表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
所在地  作者: ヨシダ一期生
10/11

二昼 盾と矛

夜が明けきらない街の下。

俺はお客に出す酒、コープスリバイバーを作りながら

さっき感じた違和感を掘り出す。


「あいつは絶対に晶で違いない。

でも何で、首を傾げたんだ?わかんねぇ」


冗談じゃない。

あいつの仕草や、目線の移動、表情の変化の仕方は

他の人間より何億倍も俺が知っている。

あいつは晶だ。

煮え切らない思考の末、作り終えたカクテルをお客の前に出す。

「コープスリバイバーです。

言葉は死んでもあなたとです。」


晶と晶の隣の女性は話しながら、軽い会釈をした。

考えても仕方の無いことは世の中沢山ある。

だが、煮え切らないのは嫌いだ。

と、一息ついた2人に話しかける。


「お二人さん、お名前は?」


どうやら、男の方は七谷真純、女の方は結城雫

と言うらしい。

脳内が燻る。

どうにも違和感しか感じない。

脳から入る情報は男を晶と認識している。

しかし、事実は全くの別物だ。

こんな時は、一服に限る。

タバコは何も考えなくていい。

ただ、味を感じ、匂いを感じ、委ねる。

いわば、食に変わりは無い。

食に依存するのは当たり前の行為だと。


カウンター部分に肘を掛け、タバコをライターで照らす。

青白い煙が、カウンターの上を漂ってゆく。

煙の向こう側で、あの夜を思い出した。


そう、あれは晶が泣いていた去年の真夏の夜。

俺のBARが出来て間もない頃だった。

晶は酒も飲まず、ただ黙りこくったまま夜に溺れていた。

「愛ってさ、壊れた方が綺麗なんだよ。

全ての事柄は現状も美しく感じる。

けれども、それも全て失った後こそに真の価値がある。」

と、浸りながら笑って見せた。

あの笑みは、絶望から来るものなのか、今はもう。


でも――目の前に居る男は違う。

目の奥は死んでいなかった。

まるで、新しい玩具を得た子供みたいに、隣の女を

見つめている。


「こいつは一体なんなんだ。」


タバコから灰が落ちた、その考えもこれ迄だと言うような風に。

男と女は、何かを決めたかのように、席を立ち

会計をする。

聞きたいことは沢山あるのだが、今日はここまでか。

俺は嵐が去った街のような澄んだ思考に帰った。


「まずはグラス洗うか。」


何も考えず、ただグラスを撫でる。

乱反射したグラスの光は、何かを示している。

全く理解が出来なかった。

ガラスを拭く手が止まる。

心の中で、何かが蠢く。

もし、もしだ。あいつが''晶''では無いのなら。

晶がもし、この世に居ないのなら。

俺は一体、何を見ていたのだ。


思考を遮るように、BARの扉が開いた。

晶だ。一体何用なんだ。


「すみません。忘れ物をしてしまったみたいで。」


「あーなるほど、これですかね?」


壊れた時計、それは時を止めていた。

何も動かない時間に価値はあるのだろうか。

と、時計を手渡す。

去って行く背を止めるかのように、晶、いや

真純の名を呼ぶ。


「真純さん、あんたタバコ吸いますか?」


「いえ、タバコは苦手で。」


そう答えた男を見て、俺は確信した。

彼は晶では無い。

煙の向こうでは、もう何も映らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ