表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Revenir ~不死身の撃墜王~  作者: 月夜野桜
第五章 彼女の魔法が解ける時
20/24

第四話 ただ一人だけを守る

「パイロット各員に告ぐ。機体に搭乗し、出撃命令を待て」


 サイレンと共に、集合を促す放送が庁舎内に流れる。ユーグは立ち上がると、耐Gスーツの袖で涙を拭った。行かなくてはならない。セリアの決意を、無駄にすることになってしまう。


「追わねえのか?」


 扉を開けて外に出ると、そこには隊長がいた。いつになく真剣な眼差しで語りかけてくる。


「前途ある若者を見殺しにはしたくない。だが、一人死ぬのも二人死ぬのも大して変わらねえ。今なら俺からの命令ってことにしてやる」


「見殺しにしたくないのなら、彼女を止めろ!」


 思わず掴みかかって怒鳴りつけた。発言内容からすると、隊長はセリアの行き先を知っている。彼女がそこで何をするのか、そもそも彼女が何者なのかも。


「俺だって行きてえよ!」


 ガツンと壁を殴りつけながら隊長は叫んだ。


「できることなら、全機引き連れていって、あいつを守ってやりてえよ。……だが、戦争に勝つためには犠牲も必要だ。何よりあいつ自身が望んでいないんだ」


 わなわなと身を震わせながら、何かを耐えるように顔を歪ませる隊長。それを見て、隊長も納得していないのだと理解した。ここにいた以上、セリアと顔を合わせている。すでに説得は試みたのだろう。それでも彼女は耳を貸さなかった。


(そうだ、これは元々俺の仕事なんだ……)


 セリアのことを頼まれたのを思い出した。彼女は危険だと。そのうち神風特攻をやりかねないと。隊長では彼女を変えられなくて、だからユーグを頼ってきた。


 そしてユーグは誓ったのだ。戦争が終わるまで、セリアの背中を守り続けると。国のことはレヴニールに任せる。だがセリアのことくらいは、ユーグが自分の手で守る。その決意は、レヴニールとセリアが同一の存在だったとしても、変わらない。


「隊長、彼女の――レヴニールの目的は、敵の主力を最終反抗作戦の目的地に行かせないことですよね? 俺たちの目的は、オルネラス宰相を殺すことですよね?」


「そうだ。安全を確認させた後に、油断して動いたところを狙う。誰にも邪魔されずに」


 できるかどうかはわからない。だが、両方の作戦を成功させさえすればいい。


「なら俺は、両方やります。集まってきた敵を全滅させ、その後、オルネラスの乗った機体を墜とせばいい」


「それができんなら、初めからあいつを一人で行かせたりはしない」


「俺だってなれます。あいつと、レヴニールといつも一緒に飛び、誰よりも身近で学んできた俺なら。――もう一人のレヴニールになれます」


 レヴニールは複数人いる。特定個人ではなく、エースパイロットの逸話を束ねて、プロパガンダのために個人として神格化したものだという説。それは真実だった。ならば、本当のことだと、敵にも教えてやればいい。今までにはなかった、複数のレヴニールの同時出撃にて。


「隊長もなってください、レヴニールに。あなたにだってやれるはず。フランもきっと協力してくれる。行くんです、皆で、レヴニールとして。いなくなった者たちの穴は、俺たちで埋めるんです」


 ユーグの言いたいことが理解できたのだろう。隊長はさも嬉しそうにニンマリと笑った。


「随分と楽しいことを考えるもんだ。成長したな、ユーグ」


「あなたのお陰です、アルドワン隊長。――いえ、レヴニール家のお父さんですか?」


「けっ。なら親父らしく振る舞ってやるよ。上への根回しは俺に任せろ。お前はメラニーに頼んでこい。レヴニールになるための準備をな」


了解ラジャー!」


 二人で庁舎の階段を駆け下りていく。一階で別れ、ユーグは格納庫へと向かった。外へ出ると、滑走路から一機のセントールが離陸していく途中だった。垂直尾翼の右側には、死神の鎌デスサイズを持った幽霊のような姿のエンブレム。セリアで間違いない。


「チーフ! メラニーチーフ!」


 機体の出撃前チェックをしている整備兵たちの中から、派手な赤のメッシュの入った墨色アイボリーブラックの頭を見つけて叫んだ。


「俺の機体に、あのエンブレムをペイントしてください! レヴニールのシンボルを!」


 衆目がユーグに集まる。メラニーは両腕を組んで、不機嫌そうな顔で立ち塞がった。


「このクソ忙しいときに、なぜそんなことをしなきゃならない? 整備用機材も、EMB(電磁パルス爆弾)で使えなくなってるのが多いっての、わかんねーのか?」


「俺はレヴニールとしてセリアと共に行きます。急いでください、追いつかなくなる」


 ずいっと顔を寄せて、メラニーが焦げ茶色ダークブラウンの鋭い瞳で睨み付けてくる。


「命令違反に加担させるからには、アタシを納得させるだけの理由を用意してあるんだよな?」


 真正面からそれを受け止めて、ユーグは自分の気持ちをぶちまけた。理屈も何もない。これはただの感情論。だからその情熱を、そのまま言葉に載せて叫ぶ。


「あんたが納得するかどうかなんて知ったことか。俺はあいつを守りたい。独りでなんて逝かせはしない。俺もレヴニールになる!」


「どうしてそんなにあいつにこだわる? 聞いたんだろ、あいつが何なのか?」


「関係ないね。俺はあいつを愛してる。セリアを、セリア・ブランシェという女を愛してる!」


 人目も憚らず言い切った。今更勝算や効果の話をしたって意味がない。一機や二機増えたところで大して変わらない。国を守るという大義と、一人の女を守るという欲望を天秤にかけ、一人の方を選んだ以上、ひたすらに貫き通すべきだと考えた。


 正解だったのだろう。いつもの拳骨は降ってこなかった。メラニーは満足そうに微笑む。


「国を守るよりも、惚れた女を救う方が大事ってか? 気に入ったぜ。お前の分はやってやる。その言葉、直接本人に届けにいけ」


「はいはーい! あたしのもやってー!」


 手を挙げて飛び出してきたのはフラン。周囲にはこの基地預かりとなったパイロットたちが集まっている。メラニーの前まで駆けてきて、得意げな顔で訴えた。


「その理論が通るんなら、あたしにも行く権利があるよね? ――だって、あたしユーグのこと好きだもん! ずっとずっと昔から大好きだもん!」


 そうかもしれないとは思っていた。やたらと付きまとって、ベタベタと触れてくるのは、自分に気があるからではないのかと。しかしフランは誰にでもそうだった。だから確信できなかった。きっと想いを隠すために、他の男にもそうしていたのだろう。昔からそういう少女だ。


「ユーグ、あんたがセリアの後ろを守るって言うなら、あんたの後ろはあたしが守るよ」


「フラン……」


 今セリアへの愛を叫んだばかりなのに、それでも変わらず自分に尽くしてくれようとするフランに、ユーグは感謝してもしきれない。恩を返す前に、次々と押し売りしてくる。


「なら自分にもいく権利があります! フランちゃんは自分が守ります!」


「俺も行くぞ! 奪われる前に、そこの色男を後ろから撃ち墜としにな!」


「ちょっと待てよ、どっちの話だよ? まさかブランシェ少尉の方じゃないだろうな?」


「なんだと? ……二機相手はきついか?」


「お前ら全員敵だ! フランちゃんの良さがわからないなんて!」


 理解できない混沌の極み。セリア派とフラン派に分かれて大喧嘩。士官学校時代にも目立っていたフランはともかく、一目か二目見ただけであろうセリアにまでファンがついていた。


「わ、わたしは、その……い、生きて帰れたら、ユーグ先輩に告白します!」


 ドサクサに紛れて女子パイロットが叫ぶ。士官学校時代に見かけた記憶がある顔だった。生きて帰れたらではなく、すでに告白になっている。


「青いな、お前ら……。よし、なら三秒でやってやる。三……二……」


 メラニーが手を振り上げると、いつの間にか各機の尾翼に上がっていた整備兵たちが、垂直尾翼に手を伸ばした。


「一……貼れ!」


 合図と共に、整備兵たちの手が動く。確かに三秒で全機がレヴニール機になった。垂直尾翼には、死神の鎌デスサイズを持った幽霊のような姿のエンブレムが貼られていた。シールだったらしい。


「元々全部がレヴニールのスペア機体だ。敵には区別のつけようがあるまい」


「スペア機体って……?」


 パイロットたちが喜びと共に困惑の表情でざわつき始める。メラニーは得意げな顔で答えた。


「この基地自体が、有事の際のレヴニールの拠点なんだよ。何度でも蘇って出撃するアイツのために、機体をプールする場所。前線が遠くなったから、出番がなかっただけのことさ」


 レヴニールの正体について知らない他の者たちに、きちんとした意味がわかるわけはない。皆首を傾げて聞いている。だがセリアの部屋の中を見たユーグには理解できる。


 各地にあの記憶並列化装置と、レヴニールのクローン体が配備されていたのだろう。二十四時間飛び続け、この国を守り抜けたのはそのお陰。いつでもどこにでも、別の個体のレヴニールが駆け付けられたから。


 レヴニール。再び現れる(revenir)者。帰ってくる(revenir)者。そう、皆ここへ帰ってくるのだ。この国の(faire )平和を(revenir )取り戻して(la paix)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ