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Revenir ~不死身の撃墜王~  作者: 月夜野桜
第六章 この国の平和を取り戻すために
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第一話 レヴニール部隊

「AI操縦……? さすがに無理がありませんか、それは?」


 レヴニールのエンブレムを付けた十一機が離陸し、セリアを追う最中のこと。隊長からこの部隊の設定を聞かされた。その無茶苦茶な内容に、ユーグは思わず問い返してしまった。


 ユーグのアイデアを有効に機能させるためには、説得力が重要。レヴニールは、十数機からなる飛行中隊スコードロン相手に単機で戦える能力がある。それが複数きたとなれば、敵が大混乱に陥るのは必定。その精神的圧力をもって、立て直す暇を与えず早期決着に持ち込む予定だった。


 なのに、隊長が司令に頼んで流してもらったのは、レヴニールとは単なる空戦用AIだという情報。REMPS(反復式電磁パルス装置)影響下では動くはずのないAIだなどという話、誰も信じるわけがない。


「きっとあれだよー。高性能AI搭載のロボットがセントールを操縦して――」


「そのロボットが、EMP(電磁パルス)で壊れるって話をしてるの、俺は!」


 フランとしては単なる冗談のつもりだったのだろうが、ユーグは思わず強く言い返してしまった。どうしても、セリアの正体を想起させられてしまう。彼女はまさにそういう存在だった。有機体であり、EMP(電磁パルス)を受けても、そう簡単には故障したり誤動作したりしないだけ。


「ごめん……なんかその、緊張和らげたくて……」


 ぼそぼそとした喋り方のフランの声が聞こえた。彼女も怖いのだろう。敵はローザニア空軍全機を相手取るつもりで待ち構えているはず。セリアと合流してもたったの十二機では、死ぬ可能性が高い。


 謝る必要性を感じ、どう声を掛けようか迷っていると、フォローしてくれたわけでもないのだろうが、隊長がレヴニールの設定の続きを語り始めた。


「あながち間違ってもいないぞ? ただしロボットは遥か空の彼方、宇宙にいる」


「そっから手伸ばして操縦してるの? あたしより発想イカれてる……」


「ある意味、伸ばしてるさ。レーザーという――ん、どっちかというと糸か? まあ、操り人形のようにして、衛星からのレーザー通信で操縦しているという設定にした」


 REMPS(反復式電磁パルス装置)範囲内でも、レーザーは大した影響を受けずに使える。光ファイバーはもちろん、レーザー受光機を使った無線通信も、戦場では使われている。


 しかしそれも、送受信に使う機械自体がREMPS(反復式電磁パルス装置)範囲外にある場合か、電磁防御籠ファラデーケージの内側に光ファイバー等を使って引き込む仕組み。


 操縦だけなら、電磁防御籠ファラデーケージの中にあるコンピューターからでも行えるだろう。導電性の高い金属製シャフトやロッドを利用した、ごく原始的な機械式であれば可能。しかし、観測機器を用意することが叶わない。敵を攻撃するどころか、まともに飛ぶことすらできない。


 隊長のアイデアは、コンピューターをEMP(電磁パルス)の届かない場所に置き、遠隔操縦するというもののようだった。


「大電流に強い原始的な単純電子回路なら、EMP(電磁パルス)を受けても壊れない。いつも使ってるアナログ無線機とかな。フォトダイオードやらフォトレジスタやらを使って、その単純回路のスイッチを切り替える。それで動かしていることにした」


 EMP(電磁パルス)の影響で発生するノイズで致命的なことにならないのなら、理論的には可能と思える。それを使って操縦する仕組みを、ユーグは頭の中で想像してみた。


「つまり、翼の根元にレーザーを当てると補助翼エルロンが上がる、先の方だと下がる。そういう単純な仕掛けで、外部からリモート操作ってことですか?」


「そういうこと。昔、息子がそんなおもちゃで遊んでたの思い出してな。司令も知っていた。実際に開発計画があったこともな」


 REMPS(反復式電磁パルス装置)によって無人機や電子制御機の時代が終わることを予測し、各国は様々な準備をしていた。このセントールのような、電子制御と手動操縦の切り替えが可能な、ハイブリッド機体。それを駆る、ユーグたち手動操縦を想定したパイロット。


 それだけではなく、REMPS(反復式電磁パルス装置)影響範囲外から攻撃できる航空兵器の開発を、メラニーはしていた。無人機をREMPS(反復式電磁パルス装置)環境下で動かす研究も、しなかったわけがない。


「隊長、あったまいー! でもそれ、失敗したんだよね? 実際使ってないわけだし」


「まあ、そこは秘密兵器ってことでお茶を濁した」


 技術的問題があったから今まで実戦投入されていなかった。しかし、この危機を打開するために使ってみることにした。あの北エルトリアのネメシスだって、似たようなものだろう。


「今までは一機しか稼働できなかった。しかし、複数動かせるようになったから投入する。そう偽情報を流したんですね?」


「幸い、フォーレスが最近衛星を打ち上げててなあ。それがそうだったことにした」


 リモート操作衛星を追加打ち上げしたから、複数同時稼働できるようになった。説得力はある。実際似たシステムを、北エルトリアも研究しただろう。いくつか穴は思いつくが、存在してもおかしくはないと考えるはず。レヴニールの異常な強さは、AIだとしたら納得もいく。


「つーわけで、接敵したら通信は禁止だ。バレちまう。ベイルアウトも同様。死ねって言ってるわけじゃあない。逆だ。一発も被弾するな。そもそもレヴニールは喰らわないしな?」


「みんな、大丈夫だよー! このエンブレム見たら、きっと敵は逃げ回るから!」


 フランの言う通りと思える。敵が偽情報だと気づく前に、全機がレヴニールのように動けるわけではないと悟る前に、一気に決着をつければいい。元々積極的に仕掛けないのがレヴニール。逃げ回っているうちに誰かが墜としてくれれば、それはそれでレヴニールらしく見える。


「愛しのお姫様が見えてきたぞ。こっちを撃ってこなきゃいいんだがな?」


 前方に数十機からなる大編隊の反応がある。戦場に辿り着く前に、セリアと合流できそうだ。


「セリア! 俺たちも行くぞ!」


 通信が届く距離と判断すると、ユーグは空軍共有回線で呼びかけた。すぐにセリアからの応答がある。


「ユーグ……どうして来たの? あなたまで死ぬことはない」


「死にに来たわけじゃない。共に生きるために来た!」


「そうそう! おじいちゃんおばあちゃんになるまで、ずーっと一緒に生きたいってさ!」


 相変わらず余計なことを言い出すフラン。それではまるでプロポーズしたみたいな意味になってしまう。そう考えていたら、誰かが更に余計な録音を流した。


『俺はあいつを愛してる。セリアを、セリア・ブランシェという女を愛してる!』


 犯人はフランか、それとも隊長か。あるいはメラニーがこれを聞いているのかもしれない。


「そんな馬鹿な理由で……」


 おそらくまた視線を彷徨わせて、戸惑っているのだろう。音声通信のみでも、その様がありありとユーグの目の前に浮かんだ。続きの録音も流され、より一層困惑したに違いない。


 皆セリアとフランを取り合って、惚れた腫れたの個人的理由でこの戦いに臨んだ。以前なら理解できなかったかもしれない。だが今の彼女なら、きっとわかってくれるとユーグは思う。


「みんな馬鹿野郎なんだよ。お前が言ったんだろう? 馬鹿野郎だからこそ、敵の判断を狂わせることができたってな」


 あの時言い返せなかった意趣返しだろうか。セリアがコブラを使って囮となった時の話を、隊長が蒸し返した。


「見えるだろ? 全機がレヴニールだ。時間稼ぎなんて必要ねえ。皆で協力してさっさと全滅させて、本隊に合流すればいい。奴らはすでに集結を終えて、大統領の合図を待っているぜ?」


 タッチスクリーンに敵味方配置が表示された。目的地には、やはり敵の大部隊が観測されている。衛星映像からわかる範囲では、少なくとも五十機以上はいる。向こうももうこの部隊に気付いたはず。セリアも今更断れまい。


「レヴニール・ワンよりレヴニール部隊各機へ。無人機の追尾目標を切り替えた。三機ずつ配備する。REMPS(反復式電磁パルス装置)影響下に入る前にミサイル全弾発射。その後、外周から時間差で突撃するよう設定済み。なるべく長く保たせて。本隊の邪魔をさせては駄目」


 腹を括ったのだろう。セリアからそんな指示が飛んだ。あるいは、こういう事態が元々想定されていたのかもしれない。いざという時に、複数のレヴニールを同時投入する計画が。乗っている人間は別人でも、機体は同じ。作戦通りに進めるだけの話。


「レヴニール・ツー、了解!」


「レヴニール・スリー、りょーかいだよー!」


「俺レヴニール・フォーか? 一応大尉なのに?」


 いつの間にか序列が入れ替わり、セリア機を先頭にして、各機が無人機と編隊を組む。有人機十二機、無人機四十八機の、数だけなら敵部隊と同等戦力の飛行大隊が出来上がった。


「まあいいや。俺だけジジイだし、脇役に徹してやらあ。お前ら、生き残ることだけを考えろ。機体の予備は用意されている。ヤバければ早めに捨てていい」


「予備の機体……ですか?」


「南連から無人操縦でお届け中の機体、行き先を変えてもらった。総司令部もこの作戦に乗った。空中給油機も接近中。燃料は気にせず、ガンガンアフターバーナー焚きまくれ。生きてさえいれば、最終作戦への参加は可能だ」


 総司令部もなかなか乙なことをするものだと思った。元々プロパガンダとして利用していたレヴニール。この機会を逃すわけはない。


 飛行大隊規模で用意できたとなれば、北エルトリア軍も戦意喪失するかもしれない。プリムヴェーラも態度を変え、国連の説得に応じたという形で、矛を収める可能性がある。


 戦争の帰趨は、このレヴニール部隊にかかっていると言っても過言ではないと、ユーグには思えた。いつ化けの皮が剥がれるか、その後どれくらいの戦果を挙げられるか。すべてはそれで決まる。一体何人が本物のレヴニールになれるかが鍵。


「レヴニール・ワンよりレヴニール部隊各機へ。通信封鎖、電磁防御態勢へ移行。健闘を祈る」


 セリアからの指示に従い、全機が電磁防御態勢に切り替えると共に、左右はもちろん、上空や低空へと、思い思いに展開していった。


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