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Revenir ~不死身の撃墜王~  作者: 月夜野桜
第三章 レヴニールの影
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第四話 レヴニールの影

 基地に帰り着いたのは、朝食ではなくブランチになってしまうような時間だった。一睡もしていないのに、焦燥感と切迫感が脳を支配し、すぐには眠れそうになかった。


「俺は司令に呼ばれてる。お前らはさっさと部屋に戻って眠っとけ。食えるなら飯は食え」


 隊長はそう言い残し司令庁舎へと入っていく。ユーグは隣に立つフランと顔を見合わせた。


「ねえ、ご飯食べてから寝るー?」


「そうしよう。少し話もしたい。さっきの化け物について」


 頷くと、ユーグの腕を取って歩き出すフラン。振り返ると、セリアが大人しく後をついてきていた。食事をしたいのか、あの空中要塞について話したいのか、それとも一緒にいたいだけなのか。相変わらず読めない表情からは、動機はわからなかった。


 食堂に着くと、朝食の配給はとっくに終わっていて、時間外の特注で軽食を頼んだ。出来上がるのを待ちながら、三人でテーブルを囲み、早速先程の映像を探す。


 一般のネットワークには、サレイユ市が攻撃を受けたときの映像が多数、住民の手によって上げられていた。突如として燃え上がる石油タンク。パニックに陥り逃げ惑う人々。


 着弾時点でも音速の二倍は超えているはずの弾道を見ることは叶わず、一見爆発物でも仕掛けられていたかのように思えてしまう映像。やがて海の方からの攻撃と気付き、人々は訳がわからないながらも、内陸部に向かって避難を始めたようだった。


「ユーグ、そういうのは見ない方がいいよ。あれはあたしたちのせいじゃない」


 隣にいたフランが、ユーグの見ている映像に気付いて、そう言ってくれた。


「それよりも、もう攻撃させないことを考えよ?」


 一番大事なのはそう。だが被害の状況を知っておくことも重要だとユーグは考えた。あの化け物に対抗するには、決意が必要だ。そのための力を与えてくれるのが、守るべき人々の存在。


 あれを本格的に使えば、アンジェヴィル市はもちろん、首都をも陥落させることが可能と思える。港湾部にダメージを与えただけで引き返したのは、単なる試験運用にすぎなかったからかもしれない。あれを軸にした再侵攻作戦があると仮定しなければならない。


「チーフが権限を与えてくれた」


 セリアがテーブルに置いた端末には、先程の空中要塞のような巨大な機体が映っていた。機上で見た偵察機からのものではない。超望遠レンズで撮影したと思しき不鮮明なもの。


「サレイユの地上部隊が撮ったものか?」


 周囲で空戦が繰り広げられていた。全滅したという、先行部隊の者たちだろう。


「なによこれ、どうしようもないじゃない……」


 ほとんどの機体は、電磁投射砲レールガンで墜とされたようだった。リベルラの間を縫って近づいたところを迎撃されたり、ドッグファイト中に横から撃ち抜かれたりしている。


 まるで敵地上部隊すぐ上の低空で戦闘しているかのような光景だった。敵戦闘機は囮と攪乱役でしかなく、主役はこの空中要塞。


「高度は一万メートル以上。さっき地上の電磁投射砲レールガンを破壊したみたいなやり方は難しい」


 この大きさなら、上からの爆撃が有効かと思った。しかし、それを口に出す前に、セリアからそう指摘がなされた。


 セントールの推力では、かなり時間をかけたとしても一万五千メートルが限界。戦闘可能高度は、一万二千メートル前後。それ以上の高空では、上を向くと失速ストールしてしまう可能性が高い。結果的に使用できる機動マニューバが限定され、動きを予測されやすい。


「うちにもちゃんとした海軍があればよかったのにね……」


 残念そうにフランは言うが、あったとしても変わらないとユーグは思う。機動力の差を考えると、上を取っている航空機の方が、戦艦よりも有利。高度を下げて水平線の向こう側に隠れることも可能。そして現れると同時に先制攻撃ができる。


「いつも海からくるとは限らない。たぶん次は、こちらの想定していない場所からやってくる」


 セリアの意見の方が真っ当と思えた。向こうより射程の長い電磁投射砲レールガンなら対抗できると考えるのが妥当。これでローザニアは、地上軍の配置換えをしなくてはならない。


 内海方面も含め、北から東までかなり広い範囲に渡って、この空中要塞に攻撃可能な電磁投射砲レールガンを分散配置する必要がある。そしてそれには時間もかかる。


「次に襲われるとしたら、こいつを狙い撃ちできるような兵器が配備されていない場所か……」


 地上軍がそのレベルの兵器をどれだけ持っているのかは知らない。しかし、穴だらけではないかとユーグは考えた。今使われているのは、ほとんどが対空迎撃用の小型の自走式電磁投射砲レールガン


 長射程のものはそもそも使いどころがない。仮に砲身が二十メートルの高さにあるとして、地平線までの距離はおよそ十六キロしかない。命中させるにはコンピューターによる照準制御が必須。全体を電磁防御籠ファラデーケージに収める必要があり、単体で当てられるのは、それが限界距離。


 光通信を利用するなどして、五十メートルの高さの監視塔からの映像を基に撃つとしたら、二十五キロに延びる。百メートルで三十五キロ、三百メートルでも六十二キロでしかない。


「そうか、あれの本当の恐ろしさは、近付けないことじゃあない。射程距離が長すぎること」


 計算してみて気付いた。高度一万メートルなら、三百五十七キロ先まで見渡せる。空に電磁投射砲レールガンを配置することで、偵察機からの情報なしでも、長射程を確保できる。


「そんな遠く、届いたって当たんないでしょ?」


「戦闘機ならな。でも、都市だったら? アンジェヴィルでやっていたみたいな、無差別砲撃なら可能だ」


 悔し気にフランが顔を歪ませる。実際それで、サレイユの港湾部を火の海にされたのだ。これは悪魔の兵器。開戦初期に喧伝されていたことは本当だった。あの空中要塞があれば、首都エルトスなど一日で陥落する。実際、そうなりそうに思えた。


「レヴニールだったら、あれにどう対抗するんだろうな?」


 おそらくこの兵器の実在を知った誰もが考えること。もし電磁投射砲レールガンが一基しかないのなら、きっと囮となって撃たせるのだろう。その超絶的な機動マニューバによって狙いを外させ、再充電中に味方に攻撃させる。


 しかし、それは無理と思えた。映像を見る限り、両翼に二基ずつの配備。表と裏、左右両方をカバーしている。上か下どちらかから仕掛けるとしても、二基交互だと、射撃間隔はそれほど長くない。レヴニールが両方を引き受け、外させ続けることは難しい。敵もそこまで愚かではない。近づく他機を優先する。


「たぶん、REMPS(反復式電磁パルス装置)を使う」


 何を言っているんだとばかりの呆れた視線をフランが向ける。しかし、セリアがそんな今の空戦では当たり前のこと、しかもこの兵器には効果がないことを言うわけがない。


「これ、フィールドだって言ってたよな? どれくらいの半径かわからないけど、その外からのEMP(電磁パルス)しか防げないはずだ」


 ユーグの言いたいことに気付いたのか、フランも目を見開き、明るい表情になって問う。


「もしかして、中に置いてくるの?」


「それは無理。あまり広くない。たぶん、このわずかに光っている位置がフィールド」


 セリアの指し示す映像を見ると、機体からそれほど離れていない空中に、時折光の幕のようなものが現れることがある。ほんの数十メートル程度だろうか。この距離では、内側に入り込む前に撃ち墜とされる。


「これ、REMPS(反復式電磁パルス装置)から出ている荷電粒子との干渉か?」


「たぶんそう。オーロラと一緒。逆に言えば、これが出ているということは、確かに磁場による防御フィールドってこと」


「じゃあ、鉄の釘ばら撒いてみたら、みんなすごい勢いでくっついて、それで壊れちゃったり?」


 冗談のつもりでフランは言ったのだろうが、セリアはいたって真面目に応じた。


「電磁石で稼働しているはず。ありえなくはない。でもそんな欠陥、放置してるわけがない」


 がっくりと項垂れるフラン。セリアはなおもその話題を続ける。


「強磁性体を使えば、磁束を曲げることができる。大量の釘をばら撒けば、フィールドを歪めることは可能かもしれない」


 ぱっと明るい表情になって顔を上げるフラン。しかしすぐにまた俯きながら、自分の案に自分で突っ込んだ。


「もしそんなことできるんなら、爆弾落とした方がいいよね……」


「でも物理防御ではないというのはヒント。無誘導爆撃か、遠距離からの射撃なら通る」


 それを防ぐための高度一万メートル。単に効率よく飛べる高さにいたというわけではない。こちらの機体がもっと高く飛べるなら、向こうも一万二千メートルくらいまで上昇するのだろう。


「やっぱり、内側にREMPS(反復式電磁パルス装置)あるいはEMB(電磁パルス爆弾)を、どうにかして放り込むしかないのか」


「撃ち墜とされるから、ぶつけるつもりで近付かないと無理。でも入り込みさえすれば勝ち」


 レヴニールでも不可能に思える。そしてセリアは、これと会敵したら突入しそうな気がしてならない。


「お前まさか、チャレンジしてみる気じゃないよな?」


 セリアは何も答えず、すいっと視線を逸らした。やる気なのだとユーグは判断した。


「それはダメだ。レヴニールでも無理だ。こいつが単機で飛んでたら、彼ならやるかもしれない。だが周りにリベルラもいるんだぞ?」


「それでもやるのがレヴニール」


 大きく溜息を吐きながら、ユーグはテーブルに突っ伏した。食べるのを忘れていたサンドイッチが目の前にある。それを手に取りながら、気を紛らわすために冗談を言った。


「お前レヴニールにでもなったつもりかよ? 確かに技術は高いし、飛び方も似てるけど、無理なものは無理だろ。それとも何か、お前がレヴニール本人だったり?」


 任務の時以外、セリアをほとんど見かけない。実は部屋に籠もっているのではなく、レヴニールとして飛んでいるのかもしれない。そう考えての戯れ言だった。


 コンコン、と隣から頭を小突かれた。フランが呆れ顔で見下ろしている。


「あんた、睡眠不足でのーみそ壊れちゃった? さっき同じ空飛んでたでしょ、レヴニール」


「え……アンジェヴィルで?」


「うんうん。あたし、助けてもらっちゃった。もうどっかに映像上がってるんじゃないかな」


 慌てて端末を手に取り、検索を掛けてみるとすぐに見つかった。今朝、ユーグたちが消火活動に勤しんでいた時間帯の映像。


「本当だ。あの後レヴニールがどうにかしてくれたのか」


 空中要塞への対応や、サレイユの消火活動で空軍戦力が手薄になったアンジェヴィル市の空は、レヴニールの獅子奮迅の活躍で守られたようだった。


 普段見かけないからといって、同一人物と考えるのは、さすがに無理があった。そもそもレヴニールはあちこち転戦している。前線から遠いこの基地からだと、テレポート装置でもないと移動が間に合わない。


「エースパイロットの飛び方を見て、有効と判断したら真似るのは当たり前。実際あなただって、彼女の影響を受けてる」


 間違ってはいない。自分にもできそうな機動マニューバは取り入れている。なかなか有効には使えないが、それで生き残れたこともある。


 だが、セリアの言い方に引っかかりを覚えた。ユーグはその点を突いてみる。


「お前、今、彼女って言ったよな? レヴニールって男じゃないの?」


 彼女と呼称する人物に出会ったのは初めてだった。世間では男性と考えられている。しかし、無線に応答せず、誰も声を聴いた者がいない以上、定かではない。耳が聴こえないか喋れないから無線を使わないというのが通説だが、それも事実かどうかわからない。


 そんな謎に包まれたレヴニールについて、やたらと詳しい気がする。ネットでの憶測以上に知っている。セリアは、レヴニールと何か繋がりがあるのではないか。そう思えてしまう。


「レヴニールは女性。実際、映像から調べた人がいる」


 セリアは端末を操作すると、その画面をユーグに見せた。閲覧したことのないサイトだった。キャノピーの向こうに見えるレヴニールの姿。ヘルメットに隠れて、顔は判別できない。


 しかし、機体の大きさとの比較から、身長が試算されている。百六十一センチ。確かに男性と考えるには小柄すぎる。セリアよりは大きいが、フランよりも小さい。フランが特別長身なわけではなく、平均より少し低いと言っていた気がする。


「それさー、フェイクニュースだって言われて、すぐ消されたやつじゃない?」


 フランが見せたのは、SNSの投稿。レヴニールに関する各種の説で、フェイクだと確認されたものをまとめた表だった。確かに、女性説が含まれている。


 よく見ると、セリアの端末の画面に表示されているのは、キャッシュサイトだった。もう消されているから、キャッシュを見せたのだろう。だから、ユーグの目に触れることはなかった。SNSの投稿の方は、ユーグの知らないアカウントで、元々観測対象外。


「お前もレヴニールに興味あるのか」


 すぐにフランがそれを持ちだしたので、常時チェックしていると考え、ユーグは訊ねた。


「もちろん。だってカッコいいじゃん。あたしはね、中身もイケメンお兄さんだと思うなー」


 意地悪そうな笑みをユーグに向けて、フランは続ける。


「ユーグなんかよりもっと気が利いてー、女性に優しくてー、お金持ちでー、高学歴でー」


「言ってろ……」


 妄想を垂れ流し始めたフランを無視して、サンドイッチをぱくつく。ニヤニヤとしながら覗き込んでくるフランが目障りで仕方ない。


 隊長がやってくるかと思っていたが、一向に来そうにない。セリアはもう食べ終わって暇そうにしている。相変わらず顔には出さないが、戻って眠りたがっているかもしれない。ユーグは残っていたサンドイッチを紙ナプキンで包みながら提案した。


「今日はもう解散にしよう。俺たちだけで考えても答えは出ないし、何の準備もできない」


 兵器のことは、メラニーに相談してみるのが良いかもしれない。最先端電子兵器の研究者だったくらいだから、何か妙案を思いついてくれる可能性がある。


「そうしよっか。さすがに眠くて仕方ないや……」


 ふあああと大あくびをしながら、フランが立ち上がる。セリアは三人分の皿を集めて、食器返却口へと持っていってくれた。


 それぞれ方向が異なるので、入り口で別れを告げる。部屋に戻りながら、先程のレヴニール女性説の記事を探した。気になることがあり、確認をしたかった。


 検索しても該当記事そのものは出てこない。記事を紹介したSNSアカウントの方も削除されている。投稿内容が見えず、サイトのキャッシュを探せない。


 アカウント名は見えるので、アカウントそのもののキャッシュを探してみた。一番上にレヴニール女性説についての投稿がある。その日付に、先程覚えた違和感が強くなった。


 リンクを辿り記事の本文を見ると、それが確かだったとわかった。記事の日付は、ほんの五日前。それより前に、セリアはレヴニールのことを彼女と呼称しなかっただろうか。


 まだ間に合うと思って、セリアの部屋へと走った。追いつくことこそできなかったが、呼び出すと応答があった。


「セリア、済まない。ちょっと聞きたいことがあるんだ」


 それに対する返事はなく、十数秒後に扉が開いた。セリアの格好を見て、ユーグは慌てて背を向ける。


「す、済まない。無視してくれて良かったのに……というか、どうしてその格好で扉を開けた?」


 シャワーを浴びていたようで、バスタオル一枚を巻いただけの姿だった。プラチナの髪からは雫が滴り落ちている。


「扉を開けないと眼が見れない。フランに言われた。話すときは相手の眼を見ろって」


 律儀に守りすぎる。恥じらいも見せずに、無表情で立っているのだろうと思うと、余計に耐えきれない。


「今はいいから、とりあえず中に入って扉を閉めてくれ。インターフォン越しの会話でいい」


 扉が閉まる音がして、その後インターフォンから声が聞こえてきた。


「これでいい?」


「あ、ああ。……その、レヴニール女性説についてなんだけど、あの記事より前から彼女って呼んでなかったか?」


 返事がない。まだあのままの格好で後ろに立っていそうな気がして、ユーグは振り向けない。大分時間が経ってから、セリアの声が聞こえた。


「あなたとレヴニールについての会話をしたのは、過去に十三回。すべてのやり取りを思い出してみたけど、私が彼女という代名詞を使ったのは、今日が初めて」


(なぜそんなに詳しく覚えてるんだ……?)


 確かに十三回くらいな気がする。しかし、会話の内容まですべて覚えているとは異常。レヴニールに執着しすぎだと思う。


「どうしてそんなこと言い出したのかわからない。もし以前にも使っていたら、もっと早く今日のようなやり取りがあったはず」


 言われてみて、確かにそうなのかもしれないと納得してしまった。今までは気にならず、今日初めて気づくわけもない。


「そう……だよな。済まん、重ね重ね。もう戻る。その……わ、忘れておくから……」


 不可能だと思いつつも一応そう言った。濡れたことでいつも以上に光を乱反射し、キラキラと輝いていたプラチナの髪が目に焼き付いている。露になった細く白い肩も。


 それ以上考えてしまわないように、部屋まで猛ダッシュして帰った。着替えもせずベッドに飛び込み、ブランケットを被って目を閉じる。――が、逆効果だった。


 慌てて起き上がり、何か集中できることを探して端末を手に取る。


(そうだ、レヴニール。昨日はどうやって敵を墜としたんだ?)


 せっかく一緒の戦場を飛んでいたのに、気づかなかった。これこそ悔やまれる。先程はよく見る時間がなかった、アンジェヴィルでのレヴニールの活躍のまとめを開く。


 おそらくこれは、ローザニア軍が投稿している。過去の首都防衛戦はともかく、今日のアンジェヴィルでの映像を、一般人が撮影できるわけがない。ほとんど残っていないはずな上、REMPS(反復式電磁パルス装置)の影響もある。


 電磁投射砲レールガンの照準装置の映像をモニタしたものだろうか。あるいは、索敵用の光学カメラだろうか。かなりのズームで、高空での戦闘を撮影してあった。


 動きを追う正確さからすると、電子制御式のもので間違いない。敵機ではなくレヴニールばかり追っている。元々レヴニールを撮影するためのものかもしれない。


 彼の存在は、ローザニア国民の希望であり、北エルトリアにとっては絶望の象徴。確かな情報源に基づく事実として、ホワイト・プロパガンダに利用しないわけがない。


(コブラ!?)


 あの時の状況と似ていた。レヴニールの背後の敵機を、下方から味方機が追いかける位置関係。コブラで急減速したレヴニールを撃つために減速した敵機を、味方機が死角から撃ち抜いた。


 さすがに機体を捨てる気でやったわけではなく、すぐに機首を戻しつつロールして敵の射撃を躱した。確かにレヴニールも、有効だと判断した場面ならコブラを使うのだ。


(待てよ、あの時セリアは……)


 コブラで撃墜されたあの日。『レヴニールだってあんな飛び方はしないぞ』と警告したら、『有効だと判断した場面なら、彼女だってやる』とセリアは答えた。間違いなく、『彼女』という代名詞を使っていた。


 あれはレヴニール女性説の記事より前の話。ユーグの違和感は間違っていなかった。あの日の時点で、もう彼女と呼んでいた。


 そして、この映像の飛び方。レヴニールの方がセリアを真似たように見える。念のため、レヴニールのコブラについて調べてみた。確かに昨日が初めてのようだ。


 この動画は、コブラの部分が切り取られ、SNSで大きな話題となって拡散されている。曰く、『コブラは単なる見せ機動マニューバではないということを、昨日レヴニールが証明した。彼ならば、実戦的に使いこなせる』と。


(やっぱり……似ている)


 今日のレヴニールの映像を見れば見るほど、セリアの飛び方と共通点が多い気がしてきた。レヴニールのシンボルである死神の鎌デスサイズを持った幽霊のような姿のエンブレムが、機体についている。昨夜同じ空を飛んでいた以上、セリアと同一人物説は完全否定できる。


 そこでレヴニール複数人説を思い出した。レヴニールと称されているのは一人。エンブレムから見ても、同時に一機しか飛んでいないのだから間違いない。


 しかし、最初からこのエンブレムをつけていたわけではない。人々の間で噂になり、神格化されてから。おそらくは、総司令部の意向によるもの。だとすると、その前は複数のパイロットが混同されていたのだとしても、おかしくはない。


 似た飛び方をする者たちの中で、卓越した技術により唯一生き残ったパイロット。それがレヴニールだと考えれば、辻褄は合う。似ている理由は、おそらく同じ訓練を受けたから。


 セリアは海軍兵学校の一年生だと言っていた。今までの部隊で、同様の出身の固定翼機パイロットと出逢ったことはない。内海にいくつか小島を領有しているものの、本土から近く、空の防衛は空軍の担当。ゆえに、規模が極小で、人数が少ないために見かけないのかと思っていた。


 違ったのかもしれない。元々海軍航空部隊など存在せず、REMPS(反復式電磁パルス装置)影響下での手動操縦による戦闘に対応するため、急遽育成が行われただけ。ユーグたちと似た位置づけ。空軍士官学校だけでは足りないから、滑走路を持つ海軍兵学校でも同じことをしていた。


 そう考えると、納得できるような気がする。そこでの教育が、彼女たちをあのように変えた。


 オリジナルのレヴニールは、確かに大陸間戦争時代の撃墜王エースだったのかもしれない。その人物が、あの飛び方を彼女たちに教えた。海軍兵学校のパイロット候補生たちに。


 そして首都防衛戦に参加し、今レヴニールと呼ばれている人物と、セリアだけが生き残った。それならば、二人の飛び方が似ていることに説明がつく。彼女がレヴニールに固執することも、やたらと詳しいことについても、レヴニールが女性と確信していることについても。


 今も連絡を取り合っているのなら、コブラの話を聞いて、レヴニールが手本を見せたということもありうる。


(親友……あるいは、姉妹……)


 何か深い関係にあるのは間違いないだろう。伝説のエースパイロットとして神格化されたレヴニールに対して、劣等感でも抱いているのかもしれない。だから功を焦って、レヴニールの上を行こうとして、あれほどの危険を冒してしまうのだとしたら。


(どうにかしてやれるのは、俺――いや、俺たちだけか)


 ますます放っておけなくなった。少しずつ変わりつつある。フランも頑張ってくれている。


 あの時と同じ決意を、再び固めなおした。国を守るのはレヴニールに任せる。代わりにユーグは、セリアを守る。フランと隊長にも助けてもらって。サンドリヨン小隊の家族なのだから。


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