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5話ー『犯人はアラン』

 戦闘開始から約30秒が経過した。


「ーーッ!! 見ろノボルッ!!」


 その時ブラックゴブリンの身体に明らかなる異変が起きた。


「やっぱりアイツ再生持ちだぜッ!!」


「まさかとは思っていたけど、やっぱりそうかッ!!」


 ーー再生。

 それは身体、自動修復能力のことを言う。

 高位のモンスターに備わっているパッシブスキルの一つだ。


(やはり、あの時の違和感はそれだったか……)


 振り抜いた拳には、確かな感触があった。

 だけど気になったのは、その時に感じた手応えだ。


「ハッキリ言って弱すぎた」


 殴った感触だけで言うなら、その辺のスライムを倒したみたいなぐらい弱い。

 ここまで悲惨な光景を作り上げている相手が、そんな簡単にやられる玉とは思えない。


「何か隠し玉を持ってそうね?」


 眉根を寄せながら訝しんだアーシャは、その赤い籠の目の瞳を光らせながら冷静に現状を分析する。

 俺たち三人は友情の冒険者トレインを紡ぎながら、その自動再生能力をまじまじと観察していた。

 胴体のみとなったブラックゴブリンを起点に、周囲で赤く滲んだ血液が宿主へと還って行く。

 それもかなりのスピード。

 数ある再生能力の中でも「高速再生」の部類に入るのは間違いない。

 警戒心を最大限に釣り上げる。

 敵対しておいて言うのもなんだが、舌を巻くほどに恐ろしい再生能力だ。


「とんでもない再生能力だな」


 まるで宇宙から飛来したエイリアンのようだ。

 赤い血液の繊維がゆらゆらと空中を揺らめく。

 マフラーを編み込む糸のように、本体であるブラックゴブリンの頭部が見る見る内に修復して行く。

 俺たち三人の織り成す冒険者トレイン・スーパー・ダッシュアタックは、次の攻撃までに少なからずの時間を有するところが弱点だ。


(基本的には俺の溜め技に頼った、ヒット&アウェイが主流だからな……)


 回復されるのが目に見えているのに。

 こっは黙って次に備えることしか、今の俺たちにはやれることがない。

 それは一言で言うなら苦痛の時間だった。

 攻撃したら陣形を整える為に一度後退する。

 それは例えるならば、地下鉄の環状線のようなものだと俺は思う。

 グルリと周回して再び同じ場所へと辿り着く。

 その為には、もう一度円を描いて一周しなくては、二度と同じ場所に辿り着くことさえ出来ないのだ。


「ーーなるほど。確かにこれは最強種だ」


 竜種にも劣らない頑丈なタフネス。

 その上で回復能力だけなら、明らかにワイバーンの比ではない。


「アタシたち三人とじゃ、ちょっと相性が悪い相手よね」


「ちょっとどころじゃないでしょアーシャ。

 だいぶ悪い。

 持久戦になると完全にボクたちが不利になる。

 分かってるだろ?」


「まぁ、そりゃそうだけど……。

 で、どうするのよノボル?」


「ーー色違いは、やはり伊達ではないと言うことか……」


 黄金(ゴールデン)パンチを一発食らわせたことで。

 俺はどうやら、自分たちの力量に慢心していたみたいだ。

 次の一撃。

 いや、二撃を当てれば確実に仕留めることが出来るだなんて。

 ーーそんな淡い宛がハズレた瞬間でもある。


「ちょっと!! 聞いてるのノボル!?

 感心している場合じゃないでしょ!!

 消耗戦でマジックアイテムが尽きれば、5%の壁を超えられる可能性が出てくるッ!!

 長期戦になればなるほど、アタシたちのトレインは不利になるのよッ!?

 決めるなら短期決戦以外にあり得ないんだからッ!!」


 激昂しているアーシャが俺の背後から叫ぶ。

 指示に迷いのある俺に苛立っているのだ。


「分かっているさッ!! だがーーッ!!

 なんだか妙なんだ、この雰囲気ッ!!」


 まるで今のは、ほんのチュートリアルのような薄ら寒さを感じる。

 それは言葉に出来ない感覚。

 得体の知れない直勘の類の産物だ。

 一言で言うならば「不気味」なのだ。


「あいつ、多分まだ何か隠してるぞ」


 それが何かは分からない。

 だからこそ、より怖いと感じる。


「どうするノボル? もう一回アレやるか?」


 決断を決めあぐねて俺が顔を伏せていたところ。

 カイトが振り向いて視線を寄越して来た。


「ノボルが悩む気持ちもよく分かるよ。

 ボクもさっきのやり取りで違和感を覚えた」


「カイトも気が付いたか?」


「あぁ、ボクもさっき感じた。

 まるでデモンストレーションみたいな手応えの無さだ。

 直接ブラックゴブリンに触れた訳じゃない。

 けど、あの鍔迫り合いは、かなり楽勝だったように思える」


「それじゃあ、やっぱりさっきの一撃は、ほんの肩慣らしだったってことで良いの?」


「うん……多分ね。

 魔法でしか対峙してないアーシャが、そのことを感じ取れなかったのは、無理もないさ。

 魔法と物理じゃ、なにせ直接相手に触れられる手応えが違うから……」


「なるほど……そういうこと……。

 けど、じゃあアレはまだ第一形態ってことなの?」


「そう、だろうね。恐らくは……。

 第二形態……いや、もっとある可能性まで考えられる。

 ひとまず、ここはノボルに決断を任せよう。

 この暁の旅団のリーダーは、なんと言ってもノボルなんだ。

 ボクはノボルの決断を一番に信じる」


 そう言ってカイトは、視線を真っ直ぐに前方へと戻した。

 俺のことを信じてくれている。

 その期待に応えなくては、友ではない。


「そうだな……。一度、距離を取って様子を見よう。

 フォーメーションをA→遊撃形態のBに変更する。

 俺とカイトの感じた得体の知れない感覚が確かなら。

 恐らくブラックゴブリンには、まだ第二形態が残されているに違いない」


「本当に第二までだと良いけどね?」


 そう言ってカイトは緩やかにスピードを落とす。

 合わせて解除された冒険者トレイン。

 俺たち三人は、並列に並んだ遊撃形態のフォーメーションBへと移行しようとする。

 ーーだが、その直後だったッ!!

 いつもは徐々にスピードを落として止まる筈のカイトが、急にピタリと停止したのはーーッ!!

 「がッ!?」と言う呆気ない声が、続く俺とアーシャの口から溢れる。

 途端に止まったカイトの背中に激突したのだ。

 身体が宙を浮いて、遠心力によって前方へと投げ出される。

 ふわり、そんな擬音が耳に張り付く。


「痛〜ッ!! ちょっとッ!! 急に止まらないでよノボルッ!!」


「俺じゃないッ!! 止まったのはカイトだッ!!」


 空中で悲鳴のような声をあげながら、俺とアーシャの身体が綺麗に三日月の弧を描いて、雪原の地面に叩きつけられる。

 辛うじて受け身を取り、俺とアーシャはゴロゴロとその場に転がる。


(ーーあっ、足元が雪道であったことが救われた……ッ!!)


 もしも、この急スピードで足元がアスファルトだった場合を想像したら。

 そこには、想像に(かた)くない出来事がが起こっていたに違いない。

 それでもーー、


(ーークソッ!! 身体はかなりのダメージだッ!!)


 立ち上がるのもやっとの打撃系ダメージ。

 脳震盪を起こしたようにグラつく視界で、まるで大地震の後みたいな地震酔いを思い出す。

 目まぐるしく回る視界は、まるで回転性の目眩でも起こしたみたいで気持ちが悪い。

 全回状態だった俺のHPバーが、気が付けば緑からイエローゾーンへと減少して行く。

 冒険者は、このHPバーを失った時に初めて死ぬ。

 これがレッドゾーンを超えて0になれば、それで俺たちの命は尽きることになる。


「たった一撃でこのトチかッ!!」


 衝突後の後遺症は、かなりの物だ。

 激痛の走る身体に歯噛みして堪えながら、辛抱強くその場から立ち上がろうとしたーーその時だッ!!

 四つん這いになって顔を上げた瞬間、そこから立ち上がろうとする直後。

 眼の前で硬直していた筈のカイトの身体に向かい、黄色い閃光がまるで落雷のように駆け抜けるのが見えた。

 ぶしゃり、と音を立ててカイトの首が刹那的に宙を舞う。

 雷のようなジグザグの軌道がカイトの首筋を断ち切る。

 ふわりと宙に待った青髪の青年の首が、ぽとりと音を立てて雪原の斜面にすっぽりと収まる。

 埋もれた箇所から一気に赤い染みが広がる。

 稲光のように残った光線がまるで雷鳴のように遅れて光る。

 形容しがたい呆気ない終わりだ。

 友が死んだ。カイトが死んだ。

 目を瞑りたくなるような現実が、俺の心を掻き毟るように襲う。

 見たくもない光景を見てしまう。

 それは紛れもない友の死。

 カイト・スヴェンソンの殉職だった。


「カイトぉおおッ!! うぁあああああああッ!!」


 ーーマンマ・ミーアッ!!

 嗚咽混じりの俺の絶叫が、山彦となって雪原に響き渡った瞬間でもある。



 首と胴体を切り離されたカイトの身体が、ドサリと音を立てて雪原に倒れ込む。

 それが人間とモンスターの違い。

 普通の人間は、首を切断されただけでこうも簡単に死んでしまう。


「ーー友が死んだ。カイトが死んだ」


 カイト・スヴェンソンが死んだ。

 受け入れ難い現実を前に、俺はブツブツと呪詛のように言葉を吐き捨てる。

 恨めしい。憎い。友を殺したアイツが許せない。

 そんな憎悪の連鎖が、まるで沸騰したヤカンのように心の奥底で警笛を鳴らす。

 網膜の裏に鮮明と焼き付いた友の死が離れない。

 それは決して揺るぎようのない、歴史と言う名の鎮魂歌だ。

 彼はさっきあの瞬間。

 朽ちてこの世界の歴史にその名を遺した。

 ーーカイト・スヴェンソン(死亡)

 世界の歯車に一度でも刻んでしまったその名前は、もはや決して癒えることはないのだろう。


「クソがッ!! クソッタレッ!!」


 雪道の斜面を拳で叩きつけ、何度も何度も繰り返し叫んだ。

 立ち上がるのが辛い。

 それなのに俺は、まだここから立ち上がらない訳にはいかない理由がある。

 そのことに心がポッキリと折れかけている。

 グルグルと回る心の渦中が、憎悪と言う名の憎しみを連鎖させていたのだ。

 怒りと憎しみで気が狂いそうだ。

 今すぐに立ち上がって敵を取れ。

 そう思っているのに、足は竦んで思うようには動き出せない。

 一番硬くて、一番速い男が死んだのだ。

 それよりも速く動けて、硬さを超えてくる相手に、俺だけだでどうこう出来る訳もない。


「最早、バカ正直に真正面から闘って勝てる相手だとは、到底思わんッ!!」


 クッ、と歯噛みして、それでも俺は立ち上がる。

 この時点で俺たちの敗北は、確定してしまったも同然だ。

 だからと言ってこの身を投げ出す訳には、いかない理由が存在した。

 友が死んだショックは、確かにかなり大きい。

 俺だけが生きているなんて、罪悪感で押し潰されて今にも自死を選びたくなる。

 誰かに殺されるのならば、せめて自分で

 だけどそれでも俺は、今を生きることを諦めきれない。

 ーー諦めてはいけないッ!!


「諦めたらそこで何もかもが終わりだッ!!」


 ーー生きている限りは、人間は何だって出来る!!


「せめてアーシャだけでも、この場から逃さなくてはッ!!」


 背後にはまだ、俺の大事な婚約者のアーシャが残っている。

 それだけが、今の俺に残された大事な宝物なんだ。

 それを護り抜く為に!!


(今できる最善の方法を考えろ!!)


 思考をフル加速させるんだ。

 脳内のコマンドを「たたかう」→「にげる」に変更する。

 クラウチングスタートのような要領で、勢いよく足を踏み出そうとしたーーその時だ。

 自分の足を力いっぱい動かそうとしても、動き出さないことに気が付いたのは。


「なッ、何でだッ!?」


 ーーバカな!! おかしいッ!!

 立ち上がろうとしたのに、動き出せないなんて。

 恐怖心に劣った訳ではない。

 痛みに我慢ができず耐えかねたのとも異なる。


(ーーどうして俺の身体に麻痺がッ!?)


 動けなかったのは、身体が状態異常の麻痺を起こしていたからだ。

 目に見えるほどの帯電した電流。

 それらが俺の身体に纏わりついて、ビリビリと黄色い電気を流し続けている。


(ーーバカなッ!? あり得ないッ!!)


 アーシャのかけたバフの持続時間は、まだ残っている筈だ。

 守護魔法のクールタイムは15秒。

 その間は、アーシャのアクティブスキルがクールダウンに入る。

 だが、俺たちはいつもその弱点に対策を施してある。

 クールダウンカットアイテム。

 ーー「クソふざけたたくあん」。

 これがあると、魔法及び物理スキルのクールタイムを15秒軽減できる。

 このマジックアイテム自体のクールタイムは、ジャスト30秒。

 戦闘中にアクティブスキルをかけ直すタイミングで使えば、擬似的な無限ループが発動できる。

 アーシャには、産まれながらにある絶妙なリズム感と、絶対音感のスキルが備わっている。

 例え戦闘中であっても、アーシャがこのタイミングを逃す訳がない。

 視界の右端に映るステイタスアイコン。

 そこには、28秒と言うアーシャのバフの持続時間が刻まれている。

 つまり、この時点でアーシャのアクティブスキルは、ちゃんとかかっている状態だ。

 それにさっき、話をしている最中にアーシャがアイテムを使うところもこの目で見ていた。

 だけどカイトが急に止まった理由は、間違いなく麻痺だ。


(ーー完全耐性を超えられたのか?)


 そうとしか考えられない。

 状態異常対策を100%にしていたところで、状態異常にかかってしまうシチュエーションは、この世に一つだけ存在する。

 それは相手の状態異常をかける数値が、こちらの守護耐性100%以上を超えて来てしまった時だ。


(ーー世界仕様(ワールドシステム)に不具合はないッ!!)


 だったらどうして麻痺になるッ!?

 ブラックゴブリンの吐いた毒霧とマヒ霧が周囲には蔓延している。

 だけど俺にかかっているのは、マヒ霧だけだ。


(片方だけ、耐性を超えて来たと言うのか?)


 異変が起きて、ブラックゴブリンが復活し始めたあの時から。


(あるいは、何だ?)


 モヤモヤと霧がかった状態で俺は思考を続ける。

 答えは、いつまでも出ない。


(守護騎士におけるパッシブスキルは、本人の死後にもその恩恵が与えられることの出来る永続スキルだ……)


 今ある状況でこの謎を推理するなら、ブラックゴブリンのマヒ霧だけが100%の防御耐性を超えて来たとしか考えられない。


(ーーあるいは、アーシャがしくじったかだ。

 ーーだが、どうしてカイトだけが麻痺になる?)


 あの時、あの瞬間、真っ先に止まったのはカイト一人だ。

 そこに俺とアーシャが後ろからぶつかった。


(どう考えてもこの状況は、おかしい……)


 ブラックゴブリンの吐いたマヒ霧が、本当に第二形態に再生したことで、その片方だけが100%を超えて来たとする。

 それならば、


(麻痺にかかるのは三人同時でなくてはならない筈だ……)


 アーシャがしくじったケースにしても同じことが言えるだろう。


「ノボル!! カイトがッ!! カイトがッ!!」


 アーシャの悲痛の叫び背後から聞こえた。

 咄嗟に振り向いて彼女の姿を確認したいと思った。

 だが、今の俺にはそれさえも出来ない。

 辛うじて出来るのは、言葉を発することだけだ。


「クソッ!! 動け俺の身体ッ!!」


 歯噛みして悪態をついた時。

 俺の視界の端では、アーシャが駆け抜ける姿が目に飛び込む。


「なッ!? アーシャはまだ動けるって事かッ!?」


 理由は分からない。

 だが、アーシャは麻痺にはかかっていないみたいだ。

 一体どうして?

 そんな疑問が俺の脳裏を掠めた時、それよりも俺はアーシャの身の危険を感じた。


「ーー待てッ!! アーシャッ!!

 お前一人じゃそいつには勝てないッ!!」


 手を伸ばして俺は叫ぶ。

 いくら暁の旅団の中で一番足が遅いと言っても、彼女も立派に手練れの冒険者だ。

 本気で走れば遅い訳がなく。

 その初速は、実に60km/hを上回る。

 ーーだが、逆にそのことが意味する事とはーーッ!!


「頼むから止まってくれッ!!

 今のお前じゃそいつには勝てないんだッ!!」


 ここでアーシャまで失えば、俺にとってこの戦闘は最悪の結末を迎えることになる。

 友まで失い。

 その上で婚約者まで失ったとあっては、俺はこの先どうやって生きればいい?

 考える余地なんて無かった。

 縋り付くように必死に伸ばした右腕に、バチバチと電流が迸る。

 身体に激痛が走るのを堪えて、その場から全身全霊で立ち上がろうとする。


「動けぇええええッ!!

 俺の身体ぁあああああッ!!」


 叫んで力んで、懸命に自分の身体に鞭を入れる。

 全身の筋肉がはち切れそうになりながら、ようやくの想いで俺の身体を一歩と足を踏み出そうとしたーーその時だった。


「グプッ……?」


 途端に自分の右腕から力が抜け落ちる。

 再び四つん這いになり、頭だけを上げてアーシャの走りゆく背中を遠巻きに見つめていた。


「何だ……? これ……?」


 自分の唇から、真っ赤な血液がポタリと滴る。

 それは言うまでもなく、自分の内蔵器官から込み上げた血塊だろう。

 次の瞬間には、ドバドバと吐瀉物を吐き出すように俺は血の塊を吐き出す。

 目下の雪原に赤い染みがじわりと広がるのが見える。

 ーー誰かが、俺の背中を刺したのだ。

 そしてその誰かは、きっと刃物のような鋭利なものを使ったんだろう。


(背中にナイフのような小刀が、突き刺さっている感触……。

 これはーーマズいな……)


 内臓機能を深くやられているのが分かる。

 込み上げる吐気に、たまらず二度目の嗚咽を繰り返す。

 吐き出された血塊が、バケツをひっくり返したように再び広がりを見せる。


(誰かは知らないが、このままでは俺も長くは持ちそうにないな……)


 自分の死期を悟るには、充分な一撃だった。


(まだ、瞳を閉じる訳にはいかない……)


 クラクラと酩酊する意識の中、俺は必死で瞬きを繰り返す。

 意識が落ちるその瞬間、俺の生命の鼓動が途切れる時だ。


「ーー誰だッ!! お前はーーッ!?」


 後ろに誰かが居るのだ。

 そして、その誰かが俺の背中を刺した。

 限りある命の時間を用いて、せめてそいつの顔だけでも拝んでやろうと思った。

 その時、


「ーーお前がいけないんだぜ?」


 ふいに俺の耳に、聞き覚えのある声が届いた。

 自分の肩に手をつかれて、そこに目をやる。

 そこに立っていたのは、あの冒険者ギルドの受付係員アラン・モルドだった。

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