七夜 喜兆
不思議な事に、裏切りにより降っていたものは過ぎ、
秋の木枯らしと同時に雨雲を押したようだ。
されど、未だに水溜まりは引かないようだ。
水捌けの悪い土は腐る。
そうならない内に水を払わねばと思い、その為に仕事に没頭する事に決めた。
教授に電話を掛ける。
僕の仕事は人文科学の助手だ。
もちろんこの仕事に誇りを持っているし、好きだ。
でも、自分の課題である「愛」について考える為に
ここに入った。
5コールした後だろうか、繋がった。
「もしもし」
内心、緊張と不安を孕んだ声が携帯に吸い込まれる。
「おー真純くん。元気でしたか?」
この人は能天気だ。
何も考えていないようにも見えるし、考えが見透かせないからかもしれない。
「はい、元気です。」
「君が電話を掛けてきたって事は復帰すると言う事だろ?」
「そうなりますね、明日からでいいですか?」
「もちろん。明日から馬車馬の如く働いて貰うよ。」
「面白い冗談言えるようになりましたね。」
「ふふ、じゃあ明日から頼むよ。」
「了解です。」
切り替えが上手で有名な僕だ。流石。
そして、仕事のスイッチを入れ直す為に、外出する事を決めた。
もう、空気が乾燥し始めて、冬の気配を感じる。
今年の冬には、もうあの女は居ない。
あぁ、思い出す。
愛への期待を折られた瞬間を。
悲しみにくれた毎日を。
性なる夜とは言うが、あれは嘘だ。
互いの性的欲求を満たす為だけに生み出された言葉。
イエス・キリストの誕生日がセックスで汚れる。
しかし、セックスはもとより神聖なものなのだが、
言っている下々の人間が薄汚れているおかげで
セックスが穢されるのだ。
と心の中で愚痴を吐露している内に、イチョウが綺麗だと有名なカフェに辿り着く。
季節が季節なので、もうイチョウはない。
しかし、店員の暖かい雰囲気のおかげで、イチョウをメインにしないで済んだ。
「御注文、何にしますか?」
熟考した末、出た答えは
「カフェ・ラテお願いします。」
苦いのは苦手だ。
最も苦いのが得意な人物はろくでも無いと決まっているからだ。
あの女の様に。
そう、考えるのも億劫になってきた。
でも、愛への期待と言う火に種火を灯したあの女を
忘れる事ができなかった。




