二夜 小雨
服を脱ぎ、堂々と近づく女は何も言わず僕の全てを受け入れてくれそうな母性とエロスを持っていた。
タオルがベッドに滑り落ち、さっきまで大きく感じたベッドと女の身体が物凄く小さく脆く、弱く感じた
露出した柔らかい肌とぼんやりと辺りを反射して、僕の脳がそれを許容する。女はそのままの姿、ありのままを僕にみせた。
女に触れる、そこにあるのは熱の筈、だが感じたのは冷たさ、心の生き写しだろうか。僕の指先が肌を滑る度女は息を呑んだ。それは快感ではなく異物を無理やり受け入れようとする事への抵抗に感じる。
僕らは愛を語れない。その分身体で嘘をつく、寂しさを埋めるように互いの傷を舐め合うように。
偽りの儀式の中、互いの呼吸が甘い香水とまじる。
その狭間、僕はふと、遠い昔の記憶を思い出すした。
愛を信じていた頃、自分自身の姿を。
あの頃、僕は彼女に深海よりも深い瞳の奥に永遠があると信じていた。その永遠は飴細工のように脆く、瞬く間に
崩れ落ちた、その愛は形のなく脆い。
この経験は傍から見たら小さい経験に感じるだろうがこれは一度だけではない、だから僕は愛を信じない
ただ、こうして嘘をつき、孤独感を紛らわすことしか出来ない。
やがて、偽りの愛の儀式は終わりを告げる。
女は僕の身体に沿って横たわり、天井を見つめた。
満足そうな瞳だ今の行為で何を感じたのか。感じたとするのならばそれは勘違いだ張りぼて僕は空っぽだからだ。
女は微笑みかけながら言う
「私のこと、少しは好きになった?」
その言葉は、まるで刃物のように僕の心に突き刺さる。
「うん、好きだよ」
誤魔化す僕、悪戯に笑う君。少し心がほぐれた僕に驚き、無様に感じた。
「本当に?」
女は僕の顔に目を合わせた瞬間に不安そうな顔に変わる。さっきまであったはずの微かな期待の雰囲気は
不安の空気に変わる。この薄い関係は僕の為にも、女の為にも非生産的であると僕は理解した。
そして彼女の不安そうな顔には見覚えがある。
物凄く可哀想出醜い。僕だ、昔の僕に彼女を重ねてしまった。咄嗟に「…もう、終わりにしよう。」
僕の口から出た言葉は呪いになるのか、はたまた解放なのか分からない。
彼女の顔が暗い「どうして?私悪いことした?もし、やってたら謝るから!だから!」
いつもからこんな感情的な人間突っ撥ねるはずだ、だがそれが出来ないのは少なくともそれは情でしかない。
「いや、君の事が嫌いになったんだ」
咄嗟に隠す
僕は静かに、現実を告げた。愛なんて僕には無いよ。
彼女の瞳は潤み、雨を降らし、僕の心をも濡らした。
彼女は雨を降らすことで乾くだろうが。僕は濡れたまま、また他の女を探し乾かすほかないのだ。
その痛みから逃げる様に彼女を退かし、狭かったベッドに別れを告げる。
部屋の窓は開け放たれている。夜風が湿り雨を運ぶ。
煙草の吸い殻はもう見えない。
僕の心はあの部屋のように、雨に打たれ、何も無かった。




