四夜 罰
…触れたエロスは祝福のようにまとわりつく。
それは幽冥へ導き、死へと僕をするように。
僕のポケットの中で、携帯が揺れた。
雨に濡れた手で、ポケットから取り出す。
画面に表示された見慣れない番号に、戸惑う。
こんな時間にかけてくるやつなど、非常識に他ない。
僕は無視して歩き続ける。
だが、着信は一向に止む気配のない。
まるで、僕がこのまま孤独な夜に消えてゆくのを
阻むように。
僕は立ち止まり、着信に応じる。
「……もしもし」
声が震えていた。
それは寒さの所為か、それとも―。
電話の向こうから聞こえてきた声は、彼女の泣き声だった。
「ねぇ、あなた本当に一人なの?」
彼女は、僕が一人で雨の中を歩いている事を知っているかのように語りかけてきた。
「あなた、泣いてるでしょ」
僕は自分の頬を触った。
雨なのか、涙なのかすら、もう分からない。
「違う……これは雨だ。」
そう答えるので精一杯だった。
「嘘よ。だってあなたの声、震えているもの。
……本当はね、知ってるのあなたのこと。
本当は、誰よりも愛を求めているくせに、それを認められないで一人で苦しんでいるでしょ?」
彼女の言葉は、僕の扉の鍵を開けるかのように、
魂の根幹に触れた。
「そんなこと、お前に知る価値はないだろ」
「あなたの目を見て、分かったの。
あなたは愛がないんじゃない。愛を信じるのを辞めてしまっただけよ。」
雨は、僕の体を冷やし続けた。
だが、彼女の声は、僕の心の奥底に小さな、小さな
火を灯した。
それは愛ではない。
ただ、僕が一人ではないことを教えてくれる暖かい
火だ。
「……どこにいるんだ。」
僕の声はもう、震えてはいなかった。
彼女は笑いながら、泣きながら、住所を言った。
僕は、愛を求めてはいなかった。
ただ、この希望が、もしかしたら愛の形なのか、
はたまた、孤独な夜にいるのが少しだけ怖くなったのか、真相は定かではないが。
僕は歩き出す。
彼女が愛の形なのだと信じて。




