表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/53

#25 西部基地の戦火


西部基地までまもなくという地点で、俺は戦闘の音を聞いた。


遠くから響く爆発音と、パルス・ギアの発射音。

そして時折聞こえる、プラナ・アーツの独特な音。


「まだ戦闘は続いている」

俺は安堵して、更に速度を上げる。


俺は最後の岩場を駆け上がり、西部基地を見下ろせる丘の上に到達した。

眼下に広がる光景は、予想以上に深刻だった。


西部基地の外壁は既に突破され、政府軍が基地内部に侵入している。

レジスタンスの戦士たちは必死に抵抗しているが、明らかに劣勢だった。


そして俺は彼女を見つけた。

アヤが基地の中央広場で、複数のレジスタンスと交戦していた。


---


彼女の動きは、俺の知っているアヤとはまるで別人だった。


「ディスク・アーツ――《サンダーボルト》」


右手のパルス・ギアから雷光が奔る。

空気を切り裂くような音と共に、雷撃が相手に直撃し、一瞬で装備をショートさせた。

その直後、左手の掌からプラナが迸る。


「ブラスト」


圧縮された光弾が地面を抉り、もう1人を吹き飛ばす。

パルス・ギアとプラナ・アーツ――まるで異なる2つの技術を同時に制御していた。

その動作に一切の無駄がない。


「……最適化プログラム、か」


息を呑む。あれが、マザーの“調整”の結果。

感情を削ぎ落とし、ただの兵器として組み上げられた戦闘体。


アヤはかつて、誰かを傷つけることを何よりも恐れていた。

それなのに今は――無表情で効率よく敵を倒す事だけを計算している。


「ストリーム」


アヤの足元から光の奔流が走り、3人の戦士をまとめて薙ぎ払った。

爆風が広場を覆う。

砂煙の中で彼女だけが、静かに立っていた。


勝敗は一瞬だった。

そこにいたレジスタンス戦士たちは、全員が無力化されていた。

……だが、誰一人、致命傷は負っていない。


「……殺してない?」


それは、マザーの命令か。

それとも、まだ彼女の中に“アヤ”が残っている証なのか。

――俺には分からなかった。


---


丘を駆け下りる。


基地の側面から侵入し、できるだけ政府軍に気づかれないよう移動する。

幸い、大部分の政府軍は基地の正面攻撃に集中していた。


基地内部は混乱状態だった。


負傷した仲間たちが避難路を求めて移動しており、所々で小規模な戦闘が続いている。


俺は1人の負傷した戦士を見つけた。


「君は...?」

負傷者が俺を見上げた。


「人類解放戦線のレイです。応援に来ました」


「レイ?…噂には聞いています」

戦士の目に希望が宿った。


「しかし、もう遅すぎます。あの女は化け物です」


「アヤのことですね」


「ええ。私たちの最強の戦士3人がかりでも、全く歯が立ちませんでした」


俺は戦士に簡単な応急手当をしながら聞いた。


「基地のリーダーは?」


「地下シェルターに避難しています。でも、基地の陥落も時間の問題でしょう」


「分かりました。あなたは安全な場所に避難してください」


俺は戦士を避難路に向かわせ、中央広場へ向かった。


---


中央広場に着いた時、風の音すら止んでいた。

アヤは、戦場の真ん中に静かに立っていた。

白い軍装は煤け、しかし姿勢は一点の乱れもない。

その周囲には仲間たちが倒れているが、誰一人として命を落としてはいなかった。


――まだ、どこかに“彼女”が残っているのか。


「アヤ……!」


その名を呼ぶと、アヤがゆっくりと振り向いた。

金色の瞳が、無機質な光を放って俺を見据える。


「レイ・シンクレア」


名前を呼ばれた瞬間、心臓が凍る。

その声は確かにアヤのものだった。だが、響き方が全く違う。

――以前よりも更に温度が感じられなかった。


「予想通りの行動だ」

アヤの言葉は冷たい。


「君がここに来る確率は、87.3%と算出されていた」


「算出……?」

その言葉の意味を理解するのに、一瞬かかった。


「君の行動パターンはすでにマザーによって分析されている。

 “感情による衝動的行動”――不適合者の典型だ」


俺の背中を冷たい汗が伝う。

この口調、この分析の仕方――もう、彼女は“アヤ”じゃないのか?


「君は……本当に、アヤなのか?」


「アヤ・クリムゾン。政府エージェント。階級:特別任務執行官」


淡々と言葉を発する彼女の姿に、胸が締めつけられる。

それはまるで、誰かに言わされているような声だった。


だが――目の奥が、一瞬だけ揺れた気がした。


「……本当に、君の感情は全部消されたのか?」


俺が一歩近づくと、アヤの動作がぴたりと止まる。


「接近はさせない。君を無力化する命令が出ている」


「無力化……つまり、殺すのか?」


「殺害は最終手段。可能なら捕獲し、研究対象として搬送する」


「……マザーの“サンプル”として、か」


アヤは何も答えなかった。

代わりに、風が吹き抜けて、髪が光を反射する。

その一瞬だけ、彼女の中に“迷い”のようなものを見た。


---


「アヤ。君は利用されてるだけだ」

俺は声を張り上げた。


「マザーは支配のために君を作り替えた。

 感情を奪って、都合のいい兵器にしたんだ!」


「マザーは人類の最適統治者だ」

アヤが淡々と答える。


「私の判断は修正され、無駄が削除された。

 結果、戦闘効率は23%向上した」


「それで満足なのか? 感情を失って……何が“最適”だ!」


沈黙。

アヤの視線が、ほんの一瞬だけ俺から逸れる。

そのわずかな間に、揺らぎが見えた。

だがすぐに、冷たい声が響く。


「感情という概念は不要だ」


俺は息を吐き、拳を握った。

説得では届かない。だが、諦めるわけにはいかない。


「……なら、俺が君の感情を取り戻してやる」


「興味深い発言だ」

アヤが構えを取る。


「しかし不可能だ。削除された感情は、再構築不能だ」


右手にパルス・ギア。左手に、プラナの光。

空気が震え、砂塵が舞う。

戦場が、ふたたび息を吹き返すように唸った。


「――ウェイクアップ」


俺の中で何かが開く。

意識が研ぎ澄まされ、世界の輪郭が鮮明になる。

アヤの動きの予兆が感じ取れた。


「戦闘開始」


アヤの声と同時に、光が炸裂した。

俺たちの戦いが、始まった。


---


「ディスク・アーツ《ファイアショット》」


「ブラスト」


アヤが両手それぞれのアーツを同時に発動した。


炎弾と光弾が完璧なタイミングで俺に向かって飛んでくる。

2つの弾道が交差するように、回避しにくい軌道を描く。


俺は咄嗟に横に跳んだ。

炎弾を回避したが、光弾が俺の肩をかすめた。


「ぐっ!」


熱い痛みが走る。

――かすっただけでこの威力。

直撃していたら間違いなく戦闘不能になっていた。


だが、アヤの攻撃は止まらない。


「シールド」


俺は急いでプラナの防壁を展開する。青白い障壁が俺の周囲を覆った。


「ディスク・アーツ《サンダーボルト》」


「ストリーム」


今度は雷撃とプラナの奔流だった。2つの攻撃が同時に俺のシールドを襲う。


バチバチと電撃の音が響き、シールドが激しく揺れる。

プラナの奔流がシールドを削り、雷撃が貫通しようとする。


「くそっ、このままじゃ...」


俺はシールドを二重に展開した。

だが、アヤの攻撃の威力は想像以上だった。


「同時攻撃の精度が異常だ」


アヤの戦闘スタイルは、俺の常識を超えていた。

パルス・ギアとプラナ・アーツを完璧に連携させ、途切れることなく攻撃を続けている。


しかも、それぞれの攻撃が互いに補完し合っている。

ディスク・アーツで俺の動きを制限し、プラナ・アーツで確実にダメージを与える。

完璧な戦術だった。


だが、このままただやられている訳にはいかない――俺は反撃を試みる。


「ブラスト」


俺の光弾がアヤに向かう。だが、彼女は最小限の動きで回避し、同時に反撃してきた。


「ディスク・アーツ《アイスランス》」


「ミスト」


氷の槍が3本、空中に形成される。

そしてプラナの霧が広がり、俺の視界を奪う。


「視界が...」


俺は「シールド」で防御態勢を取った。

霧の中から氷槍が飛来し、シールドに激突する。


1本目は防いだ。2本目も防いだ。

だが、3本目がシールドを突破し、俺の左足を貫いた。


「ぐあっ!」


激しい痛みが走る。氷の槍が俺の太腿に突き刺さり、血が流れる。


その瞬間、アヤが霧の中から突撃してきた。


---


アヤの接近戦の技術も、遠距離戦と同様に圧倒的だった。

彼女は俺の目の前に現れると、素早く連続攻撃を繰り出してくる。

アヤの右拳が俺の顔面を狙ってくる。

それを頭を傾けて回避したが、次の瞬間、左膝が俺の腹部に叩き込まれた。


「ぐはっ!」


俺の身体が浮き、後方に吹き飛ばされる。

地面に転がり、必死に立ち上がる。


「格闘術も...完璧か」


アヤは無駄のない動きで俺に迫る。

その動きは流麗で、まるで舞うように美しい。

しかも、その一撃一撃に致命的な威力がある。


彼女は格闘術とプラナ・アーツを組み合わせ、俺に隙を与えない。


拳にプラナを込めた打撃。

足払いと同時に放つブラスト。

掴みかかると見せかけてのストリーム。

すべてが計算され尽くしている。


俺は防御に回らざるを得なかった。


「シールドォォッ!」


連続でプラナの障壁を展開するが、アヤの攻撃がそれを次々と破壊していく。


「なぜ抵抗する?」

アヤが攻撃の手を緩めずに口を開く。


「君の戦闘能力では勝利は不可能だ」


「勝つためじゃない」

必死に攻撃を捌きながら俺は答えた。


「君を救うためだ」


「私を救出するという概念は理解できない」


アヤの拳が俺の頬を掠めた。

プラナを込めた攻撃で、威力は俺の想像以上だった。


俺の頬が裂け、血が流れる。視界が揺れ、意識が遠のきそうになる。


「まだ...諦めない」


俺は必死に踏ん張った。足の傷も痛むが、立ち続ける。


「君の記憶を思い出せ」

俺が必死に呼びかけた。


「俺たちが一緒に訓練した日々を」


アヤの動きが一瞬だけ止まった。


「記憶...?」


「そうだ」

俺が続けた。


「あの訓練所で、君は俺に言った。『レイ、あなたは特別よ』って」


「...そのような記録は存在しない」


だが、アヤの声に微かな動揺があった。

彼女の目が、わずかに揺れている。

俺は確信した。記憶は完全に消されてはいない。ただ封印されているだけだ。


「君は覚えてるはずだ」


俺が一歩近づいた。


「やめろ」

アヤの声が震えた。


「そんな記憶は...ない」


アヤの声に感情が混じった。ほんの少しだが、確実に。


「君が俺に言った。『いつかこの世界を変えてくれる』って」


彼女の目から一筋の涙が流れた。


「やめろ!」


そしてアヤは激しく叫びながら、俺に向かって突進してきた。




今日より更新時間を19時に変更しています。

ご注意ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ