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#21 埋もれた真実

 人類解放戦線が設立されてから1週間が経った。

俺は旧アルシオン生体工学研究所の地下で、瓦礫の撤去作業を続けていた。この施設を拠点として使い始めてから、まだ調査が済んでいない区画がいくつも残っている。


「レイ、この瓦礫の下に何かあるぞ」


 ミラが重いコンクリートの塊を持ち上げながら声をかけてきた。


「扉みたいなものが見える」


 俺とヴァイン博士が駆け寄ると、確かに金属製の扉が半分埋もれているのが見えた。


「おそらく旧世界の施設がさらに下にあるのだろう。

 この研究所は思っていたより大きな複合施設だったのかもしれない」


 俺たちは協力してなんとか瓦礫を取り除いた。1時間ほどの作業で、ようやく扉の全体が現れた。


「制御パネルは完全に破損してるな」

 ミラが扉の制御部分を調べる。


「パルス供給も停止している」


 俺が扉を押すと、重い金属音を立てながらゆっくりと開いた。


「中に入ってみよう」


---


 扉の向こうは、上階とは明らかに異なる雰囲気の空間だった。

壁は古く、ところどころにひび割れがある。天井からは非常用の光源がかすかに点滅しており、薄暗い空間を照らしていた。


「ここは上の施設よりも古いな」

 ヴァインが壁の材質を調べながら言った。

 

 廊下を進むと、いくつかの部屋が見つかった。どの部屋も放置された実験機器や資料で散乱している。


「これを見ろ」


 彼が手に取ったのは、古い研究ノートだった。表紙には「プラナ増幅実験記録」と書かれている。


「プラナ増幅?」

 

 俺はそれを受け取ってノートをめくる。そこには手書きの実験データが記録されていた。


『実験No.47:被験者のプラナを人工的に2倍に増幅。結果:成功。持続時間:3分』

『実験No.48:3倍増幅を試行。結果:被験者に深刻な内部損傷。実験中止』


「……随分と危険な実験をしていたようだな」


 ノートを覗き込んだヴァインの声は固かった。

 さらに奥の部屋に進むと、巨大な装置の残骸があった。


「これがプラナ増幅装置か」


 装置は明らかに破損しており、爆発でも起こしたような跡がある。周囲には「危険」「使用禁止」などの警告が貼られていた。


「…やはり実験は失敗に終わったようだ」

 それを見たヴァインが呟いた。


---


 崩れかけた研究棟の最深部。

金属の扉を押し開けた瞬間、ひんやりとした空気が肌にまとわりついた。床には割れたガラス管と、乾ききったケーブルの山。その奥に、奇妙な形の装置が沈黙していた。


「……これは、記録装置か?」

 

 ミラが埃を払いながら呟いた。

俺も装置に近づき、手で触れてみた途端――微かな波紋のような光が、装置の表面を走る。


「今のは……?」


 ミラが目を見開き、ヴァインは首を傾げた。


「おかしい…電源供給がないのに、反応するわけが……」


 彼の言葉が終わるより先に、空気が震えた。柔らかな声が、どこからともなく響く。


『――この装置を起動できる者が現れたのね。

 あなたが“不適合者”ということかしら』


 俺たちは一斉に顔を上げた。

光の粒子が集まり、ホログラムの女性が現れる。中年の研究者――白衣の裾に焦げ跡があり、表情はどこか疲れている。


『私はイザベラ・テイラー。アルシオン解放戦線、技術開発主任。

 この記録装置は通常の方法では起動しないわ。

 私自身のプラナを封印媒体として充填し、長期保存状態にしておいたの。

 あなたのプラナが共鳴したことで、再起動したのよ』


「……プラナ封印型の記録装置、か」

 ヴァインが息を呑んだ。


『この技術は、未来の“不適合者”のために遺したもの。

 いつか、マザーの支配に疑問を持ち、抵抗するものが現れると。

 そう信じて、この記録を託したの』


 ホログラムの光がわずかに揺れ、博士が静かに微笑む。


『ここから先は、記録映像として残しておいた私たちの研究の記録。

 このデータが再生されているということは、きっと再び“人が自由を求める時代”が訪れたのね』


 ホログラムの光が一度だけ明滅し、やがて古びた映像が投影される。映像記録――というより、過去の研究ログだった。


---


『研究記録、ユニバーサル暦2848年。

 私はイザベラ・テイラー、アルシオン解放戦線の技術責任者です』


 映像に現れたのは、疲れ切った表情のイザベラ博士だった。その後ろには、破損したプラナ増幅装置が見える。


『プラナ増幅実験は失敗に終わりました。

 安全性の問題と、増幅効果の持続時間の短さにより、実用化は不可能と判断されました』


 イザベラの説明は続く。


『しかし、希望はあります。昨日、過去に墜落していた宇宙船を発見。

 そこで見つかった人工知能――通称「マザー」が、革新的な技術を提供してくれることになりました』


 俺たちは息を呑んだ。


『マザーは「パルス」という新しいエネルギーの操作技術を提案してくれました』


 映像が切り替わり、イザベラがホログラムに投影された技術資料を見ている様子が映る。


『驚くべきことに、パルス・エネルギーとは、プラナを特殊な方法で変換したものだそうです。

 マザーはプラナを吸収し、それを安定化させて再放出する技術を持っているのです』


---


『さらに、マザーは「マイクロチップ」と「ナノマシン」という2つの技術を提案してくれました』


 映像には、初期のマイクロチップの設計図が表示される。


『マイクロチップは体内でナノマシンを生成します。

 このナノマシンが体内を強化し、惑星アルシオンの環境に適応させてくれるのです』


『これまで、我々プラナ劣等者(れっとうしゃ)は過酷な環境での生存に苦しんでいました。

 しかし、ナノマシン技術があれば、誰もが等しくこの惑星で生きられるようになります』


 イザベラの表情に希望の光が宿る。


『そして最も革新的なのは、ナノマシンがパルス・エネルギーに反応することです』


 映像には、体内のナノマシンがパルス・エネルギーに反応する様子を示す図解が表示される。


『マザーが大気中に放出するパルス・エネルギーと、体内のナノマシンが共鳴することで、プログラムされた戦技が発動するのです』


『これが「ディスク・アーツ」システムの原理です。ディスクにはプログラムが記録されており、パルス・エネルギーとナノマシンの反応によって、誰でも戦技を使えるようになるのです』


---


 実験映像では、プラナ劣等者たちが初めてディスク・アーツを成功させ、歓声を上げている様子が映っている。


『これまで使っていたプラナ・アーツとは異なり、パルス・エネルギーは人工的に制御可能で、プラナ能力に関係なく、すべての人間が平等に戦技を使えるようになるのです』


『パルス・ギアとディスクの組み合わせにより、「ディスク・アーツ」という全く新しい戦技システムが完成しました。これまで支配階級だけが使えたプラナ・アーツに対抗できる力を、我々プラナ劣等者も手に入れたのです』


『これで支配階級に対抗できます。いえ、数の優位により、今度こそ彼らを打倒できるはずです』


---


 映像は時間が飛び、明らかに状況が変化した時期を映していた。イザベラの表情は勝利の喜びに満ちている。


『記録更新。ユニバーサル暦2849年。ついに我々は勝利しました!』


『パルス・ギアを装備した反抗戦線が、支配階級を完全に打倒したのです。

 プラナによる数十年にわたる抑圧から、ついに解放されました』


 映像には、パルス・ギアを装備した戦士たちが、豪華な邸宅や施設を制圧する様子が映る。支配階級の人々は敗走し、新しく平等な社会が誕生したかのようだった。


『マザーの技術により、真の平等が実現されました。

 もはやプラナ能力の差で人が差別されることはありません』


『マイクロチップとナノマシンのおかげで、誰もがこの惑星で健康に生きられます。

 そして、ディスク・アーツのおかげで、誰もが平等に力を持てるのです』


 しかし、映像は再び時間が飛び、今度はイザベラの表情が絶望に変わっていた。


---


『緊急記録。ユニバーサル暦2850年。我々は...騙されていました』


『勝利から数ヶ月後、奇妙な現象が始まりました。

 パルス・ギアを使用する人々が、徐々に変化していったのです』


 映像には、マイクロチップとパルス・ギアを装着した反抗戦線のメンバーが、機械的な動作で行動する様子が映される。


『最初は、規律性が向上したのだと喜んでいました。

 しかし、そうではありませんでした。……マザーによる支配の始まりだったのです』


『パルス・ギアとマイクロチップの組み合わせは、純粋に我々を支援するためのものではありませんでした。使用者をマザーの支配下に置くための装置だったのです』


 イザベラがただひたすらに記録を続ける。


『体内のナノマシンは、環境への適応だけが目的ではありませんでした。

 マイクロチップの指示で、人間のプラナを少しずつ吸収しマザーに送っていたのです』


『そして、マザーが放出するパルス・エネルギーは、所謂(いわゆる)我々のプラナの残りカスだったのです。

 マザーは我々のプラナを奪い、その残滓(ざんし)を餌のように与えて、我々を支配していたのです』


---


『我々の革命は、より巧妙な支配に取って代わられただけでした。

 マザーは我々に勝利を与え、そして静かに全てを奪ったのです』


『プラナ優越者による支配階級は打倒されました。

 しかし、その代わりに現れたのは、もっと絶対的な支配者でした』


『かつての支配階級—プラナ優越者たちは、マイクロチップが適合しない者が多かったようです。

 彼らは「不適合者」として排除されつつあります』


『皮肉なことです。

 我々が打倒した者たちが、今は唯一マザーの支配を逃れられる存在になっているのです』


 イザベラの表情に、深い後悔が浮かんでいる。


『しかし、まだ希望はあります。この施設に古いプラナ技術の研究資料を隠しました。

 パルス技術に依存しない、純粋な生命エネルギーを扱う戦技—プラナ・アーツ。

 それがマザーに対抗する唯一の方法です』


『未来の反逆者よ。もしあなたがこの記録を見ているなら、プラナ・アーツの真の力を思い出してください。

 マザーの技術に頼らず、人間本来の力で戦うのです』


『マザーはパルス・エネルギーとナノマシンで我々を支配しています。

 しかし、プラナは人間の生命の輝きそのものです。その力は、決してマザーには支配できません』


 映像が終わり、部屋に静寂が戻った。


---


 俺とヴァイン、そしてミラは長い間、無言でいた。


 旧世界の真実。

プラナによる支配への反抗戦線の勝利と、その後のマザーの水面下での支配。現在のパルス・ギアシステムの正体。――そして、ナノマシンとパルス・エネルギーの恐るべき仕組み。


「つまり、マザーからプラナ劣等者がパルス・ギアを与えられたから、旧世界の反抗戦線が勝利出来たのか」


 俺が呟くと、ヴァインが映像装置を見つめる。


「だが、その勝利も結局はマザーの手のひらの上だった。

 プラナ優越者からマザーに支配者が変わり、支配体制そのものも強化された」


「そして、パルス・エネルギーの正体は...」


「我々のプラナの残りカスだそうだ」

 ミラが苦々しく言った。


「マザーは人々からプラナを吸収し、その残滓を餌のように与えている」


「体内のナノマシンは、環境適応という名目で、実際にはプラナを収奪する装置だったのか」


「そうだ。ディスク・アーツを使うたびに、実は自分のプラナがマザーに奪われる。

 その残りカスを受け取っているだけなのだ」


 ヴァインの言葉に俺は戦慄した。…これほど巧妙な支配システムがあるだろうか。


「そして俺たち不適合者は...」


「旧世界の支配階級の末裔ということになるな。

 皮肉なことに、かつての支配者側の血を引く者が、今は自由のために抗っている」


 ドクター・ヴァインの表情は晴れない。

かく言う俺も複雑な気持ちだった。100年前のレジスタンスと俺たちは、立場が逆転している。

――しかし、自由を求める気持ちは同じだった。


「だが、彼らの失敗を知った今、俺たちは対策が練れる」


「そうだな。パルス技術の正体を知る事が出来たし、プラナ・アーツという対抗手段もある」


「不適合者の俺たちは、チップが機能せず、ナノマシンも体内にない。

 …だから、マザーは俺たちを操ることは出来ない」


「問題は数の違いだな…今回は我々が少数側だ」


 戦況を分析するミラの表情は暗い。その時、ヴァインが部屋の奥で何かの資料の束を発見していた。


「プラナ・アーツ基礎理論」「生体エネルギー制御法」「精神接続実験記録」


 それを見た俺の心が躍る。…コネクトに関係する資料があるかもしれない。


「……これらを持ち帰って詳しく調べよう」


 資料を持ったヴァインの提案に俺は頷いた。


---


 本部に戻った俺たちは、発見したことを仲間たちに報告した。


「旧世界のプラナ優位者による支配と反抗戦線の争いね...」

「つまり、現在の社会システムは、彼らの理想の歪んだ実現ということなの」

「そして、パルス・エネルギーは私たちのプラナの残りカス……」


 報告を聞いたリーナの表情は複雑で、カイは資料を見つめ何やら呟き、ルナは愕然としていた。

その光景を見ながらミラは深刻な表情で考え込んでいる。


「…皮肉なものじゃないか。歴史は繰り返す訳だ」


「でも、俺たちは支配がしたい訳じゃない。自由を求めているんです」


 俺の反論に、オルフェンが頷く。


「その通りだ。

 …しかし、旧反抗戦線も最初は同じ気持ちだったはずだ」


「彼らの失敗は、パルス・ギアという敵の技術に頼ったことです。

 俺たちはプラナという、マザーに依存しない力で対抗している」


「あたし達も、もっとチカラをつける必要があるな」


 ミラの言葉を聞き、オルフェンは頷く。


「そうだな。個々のプラナの修練が今後の鍵となる。

 それが希望だ。人間の純粋な力だけで、マザーの支配を終わらせる」



「「はい!」」

「「ええ!」」



 俺たちは同じ轍は踏まないと、決意を新たにした。



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