男の瞳に“感情の色”が戻る。


「ありがとう……本当に、ありがとう……」


彼は涙を流しながら俺を見た。


---


その頃、2人は限界を超えて戦い続けていた。


「ディスク・アーツ《エクスプロード》」


爆炎が爆発的に広がり、2人を飲み込む。


「スプラッシュ!」

「ブラスト・ショット!!」


ルナは咄嗟に水流を盾にし、ミラは銃撃で炎の残滓を吹き飛ばす。


「まだ……私たちは、負けてない」


「この程度で、止まるわけないだろうが!」


2人のプラナが再び輝く。

その光が、暗闇の中で一瞬だけライアンの無機質な瞳を照らした。


---


俺は2人目のコネクトを完了させ、息を吐いた。

解放された2人が立ち上がり、俺に頷く。


「俺たちも手伝います」

「収容区画への道を案内できる」


「助かる。行こう」


3人で地下へと走った。

背後では、雷鳴と炎がぶつかり合う轟音が響いていた。


収容施設の地下1階。

そこに西部基地のメンバー12名が拘束されていた。


「レイ!」

リーダーのチェスターが俺を見て、歓喜の声を上げる。


「助けに来た。今すぐ拘束を解く」


『急いで!』

そこにカイからの通信が入る。


『プラナ・ウェーブの効果、残り5分!』


「分かってる!」


急ぎ全員を解放し、脱出ルートへ誘導を始めた。


「救出完了!支援部隊は2分後に撤収開始!

 カイは2人の援護を!」

『わかったわ』


「ミラ、ルナ、それまで足止めを頼む」

『了解!』


通信の向こうから、2人の荒い呼吸が聞こえた。


発生装置は切り札だ――残していく訳にはいかない。

ギリギリだが、間に合うはずだ。


---


カイがミラたちに合流して、必死に足止めを続けていた。


「ディスク・アーツ《アイスランス》」


「ブラスト!!」

「「フレア!」」


ライアンの無数の氷の槍と、カイの放つ光弾。

そして2人の放つ火球がぶつかり合う。

死闘を続けていく内に、ミラとルナのプラナ・アーツは進化していた。


「ディスク・アーツ《サンダーボルト》」


「「ライトニング」」


雷撃と雷撃が周囲に弾ける。


「ストリーム!」


その隙をついてカイの光の螺旋を放つ。


「ディスク・ワード《バリア》


ライアンは障壁でそれを防ぐ。

ここに来て戦いは、一進一退の攻防を繰り広げていた。


---


「分離完了です!」

「よし、撤退開始!トーマスたちは護衛だ。

 急げ!」


支援部隊の撤退を見て、俺は3人と合流する。


「撤退だ!」


「了解!」

「やっとかよ!」

「でも、あいつどうするの?」


ライアンは再度現れた俺を警戒しているようだった。


「敵の増援を確認。戦術を変更する」


「させない」


俺は、残ったプラナを振り絞り、ミストで周囲を覆った。


「無駄だ。熱感知システム作動………補足不可。再度実行」


霧の中で3人に「プロテクト」をかけて、音や熱を遮断した。

そのまま一目散に撤退を開始する。


「ウォール」


霧の中に土の人影を作り出す。

――これで騙されてくれればいいが。

俺たちは、急ぎその場から離れた。


その直後。


「ダブル・アーツ《サンダーストーム》《エクスプロード》」


ライアンが霧ごと周囲を吹き飛ばしたが、その時は俺たちは基地から脱出していた。


「敵の逃亡を確認。基地の防衛任務に戻る」


---


「…なんとか振り切ったか!」


「まだ油断はできない。急ごう!」


後ろを確認するミラに、俺が叫ぶ。

俺たちはそのまま走り続け、旧世界の地下トンネルに飛び込む。


しばらくしてから、ようやく足を止めた。


「……全員、生きてるか?」

俺の問いに、チェスターが頷く。


「負傷者はいるが、全員無事だ」


ミラとルナは壁に背を預け、疲労困憊のまま座り込んだ。


「はぁ……マジで死ぬかと思ったわ」

ミラが息を吐く。


「でも、やり遂げた」

「あれが“特殊強化型”……想像以上ですね」


ルナが微笑むが、カイの表情は固い。

その言葉に俺は頷く。


「次に戦う時は、こちらにも対抗策が必要だな」


---


基地に戻ると、オルフェンが待っていた。


「西部基地メンバー12名、全員救出成功。

 強化エージェント2名の人格解放。装置は有効」


「ただし、ライアン・ハリスには効かなかった」

俺は報告を締めくくった。


「……やはりな」

オルフェンは深く息を吐いた。


「現在のプラナ・ウェーブでは、耐性チップを突破できない。

 ならば――対抗手段を作るしかない」


その瞳には、確かな決意があった。


「プラナ・ウェーブの改良を進める。同時に、“コネクト対策チップ”を解析する」


「そして――セントラルタワー攻略計画を始動する」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ