一朝 結城 雫
「その節は誠に、申し訳ございませんでした。」
あぁ、謝るばかりの日常に嫌気がさす。
心のエネルギーを消耗して、相手はストレスを発散する。
まるで私たちは道具のように扱われているようで、
苛立ちを覚える。
毎日のように揖斐ってくるお局、セクハラハゲデブ。
夢の為に入った会社が責任感と同時に重りになり、
私を押し潰してくる。
一際、感情の追いつかない謝罪を済ませた後、
腹ごしらえのためにご飯を食べに行く。
その時、後ろから声を掛けられ咄嗟に振り向く。
「雫ちゃん、今からご飯?一緒に食べない?」
まただ、ドブのような汗と加齢臭の混ざっている
香水の匂いを漂わせながら、ハゲデブが話し掛けてきた。
「あはは…先客が居るので、また次の機会に……」
と話を濁し、遠回しに断ろうとしているのに、
次の発言だ。
「その人と一緒でいいからさ!ね?奢るからさ」
通貨を覚えた猿のような脳みそをしているようで、
心底幸せそうな顔面をしている。
このハゲデブは「豚に真珠」を知らないのだろうか。
と心の中で唱えたまま、それとなく答える。
「いえ、迷惑おかけするので…申し訳ないです。
お先、失礼します。」
嫌な臭いを背に私は目的地に歩き始める。
イチョウの葉が落ちる頃の大きな道。
私の凄く大好きな道だ。
銀杏の匂いと、木枯らしが運んでくる、少し冷たい風
どれも全て、秋を象徴しているようで幸せを感じる。
お気に入りのカフェに着き、注文をする。
「ブラックコーヒー1つと、パンケーキで」
この店は雰囲気がいい。
店員の笑顔は作られた感じもなく、拒否感を覚えない
そして何より、コーヒーを味わいながら見る
秋の景色が幸せなのだ。
深い多幸感の中、思い出す。
「元気にしてるかな、比島君。」
口から溜め息のようについた言葉について考えた。
比島君に会いたい。
比島 晶 高校の頃好きだった男性だ。
彼の心は綺麗で、純粋で、澄み渡る雲ひとつ無い
大空のようだった。
そう、だったのだ。
風の噂で聞いた。
比島君が好きだった女性に振られ、学校に来なくなったと。
当初の私には理解が出来なかった。
振られた程度で学校に来なくなるなんてありえない。
とそう思っていた。
今となれば、過去に何かがあったり、不登校になるまでに少し時間があった事を憶えている。
会って話がしたいと、長考の末に辿り着いたのは
諦める選択肢だった。
現実的では無いからだ。
今やるべき事に集中した方がいい。
そう、考えを閉ざした。




