表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/53

#26 心の接続


アヤの攻撃が激化した。


感情的になった彼女の攻撃は、以前よりも荒々しく、威力も増している。


「トリプル・アーツ《ファイアショット》《サンダーボルト》《アイスランス》!」


炎、雷、氷。

三つの属性攻撃が、完璧な連携を取り俺を包囲する。


「シールド、全開!」


俺は全力でプラナを展開した。三重の障壁が俺を覆う。


だが、アヤの攻撃がそれを次々と破壊していく。

一層目が破られる。二層目が砕かれる。三層目がきしむ。


「保たない...」


その時、アヤが追撃してきた。


「ブラスト、ストリーム!」


プラナ・アーツの連続攻撃。彼女は一度見た俺の技をすべて使いこなしていた。

しかも、その威力は俺を遥かに上回っている。


「くそっ!」


俺の最後のシールドが破られた。アヤの攻撃が俺を直撃する。

光弾が俺の胸を打ち、プラナの奔流が俺を吹き飛ばす。

俺の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。


「がはっ!」


口から血が溢れる。――肋骨が折れたかもしれない。全身が痛い。


「これが...アヤの本気か」


俺は必死に立ち上がろうとした。

――だが、身体が言うことを聞かない。

倒れた俺にアヤが近づいてくる。

その目は、再び冷たく無機質になっていた。


「君の抵抗は終わりだ」

アヤが宣言した。


「これより捕獲を実行する」


「まだ...だ」


「何?」


「まだ...終わってない」


俺は最後の力を振り絞り、立ち上がった。

ウェイクアップ状態が限界に達している。これ以上は、命に関わるかもしれない。


――だが、俺は諦めない。


「君を...救うまでは」


俺はアヤを見つめた。彼女の目を、真っ直ぐに。


「俺は諦めない。何度でも立ち上がる」


アヤの表情が、わずかに変わった。


「なぜ...?」


「君が大切だからだ」

俺が答えた。


「君を愛してるからだ」


その言葉に、アヤの身体が震えた。


「愛...?」


「そうだ」


俺はゆっくりと歩き出した。

傷ついた身体を引きずりながら、アヤに近づく。


「だから、俺は諦めない」


「...」


アヤが動けなくなっている。

――彼女の中で、何かが戦っている。

マイクロチップの制御と、封印された記憶が。


「アヤ」

俺が彼女の目の前に立った。


「私は...私は...」

アヤの声が震えている。

彼女の目から、涙が流れ続けている。


――今こそ、コネクトを試すときだ。


「アヤ、君の心を取り戻す。…俺と君の心を繋げる」


長時間のウェイクアップに身体が軋む。

だが俺は、更にプラナを練り上げる。

体内のプラナが激しく燃え上がり、これまでにない集中状態に入る。


身体中の細胞が悲鳴を上げている。

――構わない。アヤを救えるなら、この命を賭けてもいい。


「コネクト」


俺がその言葉を発した瞬間、世界が一変した。


---


俺はアヤの記憶の中にいた。


周囲には無数の映像が浮かんでいる。

エージェント訓練所での日々、俺との会話、任務での出来事。

だが、それらの多くには鎖が巻き付いていて、大きな×印がつけられていた。


「これが...マイクロチップによる記憶操作なのか」


俺は愕然とした。

アヤの記憶は削除されてはいなかった――

アクセスが制限されているだけのようだった。


俺は記憶の1つから鎖を解いてみた。


『レイ、あなたは本当に特別よ』


訓練所でのアヤの声が蘇る。

彼女が俺を見つめる優しい目。その記憶には確実に感情があった。


「これだ」


俺は封印された記憶を次々と呼び覚まし始めた。

初めて会話した日、一緒に任務を遂行した日、そして俺を庇ってくれた日々。


だが、その時、俺の意識に激しい衝撃が加えられた。


『ノイズを感知。消去します』


マイクロチップの制御機能が俺を攻撃してきた。

アヤの記憶領域を守るための精神的な防衛機構なのだろう。


「うぐぐ……!」


俺は激痛に襲われたが、それでも記憶の復元を続けた。

アヤを救うためなら、どんな痛みでも耐える。


そして、俺は最も重要な記憶を見つけた。


『レイ...忘れないで...私を...』


初めてアヤと戦った時の最後の言葉。

これだけは記憶の奥底に隠されるように残っていた。

なぜなら、これは彼女が意識的に俺のために残した記憶だったから。


俺はその記憶を核にして、他の記憶の封印を解こうと試みる。


だが次の瞬間、俺の意識を焼くような衝撃が走った。

電撃に似た思念の奔流が、俺の精神を削り取ろうとしてくる。

痛みではなく、存在そのものが削ぎ落とされるような感覚――自我が薄れていく。


「……ぐっ」


歯を食いしばる。

抵抗が激しく、集中が切れそうになる。

――今のコネクトじゃ、まだチップの制御を突破できないか。


だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。


俺は、腰の装置に手をかける。

オルフェンが俺に託した、試作型プラナ・ブースター。

「これを使えば、一時的に限界を超えることが出来る」というヴァイン博士の言葉が過る。


「ここで……やるしかない」


装置のスイッチを押した瞬間、体内のプラナが一気に覚醒した。

心臓が暴れ、血管の一本一本に光が走るような感覚。

俺の身体そのものがプラナと共鳴するように、全身から熱が噴き出す。


プラナが意識の領域にまで浸透し、コネクトの勢いが一気に加速する。

チップの抵抗が、その圧力に耐えきれずに怯んだようだった。


「システムに異常発生……認識不能なノイズを検出……」


アヤの声が震えた。

いつもの無機質な声ではなく、わずかに“混乱”が混じっていた。


俺の意識が、彼女の記憶領域の奥底まで触れた。

それは色を失った世界。

その中に仄かな光が灯っていた。


そして――俺は見た。

封印された記憶の断片。


『レイ、私はあなたを……信じてる』

『もし私に何かあったら……ここを見つけて』

『約束して。私のことを……忘れないで』


声が響いた。

それは、確かに“アヤ”の声だった。

冷たく管理された人工音声ではなく、温かく、優しい彼女自身の声。


心が震えた。

忘れるものか。忘れられるはずがない。


「これが……君の本心なんだな」

俺の声が自然と漏れた。


さらに深く潜る。

アヤの精神の奥底――深層領域の感情の源流へ。

そこには、無数の記憶が封じ込められていた。

笑顔、涙、怒り、希望……どれも俺と過ごした日々の断片だった。


だがその瞬間、今までにない激しい衝撃が襲いかかってきた。


『ノイズを検出完了。修正を開始します』


チップの防衛機構が本格的に修復を始めた。

再び彼女の“心”そのものを塗りつぶそうとしている。


---


現実世界で、アヤの体が震えた。

彼女は膝をつき、苦悶の表情を浮かべていた。


「なにが……私の中で……起きている……?」


声が震えている。

その目には、確かに“感情”があった。


「アヤ……俺だ。レイだ」


アヤが顔を上げた。目が揺らいでいる。

「レイ……? なぜ……私、君の顔を見ると……胸が……」


頭を抱え、苦しそうに呻く。

コネクトの影響で彼女の封印された感情を呼び覚ましていた。


「思い出せ、アヤ。君は、マザーの道具なんかじゃない」


その言葉に、アヤの体が震えた。

だが――すぐに、纏う雰囲気が冷たくなる。


『修正完了。システムを正常化します』


次の瞬間、アヤの目から光が消えた。

表情が再び無機質に戻る。


だが――完全に消える前、彼女は確かに呟いた。


「レイ……どうして……心が……痛い……」


その目に、涙が浮かんでいた。

冷徹な兵器が流すはずのない――本物の涙だった。


「君はまだ……そこにいる」

俺は確信した。


「アヤも必死に抗っているんだ。」


---


「システム異常を検知。現状では任務の継続は困難と判断」


アヤの声が戻る。だが、先程までより、どこか不安定だ。


彼女は背後の通信端末に向かって命令を出した。


「全隊、撤退する。作戦を中断」


「しかし隊長、もう少しで制圧が……」


「私の判断に従え」

アヤが冷静に言った。


「予期しない要因――“不確定因子”が発生した。

 作戦継続は想定のリスクを超過している」


アヤは俺を見た。

その瞳の奥に、ほんのわずか――揺らぎがあった。


「レイ・シンクレア。今日の任務はこれで終了する」


「アヤ、待ってくれ!」


「次は……同じ手段は通じない。完全な対策を講じる」

彼女の声は無機質に戻ったが、どこか“迷い”が感じられた。


「君の心は……まだ消えていない!」

俺は叫ぶ。


「必ず君を救い出す!!」


アヤの唇が、わずかに震えた。

ほんの一瞬――その瞳が、優しく笑ったように見えた。


だがすぐに背を向け、部隊を率いて去っていった。


---


戦闘の余韻が消えた後、俺はその場に膝をついた。

限界を超えたウェイクアップとプラナ・ブースターの反動で体が重かった。

呼吸も荒く、視界が滲む。


それでも、心の中には確かな手応えが残っていた。


「……届いた。確かに、アヤの心に届いたんだ」


アヤの涙、彼女の揺れる声――すべてがその証拠だ。


西部基地の仲間たちが駆け寄ってきた。


「レイさん! 無事ですか!?」

「ああ……なんとか」


「外壁の損傷は軽度です。負傷者も多数いますが、致命傷はありません」


報告を聞き、俺は息をついた。


「……そうか」


「でも、なぜあの女エージェントが撤退を?」


俺は空を見上げた。

青く、静かな空。

そのどこか遠くで、アヤが俺を見ている気がした。


「理由なんて1つだよ」

俺は静かに言った。


「まだ、“アヤ”は消えていないからだ」


まだ終わっていない。

俺の戦いも、彼女の苦しみも。


むしろ、本当の戦いは――これから始まるのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ