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#24 プラナ増幅装置


コネクトの基礎訓練を始めてから、もう1週間が経った。


その間、俺は寝ても覚めてもプラナの制御訓練と精神接続の基礎を繰り返していた。

だが、技術はまだ不安定で、精神領域の奥にある“壁”を突破できないままだ。


そんなある日の午後、ドクター・ヴァインから呼び出しが入った。

「旧研究区画で、興味深い反応を検出した」とだけ伝えられ、俺はすぐに向かった。


---


「これは……前に見たプラナ増幅装置ですね」


俺が見上げたのは、天井まで届きそうな巨大な金属構造体。

以前はただの残骸のように見えたそれが――今は、かすかに青白い光を放っていた。


「……動いているのか?」


「微弱ですが、プラナ反応を検出した」

ヴァインが、端末を操作しながら答える。


「完全に死んでいたと思われていたコアの一部が、自己修復を続けていたようだ」


コアはまるで心臓のように、淡く脈動していた。

何百年も放置されていた装置が、今も息をしている――そう思うと、鳥肌が立った。


「旧世界の技術は驚異的だ」


ヴァインが、指先で金属の表面をなぞる。


「イザベラ博士の記録装置同様、プラナ封印型のコアだったみたいだ。」


「つまり……あの時と同じ状況ですか?」


「そうだ。――君が来たことで、外部からプラナの供給が始まった。

 それが再起動のトリガーになったのかもしれない」


俺は息を呑んだ。

あのとき感じた、わずかな空気の震え――まさか、本当に反応していたのか。


---


ヴァインは古びた端末を開き、残されたデータを解析し始めた。

そこには「プラナ増幅実験記録」と書かれた古文書のようなファイルが並んでいた。


「基本的には、使用者のプラナを集約・圧縮して、一時的に出力を跳ね上げる仕組みだ」


「一時的な限界突破…人工的なウェイクアップみたいなものか」


「そう言ってもいいだろう」

ヴァインがうなずく。


「ただし、限度を超えれば反動も大きい。

 2倍までは軽微な副作用で済むが、それ以上は精神崩壊を引き起こした記録があるな」


「やっぱり危険だな……」


俺は低くつぶやいたが、それでも心の奥では興奮を抑えきれなかった。

もしこの装置を制御できれば――アヤを、マザーの支配下から取り戻せるかもしれない。


---


「ただ、この装置……デカすぎません?」


俺が見上げて言うと、ヴァインも苦笑した。


「その通りだ。当然ここでしか使う事は出来ない。だが――」

彼は棚から古びたノートを取り出した。

表紙には「携帯型プラナ増幅器試作記録」と書かれている。


「ここに、腕に装着できるサイズの試作品を目指した研究記録が見つかった」


「そんなものまで……完成していたんですか?」


「残念ながら、記録は途中で途切れているな。

 マザーが地上に干渉を始めた時期とほぼ一致する」


彼の声には、わずかな悔しさが滲んでいた。


「再開できませんか?」

俺が問うと、ヴァインはわずかに微笑んだ。


「理論的には可能だ。ただし、時間と資材、そして――信頼できる協力者がいる」


「協力者なら、ここにいます」

俺は迷わず言った。


「時間がない。…マザーに対抗するには、手段は多いほうがいい。」


ヴァインは静かに頷いた。その瞳に、科学者としての情熱が宿っていた。

だが、そのとき――


「緊急事態です!」


ドアが勢いよく開き、リーナが駆け込んできた。

額には汗、肩で息をしている。


「どうした!?」

俺が立ち上がる。


「西部基地から救援要請が来ました!」


ヴァインは端末を閉じ、俺たちはすぐにミラの待つ会議室へと向かう。

そこにはオルフェンたちもすでに集まっていた。


「状況を報告しろ」

オルフェンの声が鋭く響く。


「西部基地が政府軍の大規模攻撃を受けています。

 敵戦力は約200名。戦闘型エージェントも多数確認されています」


「西部基地の守備は?」


「80名です。ですが、そのうち半数は非戦闘員……医療班と避難民です」


リーナが急ぎ説明をすると、重苦しい沈黙が室内に落ちた。


「このままじゃ持たないな……すぐに援軍を出そう」


ミラが拳を握る。

オルフェンが地図を指し示した。


「だが、距離がある。

 ここから西部基地まで、最短でも3時間はかかる」


「3時間……それじゃ間に合わないかもしれない」


カイの悲壮な叫びが響く。

その時、通信機から雑音混じりの声が流れた。


『こちら西部基地……指揮しているのは、金髪の女性エージェント……非常に危険な相手です……!』


その一言で、俺の血が凍りついた。

金髪の女性――。


「アヤだとすれば…おそらく狙いはお前だろうな」


オルフェンの静かな声に、俺の息が詰まる。

鼓動が耳の奥で轟く。


アヤが……攻撃している? 西部基地を?

つまり、ヴァンス大佐の言っていた”再調整”が終わったのだ。


「……マザーめ」


俺は唇を噛み締めた。

怒りと焦燥、そして――恐怖。

彼女を救うどころか、自らの手で戦わなければならないかもしれない。


「レイ……落ち着け」

オルフェンが俺の肩に手を置いた。


「まだ、決まったわけじゃない」


「でも――」


「今できることを考えろ。

 感情に呑まれれば、彼女を救うどころか、失うことになるぞ」


俺は拳を強く握りしめた。指先が白くなるほどに。


「……分かってます。絶対にアヤを助け出します」


誰が敵になろうと、マザーがどれほど強大でも――

彼女を奪われたまま、終わるわけにはいかない。


「詳しい状況を教えてください」


『金髪の女性エージェントは、他の連中とは明らかに違います』

通信の向こうから、焦りと恐怖が混じった声が返ってきた。


『戦闘技術が桁違いで……訓練された兵士というより、まるで精密機械のようです。

 無表情で、まったく迷いが見えません。』


「武器の種類は?」

俺が息を詰めて問うと、通信のノイズ越しに小さな爆発音が響いた。


『高グレードのパルス・ギア、それに複数のディスクを使用しています。

 しかし……それだけではありません』


嫌な汗が背中を伝った。

まるで、これから聞きたくない答えを予感していた。


「……どういうことですか?」


『彼女は――プラナ・アーツを使用しています。』


その瞬間、空気が止まった気がした。


「……プラナ・アーツ?」


『はい。まるで彼女自身が“不適合者”のように、完全に制御しています。』


ヴァインが低く息を吐いた。


「……マザーが、”再調整”によって、強制的にアヤのプラナを活性化させたんだろう。

 思考制御と同時に、マイクロチップも強化したようだな。」


俺の頭の中で、あの優しい笑顔と、冷たい操り人形の姿が重なった。

アヤ……。

マザーに支配され、感情を奪われた彼女なら、効率的にその力を使うだろう。


「現在の状況は?」

オルフェンが代わりに問う。

その声は低く、重かった。


『外壁を突破され、第二防衛線で交戦中です。……正直、持ちません』


静寂。

短い間の後、俺は決意する。


「――俺が行きます」


全員の視線が俺に向く。

オルフェンが眉をひそめた。


「レイ。お前1人では危険すぎる」


「でも、アヤを止められるのは俺しかいません」

俺はまっすぐにオルフェンを見た。


「コネクトが使えるのは、俺だけなんです」


「まだ完全ではない。精神同期率も安定していないだろう」


「それでも、やらなければなりません」

胸の奥で熱が渦を巻いていた。


「それに、このまま見捨てることなんて……できません」


---


リーナが一歩前に出る。

「西部基地まで3時間かかります。到着した頃には――」


「だから、全力で向かう」

俺は遮った。


「間に合わないと決めつける前に、走るんです」


カイが拳を握る。

「なら、私も――」


「いや、俺1人で行く」

カイの提案を俺は遮る。


「大人数で動けば、準備に時間がかかる」


「けど――」


「アヤとの戦いは、俺自身の戦いでもある」

言葉を選んでいる余裕はなかった。


「プラナで強化すれば、誰も着いてこれない。

 コネクトで最適化プログラムから解放するには、間に合わなければ意味がない」


重い沈黙。

やがてオルフェンが、深く息を吐いて頷いた。


「……分かった。ただし条件がある」


「条件?」


「コネクトが失敗したら、即座に撤退すること。感情を優先にして命を落とすな。いいな?」


「……約束します」

嘘ではない。だが――心のどこかでは、きっと守れないと分かっていた。


「これを持って行け」

オルフェンが差し出したのは、古びた装置だった。


「実験棟で見つかった試作品のブースターだ。ヴァインが応急修復した。

 出力は不安定だが、緊急時なら一度だけ使える」


「つまり……一度切りの賭け、ですね」

「そうだ。限界を超えれば、お前の精神は保たないだろう。

 ……だが、命を繋ぐ手段にはなる」


「……十分です」

俺はそれを受け取った。


掌の中で、金属の冷たさと微かな鼓動を感じた。

そのまま装置をベルトに装着する。


「今度こそアヤを助け出します」


その言葉に、誰も言葉を発さなかった。

ただ沈黙の中、それぞれの覚悟だけが確かに感じられた。


---


出発の準備に取りかかる。

軽装備、最低限の武器。スピードを最優先に。

時間を短縮するため、途中の補給もなしだ。


「レイ」

準備を続ける俺の前にドクター・ヴァインが現れた。


「プラナ増幅器の研究、急いで進める」


「お願いします」


「それと、これだ」

彼は小さな通信機を差し出した。


「緊急時の連絡用だ。電波はおそらく西部基地までは届くはずだ」


俺は深く頷いて受け取った。

出口ではオルフェンが待っていた。


「アヤを救いたい気持ちは分かる。でも――自分を犠牲にはするな」


「……はい」


「コネクトの時、彼女の心の奥底の想いを感じ取れ。

 制御プログラムがどんなに強力でも、人間の“核”までは書き換えられない。

 きっとそこに、彼女はいる」


「分かりました」


オルフェンが小さく微笑んだ。

「行け、レイ。……そして、必ず帰ってこい」


「了解です」


---


俺は荒野に飛び出した。

冷たい夜風が頬を切り、ブーツの底が砂塵を蹴り上げる。

フィールドの地平線の先――西部基地の方向に、遠い閃光が見えた。

爆撃の光だ。


「間に合え……!」


プラナを全身に巡らせ、脚部に集中させる。

身体が一瞬、軽くなった。

視界の端が流れ、風の音が悲鳴のように変わる。

ただ走った。アヤを救うために。仲間を守るために。


最適化プログラムに操られたアヤを――俺の手で、取り戻す。


だが頭の片隅では、冷静な自分もいた。

アヤはエリート中のエリート。さらにマザーによる強化が加わっている。

正面からぶつかれば、まず勝てない。唯一の勝機は“コネクト”。

彼女の心に直接触れ、感情を揺らすことができれば……。


だが、戦闘の最中でそんな隙があるのか?

彼女は今、感情のない兵器そのものだ。


「……何とかして、近づくしかない」


口の中でつぶやく。

地形、風、音。

あらゆる要素を計算しながら、頭の中で戦闘プランを構築していく。


奇襲か、正面突破か。

どちらを選んでも、リスクは大きい。

けれど、止まる選択肢だけはない。


遠く、空を裂く雷鳴のような音が響いた。

戦闘の音だ。

――もう、時間がない。


「アヤ……」

風にかき消されるほどの小さな声で、俺は呟いた。


「待っててくれ。必ず、君を取り戻す」


プラナが脚へと集まり、俺は速度をさらに上げる。

大地を駆けて、西の地平線へ――闇を裂く閃光へと、走り抜けた。




―お知らせ―


明日より更新時間を19時に変更してみます。

申し訳ありませんが、ご注意ください!


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