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高校時代に戻ったおっさん、魔法覚醒していじめっ子相手に無双する

作者: 芽春誌乃

短編2作目の投稿です!


※カクヨムでも投稿しております


 俺の名前は藤堂浩一(とうどうこういち)

 ブラック企業勤めの40歳だ。

 今日も今日とて夜遅くまで働いて終電で帰宅すると、飯も食わずに死んだようにベッドに倒れ込んだ。



 ――――そんな日々を繰り返していたのだ。



 あの日もいつもと同じように眠りに落ちたはずだった。

 だが、目覚めた瞬間。俺は違和感に襲われた。





 見覚えのある天井。

 あの木目模様、薄汚れた照明カバー。



 ここは──実家の自室か?



 まさかと思い、体を起こして周囲を見渡す。

 懐かしいポスター、古びた本棚、勉強机が目に入る。


「……夢なのか?」


 訝しみながらもいつもどおり顔を洗うために洗面所に向かう。


「なっ、なんだと⁉ わ、若返ってる⁉」


 鏡に映った顔を見て、思わず後ずさってしまう。


 若い。間違いなく若いぞ。

 思わずそのピチピチに潤った素肌を手で触ってしまう。


「まさか⁉」


 俺は自分の部屋に大急ぎで戻った。

 半信半疑のままクローゼットを開けると、懐かしい学生服が揃って掛かっている。

 カバンを開けるとこれまた見覚えのある教科書やノート。


「高校時代の……夢を見ているのか」


 いやこれは現実かもしれない。

 夢にしてはあまりにも感覚がリアルだからだ。


「過去に戻ったのか……」


 どういうことか理解できないが、身体は確かに高校時代の俺に戻っていた。


「とりあえず、学校に行くか……本当に過去に戻ったというのならあいつらもいるということだよな。はぁ……」


 戸惑いと困惑を抱えたまま、俺は制服に袖を通すと20年以上前に通っていた高校へと足を運ぶことにした。


 不思議なことに学校までの道のりは覚えていた。

 歩きづらい舗装されていない道を淡々と歩き、雑木林の中を突きっていく。

 どうやらこのルートが1番最短なんだということを身体は覚えていたようだ。


「うわ……懐かしいな」


 記憶の中の風景とほとんど変わらない校舎が目の前にあった。


「なんか……おかしいな」


 ――――しかし、なにかが違う。

 空気そのものが違って感じられる。

 妙に活気に満ちて、キラキラと輝いて見えるのだ。


 その予感はすぐに的中することになる。



 ________________________________________



 校門をくぐった途端、俺は目を疑った。


 グラウンドでは生徒たちが空中に火球を投げ合い、教室では教師が巨大な魔法陣を黒板に描きながら授業をしている。


「なんだこれ……魔法?」


 戸惑いながら教室に入ると、周囲の生徒たちが当たり前のように魔法を操っていた。紙飛行機を浮かせたり、ペンを空中に舞わせたり、授業中にこっそり防御魔法の練習をしていたり。


「藤堂くんおはよー」

「おっ、佐倉か。懐かしいな……おはよう」

「え? 懐かしいってどういう――――」


 どうやらこの世界では魔法が日常の一部になっているらしい。

 しかも、魔法の才能を持つ者は特別扱いされてチヤホヤされる存在だということがすぐにわかった。


「おい、藤堂。お前、魔力測定したか?」


 クラスメイトの佐倉と話しているときに突然話に割り込んできたのはクラスの中心にいるヤツ──篠崎(しのざき)。俺をいじめていたグループのリーダーだ。


 懐かしいな。

 いかにも陽キャという感じの見た目で友達も多い。

 が、いかんせん性格に難があるということからも苦手に思う生徒は多かった。


 俺もその1人だった。


「ちょっと篠崎くん。勝手に話に割り込んで――――」

「いいじゃねぇかよ佐倉。俺はこの藤堂と仲がいいんだよ。だからお前よりも俺の都合が優先されるってわけ」

「そんな横暴な……」


 自己都合を押しつける篠崎らしい言い分だ。


「で、どうなんだよ」

「いや……まだだ」


 昔はかなり怯えて話していたけど今は少し落ち着いて話せる。

 社会の闇を知っているから学生の威圧じゃビビらなくなっているのかもしれない。

 年を取ったな……。


「ははっ、どうせお前みたいな雑魚には魔力なんかねーよ!」

「間違いねぇわ。ギャハハハハ」

「お前らひどいこと言いすぎだぞ。藤堂が泣いちゃうじゃないか。ママーって――――ギャハハハハ」


 篠崎の取り巻きたち、田村と佐野もバカにしたように笑った。


 ああ、そういえばこんな感じだったな。

 内心で溜息をつきながら、俺は空いている席に座った。


 胸の奥には小さな不安が渦巻く。

 なにせ、あの頃の俺はいじめられっ子だったのだ。魔法があろうとなかろうと俺がターゲットになる未来はそう変わらないだろう──そんな諦めに似た覚悟をしていた。



 ________________________________________



 そして案の定、休み時間に篠崎たちが現れた。


「よぉ、藤堂。ちょっと来いよ」


 懐かしい。しかし嫌な記憶しかない声だ。

 俺は逆らうこともできず、校舎裏へと連れて行かれた。


「なるほど……」

「なにを冷静ぶってんだよカスが!」

「厨二病かな?」


 そこでは数人のいじめっ子たちが待ち構えていた。

 彼らは楽しそうに笑いながら、魔法を使って俺を小突き回した。


 火球を手のひらで作って放り投げてきたり、風刃で俺の制服を切り裂こうとしたり。


「――――くっ」


「これが魔法だぜ、雑魚が!」

「お前には縁のない代物だなぁ」


 田村が火の玉を投げつける。

 佐野が風の刃で俺の袖を切り裂く。


「――――ん? なんだなんだぁ? お前ら手を抜いてんじゃねぇよの?」


 しかし、不思議なことにそれらの攻撃は俺には全く効かなかった。


「ぬ、抜いてねぇよ。な? 佐野?」

「ああ。全力でぶっ放してるぜ」


 致命傷どころかかすり傷すら負わない。


 これはいったいどういうことだろう。


 過去の記憶をなぞるようにただ耐えていた俺だったが、ふと体の奥底から爆発するような力が湧き上がってきた。



 ――――ドンッ!



 地が震え、強烈な衝撃波が周囲を吹き飛ばす。


「「「ギャアアアア!」」」


 篠崎たちは悲鳴を上げて吹き飛ばされた。


 なにが起きたのかわからなかった。

 だが、俺は本能で理解した。



「――――俺にも魔力がある……」



 しかも、常識外れの規格外な力だ。

 魔法の基礎を習ってもいないのに、俺の身体は自在に魔力を操っていた。


 篠崎たちは恐怖に顔を引きつらせながら逃げ出していった。


「や、やべぇ……藤堂。あいつはやべぇぞ……!」


 それからの俺は別人だった。





 授業では教師たちが驚愕するほどの魔法を連発し、才能を見せつけた。

 クラスメイトたちの目も変わった。羨望、尊敬、そして憧れ。


 ずっといじめっ子に蔑まれていた俺が一気にヒーローになったのだ。



 ________________________________________



 だが、篠崎たちが黙っているはずもなかった。


 数日後、彼らは圧倒的に素行が終わっている先輩たちを引き連れて再び俺を襲ってきた。


 しかも――――人質を取るという卑劣な手段に出た。


 人質にされたのはdクラスで一番可愛い女の子、佐倉だ。


「と、藤堂くん。逃げて! わ、わたしは大丈夫だから」


 明るく誰にでも優しい彼女はいじめられていた俺にも分け隔てなく接してくれていた唯一の存在だった。


「おとなしくしろよ、藤堂。抵抗したらこの子がどうなるかわかんねぇぞ? うへへ……」

「――――ううっ」


 篠崎が卑劣な笑みを浮かべると同時に佐倉の表情が悲痛に満ちたものに変わる。


「篠崎お前……」

「ああ⁉ 篠崎さまだろ! いつからそんな偉そうになったんだよ。ちょっと魔法が使えるようになったくらいでお前のクソな中身はそのまんまだろ!」



 ――――怒りで全身が震えた。



「中身がクソなのはお前の方だろ。なんだよ先輩を連れてきて女の子を人質に取るって。お前ら高校生だろ。もう少し落ち着けよ!」

「ムカつくクソ教師みたいなこと言うなよ。おっさんかよ」


 おっさんだよ。

 外見が高校生のただの元社畜だ。


「雑魚が正義ぶってんじゃねぇよ」

「そうだぞ藤堂。正義ごっことか寒いから。そういうのいらないから」


 俺のやっていることは偽善だろうか。

 この改変された世界の常識では強き者はなにをやってもいいということになっているのであれば偽善になってしまうかもしれない。


 でも、社会人を経験した俺にとってこれは度し難い行為だ。

 ヤツらの行為は明白な悪なのだ。


「……絶対に許さない」

「ああ⁉ 聞こえねぇよ!」

「これは絶対に許されるべきでない行動だ!」

「うるせえ! ――――お前らやっちまうぞ!」


 沸点のあまりの低さに驚き呆れる。

 そして、あいつらと同じ土俵に立って感情をむき出しにしている俺自身の新たな側面にも驚いている。


 若い身体に引っ張られて熱くなっているのか……。


「藤堂くん!」



 ――――青春の匂いがした。



 なにも考えずにただ感情のままに行動して大きな失敗をしてしまう。

 まさに青春時代にしかできないこと。

 社会に出れば淘汰される若者の純粋な感情が今まさに俺の心の奥底からふつふつと湧いてきているのを感じた。



 ――――俺は迷うことなく魔力を解き放った。



 ――――バゴォォォォン!!



「ギャアアアア!」

「た、助けてくれええええ!」

「おい篠崎! こんなこと聞いてねぇぞ!」

「す、すいません先輩!」


 先輩たちはひとたまりもなく吹き飛んだ。

 強大な魔力で周囲の地面すら砕ける。

 篠崎たちは泡を食って逃げ出そうとしたが、すでに手遅れだった。


「お前ら……やりすぎなんだよ」


 俺は1人ずつ叩きのめし、佐倉を救出した。


「だ、大丈夫か。佐倉!」


「う、うん……藤堂くん、助けてくれて……ありがとう……!」


 佐倉は泣きながら俺にしがみついた。


 胸が熱くなった。

 こんなにも誰かに感謝されるのは初めてだった。

 前世でもこんなことはなかった。

 ただ社会の歯車としてさも当然のようにこき使われる日々を送ってきた俺にとってこの体験は貴重なものだった。





 その日を境に俺と佐倉は急速に距離を縮めた。


「藤堂くん。ごめんね……わたし最低だった」


 放課後の教室で2人きりになった俺たち。


「藤堂くんが篠崎くんからいじめられていたことを知っていたのに止めることはできなかった――――でも、わたしが人質に取られたとき……藤堂くんは迷わず助けてくれた」

「気にするな……そんなの大したことない」

「大事だよ。わたし……助けられてばかりで情けなくて」


 佐倉は悪くない。

 いじめを止めるのはあまりにもハードルの高い行為。

 仮に制止すれば次の標的が自分になる可能性があるからだ。

 佐倉の行動は当然だと思う。


「教師も他のクラスメイトもいじめを止めようとはしなかった。それどころかなかったこととして処理しようとした――――でも、佐倉は事実を知って止めるかどうか迷った結果止められずに悔やんでいる。それだけでも他のヤツらとは違う」

「助けられなかった事実は変わらないよ……」

「それでも俺にとっては救いだったよ。ありがとう佐倉」


 クラスカースト最下位だった俺に対して分け隔てなく接してくれた佐倉は間違いなく恩人だ。


「こっちこそありがとね。藤堂くん」


 緊張がほぐれたのか。

 またいつものきれいな笑顔が戻った。





 篠崎たちは結局退学という処分になった。

 当然だろう。あれだけのことをしでかしたのだ。

 きっと今ごろどこかでアルバイト三昧の日々を送っていることだろう。

 社会の洗礼を受けて改心すればいい。


 俺はそのあとも相変わらず魔法の鍛錬に熱中した。


「たまには一緒に遊ぼうよ」


 熱中しすぎて佐倉から遊びに誘われても断ってしまう。

 それに少し不満を持ってしまった佐倉が頬を膨らませた。


「ああ。またな」


 憧れだった佐倉に誘われるのはうれしい。

 でもそれ以上にやりたいことができた。


「今は魔法を極めたいんだ」


 新しい人生。新しいチャンス。

 俺は心に誓った。


 もう二度と後悔なんてしない──この世界で最高の人生を掴み取るんだ。


 ――――こうして、俺の魔法無双学園生活は始まった。

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