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#17 師匠の選択

あの戦いからから1週間が経った。

俺たちはようやく落ち着いてきた旧工場の跡地で、次の行動を模索している。だが、俺は隙があれば休む時間も惜しんで、ひたすら訓練を続けていた。


「ブラスト!」


 俺は標的に向けてプラナの光弾を放つ。それは的に命中し、爆発する。


「もう一度」


 呼吸を整え、再び構える。


「ブラスト!ブラスト!!ブラスト!!!」


 連続で光弾を放つ。三発とも的に命中した。


――だが、まだ満足できない。

アヤの攻撃はもっと苛烈だった。それを想定して、咄嗟に回避行動を取る。


「シールド!」


 防御の障壁を展開し、すぐに解除。そして再び攻撃に移った。


「ストリーム!」


 プラナの螺旋を放ち、複数の標的を貫く。


「もっと速く...もっと強く...」


 俺は息を切らしながら、訓練を続けた。


――身体が限界を訴えているが、止まるわけにはいかない。

次にアヤと会う時、俺は彼女を救えるだけの力を持っていなければならない。


「もう一度だ!」


 俺は手を前に突き出した。だが、その瞬間、誰かが俺の腕を掴んだ。


「レイ、いい加減にしろ」


 振り返ると、ミラが険しい表情で立っていた。


「まだ訓練が」


「3日間、お前は一睡もしていないな」

 ミラが遮った。


「食事もまともに取っていない。このままでは体が壊れる」


「構わない」

 俺が腕を振りほどこうとした。


「俺はもっと強くならないと」


「強くなる前に死ぬぞ」

 ミラが強い口調で言った。


「お前が倒れたら、誰がアヤを救うんだ?」


 俺は言葉に詰まった。…気まずい沈黙が流れる。

その時、オルフェンが訓練場に入ってきた。


「ミラ、少し席を外してくれ」


 ミラは渋々、その場を離れた。彼女が去った後、オルフェンは俺の前に立ち、厳しい目で俺を見た。


「レイ、焦るな」


「焦ってなんかいません。

 ただ、強くなりたいだけです」


「嘘をつくな」

 俺の反論をオルフェンがさらりと受け流し、一歩近づいてくる。


「お前は自分を責め続けている。アヤを救えなかったことをな」


「それは...」


「だから、休むことも食べることも許さず、自分を追い込んでいる」


 俺は何も言えなかった。オルフェンの言う通りだったからだ。…アヤを救えなかった。それが、俺の心を責め続けている。

 あの時、もっと強かったら。もっと早く動いていたら。もっと的確な判断ができていたら。

すべて、俺の力不足だった。


「俺が、弱いから…アヤは……」


 俺の呟きをオルフェンが遮る。


「…違う。もうお前は弱くない。むしろ、お前は驚くほど成長した」


「でも、結果は…」


「結果だけが全てではない」

 オルフェンが続けた。


「お前の想いはアヤに確かに届いた。彼女の心に、確かに痕跡を残したんだ」


「それじゃ意味がない!

 彼女は今、マザーに操られて苦しんでるんだ!」


「だからこそ、お前は冷静でなければならない」


 オルフェンが俺の肩に手を置いた。


「焦って力を求めても、本当の強さは手に入らない。むしろ、焦りは判断を鈍らせる」


「じゃあ、どうすればいいんですか!

 このまま何もせずに待てと?」


「違う」

 オルフェンがゆっくりと首を振った。


「訓練をするのは構わない。だが、やり方を間違えるな」


 彼が訓練場の隅を指した。そこには、水と食料が置かれていた。


「まず、食べろ。そして、眠れ」

 オルフェンが命令口調で言う。


「体を回復させなければ、これ以上は訓練の意味がない」


「でも…」


「これは師としての命令だ」

 オルフェンが厳しい目で俺を見た。


「…お前が倒れれば、アヤを救う者がいなくなる。それでもいいのか?」


 俺は唇を噛んだ。確かに、このまま倒れてしまっては元も子もない。


「…わかりました」


 俺は渋々、食料に手を伸ばした。簡素な保存食だが、一度口に入れると止まらなかった。身体が栄養を求めていることを実感した。

 そんな俺を見て、オルフェンは満足そうに頷く。


「いいか、レイ」

 彼が静かに言った。


「力は、焦って得られるものじゃない。積み重ねた訓練と、それを扱う冷静な心が必要だ」


「はい」


「それに」

 オルフェンが続けた。


「お前一人じゃない。俺たちがいる」


 その言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。

――確かに、俺は一人じゃない。仲間がいる。


「ありがとうございます、師匠」


「礼はいい。今はとにかく、休め」

 オルフェンが訓練場を出て行こうとした。


「6時間後、また訓練を再開しよう」


「はい」


 俺は食事を終え、休憩室の簡易ベッドに横になる。身体は疲労困憊だったが、頭の中はまだアヤのことで一杯だった。


『レイ...忘れないで...私を...』


 アヤの最後の言葉が、耳に残っている。そして、ヴァンス大佐の冷酷な宣告も。


『次に会う時、アヤは君への“感情”を無くした完璧な戦士になっているわ。楽しみにしていて』


 俺は拳を握りしめた。


――必ず、アヤを救い出す。たとえ、どんな姿になっていても。


 俺はそう誓い、目を閉じた。


---


 だが、休息は長くは続かなかった。3時間後、基地の警報が鳴り響き、俺は目を覚ました。


「敵襲!」

 リーナの声が響く。


「大部隊がこちらに接近しています!」


 俺は飛び起きた。まだ身体は完全には回復していないが、戦える。仲間たちと共に装備を取り、基地の入口に向かう。

――そこで見たものは、予想を超えていた。


 政府軍の大部隊が廃坑全体を包囲している。エージェント、装甲車、そして上空には攻撃ヘリも飛んでいた。


「数が多すぎる…完全に包囲されてるな」


「ここをどうやって見つけた?」

 ミラが歯噛みするのを見ていたルナは、疑問を口にする。


 その時、拡声器から冷たい声が響いた。


「レジスタンスの諸君、投降せよ。

 特にレイ・シンクレア、貴様だけはもう逃がしはしない」


 俺は息をのんだ。


「俺のせいで……」

 呟いた瞬間、オルフェンが肩を掴んだ。


「今はそれどころじゃない。来るぞ!」


 空気が裂けた。閃光弾が飛び込み、爆風が通路を焼き払った。


「散開! 迎撃準備!」


 ミラの号令が響き、それを合図に戦闘が始まった。

政府軍の攻撃は、これまでとはまるで別物だった。エージェントたちの連携が異様に早く、動きに一切の無駄がない。全員が、一つの意志で動いているかのようだった。


「ダブル・アーツ《ファイアショット》《エクスプロード》!」


 一人のエージェントが炎弾と爆発弾を同時発動させる。俺は「シールド」で防いだが、その威力は想像以上だった。


「……強化されてるな」

 それを見ていたオルフェンが呟く。


「改良チップの影響か?反応が異常に早くなっている」


 さらに別の声が響いた。


「トリプル・ワード《ヒール》《シールド》《クイック》!」


 彼らは負傷と同時に回復し、再び攻撃態勢に戻る。瞬時に傷を回復させ、防御壁を展開し、動作速度を上げる。完璧な支援体制だった。


「厄介だな」

 ミラが歯噛みした。


「一人一人は大したことないが、連携が完璧すぎる」


 ディスク・アーツにはコマンドの詠唱が必要だから、次の技の予測はできる。だが、同時詠唱の数が多すぎて処理しきれない。


「ダブル・アーツ《サンダーボルト》《アイスランス》!」


 雷と氷の複合攻撃が俺を襲う。俺は無言で「シールド」を展開し、同時に雷と氷をイメージして「ブラスト」を放った。爆風が二人のエージェントを吹き飛ばす。だが、すぐにまた立ち上がってくる。


「くそ……キリがない!」


 同じ性質の技なら相殺するのは楽になる。プラナ・アーツなら無詠唱で相手に合わせて対応できるが、なにせ相手の数が多すぎた。俺たちは徐々に追い詰められていく。仲間の何人かが負傷し、弾薬も底を突きそうだった。


「ちっ…このままでは全滅だ」


 ミラの叫びがあたりに響く。

その時、オルフェンが俺に向かって走ってきた。


「レイ、手を貸せ!」


「何を……?」


「俺とお前のプラナを合わせる」

 オルフェンが俺に手を差し出すが、一瞬躊躇した。…そんな技術は聞いていない。


「危険じゃないのか?」


「正直命懸けだ」

 俺の問いにオルフェンが苦笑する。


「だが、他に方法がない。このまま死ぬよりいいだろう?」


 師匠の目には、覚悟が宿っていた。


「……わかった」

 それを受け取った俺は頷いて、彼の手を握った。

 

 2人のプラナが重なった瞬間、視界が白く染まる。脳が焼けるような感覚。血が沸騰しそうだ。だが、次第に――オルフェンのプラナの流れが見えた。


「レイ、呼吸を揃えろ……リズムを合わせるんだ!」


「了解!」


 俺は全神経を集中させ、彼の鼓動に自分のリズムを同調させた。世界が静まり返り、2人のプラナがひとつに繋がる。


「今だ――!」


 オルフェンの叫びと同時に、俺たちは声を重ねた。


「リンケージ――《ヴォルテックス》!!」


 青白い光が爆発した。

轟音とともに、螺旋状のエネルギーが空を貫く。地面が裂け、装甲車が宙に浮き、ヘリが墜落する。そして政府軍の前線が一瞬で吹き飛んだ。その圧倒的な破壊を前に、エージェントたちは後退していく。


 誰もが言葉を失った。だが――


「オルフェン!」


 振り返ると、彼の口から血が溢れていた。


「やはり……強引すぎたか……」


 力なく笑いながら、オルフェンが膝をつく。


「師匠!」


 俺が抱きかかえると、彼の手が微かに動いた。


「これで少しは時間が稼げる……ドクター、治療を」


「ああ!」

 ドクター・ヴァインが駆け寄る。


「内部損傷が激しい、急げ!」


 背後では、爆炎の中で撤退する政府軍の姿が見えた。だが俺の目は、ただ1人――倒れたオルフェンだけを見ていた。

 そして胸の奥で、ひとつの決意が燃え始める。


――政府に屈してたまるか。


 必ずアヤを取り戻してみせる。…たとえ、彼女がどんな姿に変えられようとも。



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