八夜 纐纈
気が付けば、辺りは薄暗くなり
所々スポットライトに当てられたイチョウが見える。
夜の所為か、はたまた孤独の所為か少し寒さを感じる
少し前まではあんなに待ち遠しかったはずの寒さが
今は孤独に感じる。
ため息も夜に飽和し、僕だけが取り残された夜。
反面、あの女への火は未だに消えようとせず
周りのものを取り込み、燃えようとしている。
あぁ、これが愛なのだろうか。
少し、少しずつ歩みを進め孤独から這い上がろうとする。
僕を、呼び止めるかのようにひとつの物に焦点が合う。
一人の女性がベンチで蹲り、泣いているではないか。
少し考えたが、何となく話しかける。
「すみません、どうしたんですか?」
女性は驚きと、戸惑いを感じた眼でこう答えた。
「いえ!何でもないです。わざわざ声まで掛けさせてしまって…」
肌寒い秋とは無縁のような暖かい言葉遣いと
無理をした表情で彼女は答えて見せた。
俄然、興味が湧くだろう。
どんな闇を抱えているのか。
「少し、一緒に落ち着きに行けませんか?
近くにBARがあるんですよ。」
「お言葉に甘えて、ご一緒させていただきます」
よし、順調だ。
どう料理してやろうか。
BARまでの間に聞き出しておこう。と攻める。
「先程、泣いてましたが何かあったんですか?」
「親の訃報が入って来て…どうにも、目をかけてくれた親ですから。」
親…か、家族関係が良好な如何にもな女性だ。
何の違和感も覚えなかった。
理由も聞けたわけで、丁度BARに着いた。
BARの前で煙草を吸っている男も居たが、
意に返さず、薄暗く先の見えない階段を下り
BARに入る。
紫色の光に、酒とタバコの匂いが立ち込める。
ほんのりラムの香りがした。
席に着き、注文をしようとする刹那、聞き覚えの無い
名前が聞こえた。
が誰か分からないので無視した。
店員は何故か、驚いた様な表情をしている。
そして店員の一言。
「晶、そっちの女性は誰だよ」
デリカシーの無い人間だ。
何だっていいはず、無関係な人間が首を突っ込んで居るのは僕も同じだが立場というものがあるだろう。
如何にもな柄の悪さをしているが、ひとつ気にかかる
「晶」と言う人物に覚えは無い。
だが何故か僕の顔を見て、相手は晶と認識している。
「だから、晶って誰ですか?」
僕の一言に店員の顔が引き攣る。
ここまで表情筋が豊かだと、変顔芸人で一発売れた
だろうにと、関心する。
「とりあえず、注文しても?」
男は困惑しながらも繕い答えた。
「ここは、おすすめを出させてください。」
と、なら期待をしてみようか。
「ええ、それを2人分」
店員は首を傾げながら奥に行き、僕は一息つき、
女性に体を向け名前を聞いた。
結城さんと言うらしい。
愛情深そうな顔立ちと、優しい言葉遣い。
そして何よりも、刃を隠し持っている鋭い瞳。
僕は彼女に深い興味が湧いた。
彼女なら僕を愛してくれるに違いない。と
「もし良かったらご家族の話を聞かせて貰えないでしょうか?
貴女も、少しは気が楽になると思うんです。」
彼女の瞳が僕を刺す。
新しい感覚だ。
「そうですね、自分の話は苦手ですがいいですか?」
「えぇ、もちろん。」
彼女とは何か特別な物を感じる夜。
深く、微睡みに飲まれるのか呑まれるか。
それ迄はまだ、分からない。




