出世街道どちらを選ぶ
「右が良いか、左が良いか、どちらが出世の近道か」
二枚の書状を見比べては首を傾ける三吉の煮えきらない態度に平助は呆れてしまった。
「三吉よぉ、いい加減に決めたらどうだい。もう三日も同じことを繰り返してるじゃねぇか」
「繰り返しもするとも。こいつで俺の人生が決まるんだぞ」
三吉と平助の間に置かれた二枚の書状。
それは豪商である平助の父親のツテを使って三吉が用意してもらった二人の武将への紹介状だった。
「今は戦国の世、俺にどれだけの才能があろうと仕える上司が無能なら一蓮托生で討ち死にだ。
石橋を叩いて渡る用心は決して笑われることじゃないぜ」
「三日も渡らぬ臆病者を前にしちゃあ石橋も腹を抱えて笑い出すだろうぜ」
「平助、お前は他人事だからそうやっていられるのだ。
試しに自分が士官するつもりで考えてみたらどうだ。俺の気持ちも分かろうはずだ」
「そうさねぇ。賽子を振って丁なら右、半なら左ってとこだな」
運否天賦で選ぶという平助の言葉に三吉は苦虫を潰した表情で親友を睨む。
「おいおいそんな顔をするなって。これには立派な理屈があるんだぜ」
「賽の目に理屈があると言い張るか」
「言い張るともさ。まぁ聞きな」
平助は巾着袋から賽子を二つ取り出しながら口上を述べる。
「もしもこの紹介状の相手が北陸や関東の聞いたこともねぇ田舎大名に仕える田舎武将のものなら
そりゃあどちらのお家が栄えそうか悩みに悩んで選んだ方がいいかもしれねぇよ。
だがなぁ三吉、俺の親父が用意したその二枚の紹介状の相手はどうだ。
今やその名を知らぬ者などおらぬというくらい天下にその名を響かせる名将のお二人じゃねぇか。
どっちを選ぼうと道は山の頂へと続いてるに違いねぇ。
今大切なのは一日でも早く士官して出世の階段を登り始めることよ
だらだら悩んで他の連中に遅れをとるくらいなら丁半博打で決めた方がよっぽどマシってもんだ」
「なるほどねぇ。一理あるかもしれねぇ」
「一理も二理もあるともさ。さぁてどちらの目が出るのか御覧じろ」
平助は勢いよく賽子を転がした。出た目は二と六。
「二六の丁。右に決まりだ」
「……いいや左だ、左を選ぶが出世の近道に違いねぇ」
「あん?ようやく決めたのはめでたいがどうして右じゃなくて左なんだよ」
「放蕩息子の平助さんに博打の才能がないことをようく知ってるからさ。
どちらの道も山の頂に通じてるとしてもきっとお前さんの選んだ右は左に一歩遅れをとるに違いない。
先に天辺にたどり着くのは左のお方さ」
今度は平助の方が苦虫を潰した顔になる。
反論したいがそうするには博打の負けに心当たりが多すぎた。
その様子を見た悪友は愉快そうに笑いながら立ち上がる。
「じゃあな平助。次に会う時は俺の立身出世の物語をたっぷりと聞かせてやるから楽しみにしとけ」
三吉はそう言って右の羽柴秀吉への紹介状を屑入れに投げ捨てると
左の明智光秀への紹介状を握りしめ意気揚々と駆け出していった。
時は天正十年。
明智光秀が「ときは今 あめが下しる 五月哉」と歌を詠み本能寺の変にて三日天下の主となる一月前の出来事であった。




