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23話ー『二人のニシジマ』

「嘘だ……このグレゴリオ・ライオット二世ともあろう者が、このようなクソふざけた庶民に遅れを取るなどッ!!」


 剣型の魔導戦機ネオのキャタピラーが、尚もウィーンと回転し続けて虚しい駆動音を響かせる。

 どうやらグレゴリオは、未だ俺に負けたと言う事実を認めたくはないらしい。


「はっきりと言って時間の無駄だグレゴリオ。

 お前は俺に負けた」


 その事実を告げると、俺はマジカルチンコで手を伸ばす。


「このクレーターの勾配は、見ての通り射角がきつ過ぎて、一度落ちればもう這い上がることはできない。

 そのぐらいのことなら、お前にだって分かってる筈だろ?」


 ーー今ある、この瞬間の光景こそが全てなのだ。

 舞い散る砂埃に、ビュウビュウとそよ風が吹き荒れる。

 もはや拳を振るう意味なんてどこにもない。

 ーー勝敗は、既に喫していた。


「肩肘を張ってないでこれに掴まれよ」


「いや、だとしたら、せめてチンコじゃなくて手を出すべきでは?」


「いちいち、そんなこと気にするなよグレゴリオ。

 お前がチンコと握手した男だなんて、俺は絶対に言い触らしたりなんかしないから」


「その約束……絶対に守れよ?」


「あぁ」


 グレゴリオは剣型の魔導戦機の手を伸ばすと、俺のマジカルチンコソードの先端をガシリと掴む。


「クッ!!」


「貴ッッッ様ァ!! やめないかッ!!

 勘違いされるような声を出すんじゃあないッ!!

 もっと周囲の観客席のヤツらにバレないように引っ張らないかッ!!」


 そう言ってグレゴリオは、俺のマジカルチンコの手を振り払う。


「何だよグレゴリオ? そんなこと気にするなよ」


「気にするわ!! 貴様は、国家王国騎士の誇りをなんだと思っているッ!!」


「お硬いヤツだなぁ。

 そうは言ったって、そこから自力で登って来れないじゃないか?


「もうよいッ!! 自分で登る……」


 そう言ってグレゴリオは、剣型の魔導戦機の腕部からワイヤーフックを射出するが、それもケーブルの長さが足りない為に斜面を滑って転がり落ちて行ってしまう。


「この穴の深さは、ざっと240メートルはあるぞ?」


 ワイヤーフックの長さは、全部出しきったところで精々120メートル程度にしかならない。

 ここから脱出する方法は他にも一つだけあるにはあるがが、プライドの高いグレゴリオでは、そんな発想さえ出てこないみたいだ。


(二人分のワイヤーを合わせれば、ちょうど240メートルになるのにな……)


 あくまでも他人の手を借りると言う惨めな行為を、彼の信念自体が許せないみたいだ。

 そしてそのことが、極端にグレゴリオの現状を、ますます惨めにさせてしまう原因でもある。

 はぁ、と一呼吸をついて、俺はグレゴリオが足掻き続ける姿をジッと見下ろして観察していた。

 とーーちょうどその時、


「もう良いだろうグレゴリオ。

 大人しくターニャの手を借りたらどうなんだ?」


 闘技場の東口から歩いて来たのは、黒髪青目の一人の青年。

 筋骨隆々とした肉体に、肩口からビリビリに破れたオレンジ色の道着を羽織り、足元には先の尖った青色の靴を履いている。


「に、ニシジマさん……」


 グレゴリオの声色が、借りて来た猫のように大人しくなる。

 そこに立っていたのは、俺もよく知る人物。

 何を隠そう、俺自身だった。



「ーーグレゴリオ。お前のそういう騎士と言う地位に誇りを持てる性格は、俺としてもかなり気に入っているがな?

 だが、負けは負けだ。

 それに、自分の置かれた状況を冷静によく見てみろ?

 そこから這い上がるには、どう足掻いてもターニャの手を借りる以外に不可能だ。

 目先の熱さに囚われて冷静さまで欠くようでは、今後のお前の昇給試験にも影響が出る。

 ここは潔く手を借りて、負けを認めてまた頑張れば良いさ」


 沈黙を是とするように黙り込んだグレゴリオに、両者の力関係が明白なことは、すぐにでも理解できる。

 しかし、


(この男、何者なんだ?)


 姿形、それと着ている服装。

 何から何まで俺そっくりだ。


「名前は確かーー」


「ニシジマ・ノボルだ。よろしく」


 そう言って俺の拳型の魔導戦機を見上げて、ニシジマ・ノボルは俺に手を振る。


(その名前は、俺の名前だ……)


 ニシジマ・ノボル。

 それは俺がターニャ・クライリスに転生する以前、自分自身の7年前の名前になる。


(一体こいつは、何者なんだ?)


 ニシジマ・ノボルが二人居る。

 それは、どう考えてもおかしい状況。


(やはりこの世界は、パラレルワールド?)


 知りたいのは、この世界で今起きている真実だ。


「ーーターニャ・クライリスだったな?

 グレゴリオとの決闘は、メタルコロッセウムの上空を飛んでいる撮影用のドローンから拝見させて貰ったよ。

 ーーその上でどうかな?

 俺からも君に一つだけ提案があるんだが……」


 そう言ってニシジマは、にこりと微笑んで白い歯を浮かべる。


「悪い提案でないなら、喜んで聞くよ」


 自分自身と話すだなんて、なんだか不気味な気分だ。


(けど、7年前のあの事件と、今この世界で起きている真実を確かめる為にも、このもう一人のニシジマ・ノボルとは、俺としても今の内に接触しておきたい……)


 問題なのは、その提案の内容だが……。

 ニシジマはこくりと首を縦に揺らすと、腕を組みながら俺の機体を真っ直ぐに見上げる。


「もちろん君にとって悪い提案ではない。

 グレゴリオとの話の内容から加味して、君は確か国家王国騎士になりたいんだったよな?

 我々としても人手不足が続いていてね。

 優秀な人材は、いつだって欲しいと思っていたところだ」


 そう言ってニシジマ前置きをすると、次に話の本題に入って行く。


「国家王国騎士になりたいと言うならば、まずは国立オードリーレイクス魔導戦機学園へと転入手続きが必要だ。

 こちらに関しては、俺のほうから直々に理事長にも許可を取って話を進めてある。

 我々は、君の転入を心から歓迎するよ」


「提案って言うのは、なんなんだ?」


「所属する部隊についての提案だ。

 国家王国騎士には、それぞれの役割ごとに分隊が決められていることは、ご存知だと思う。

 君にはその中でも、前衛遊撃部隊であるドラゴン隊に加入して貰いたい。

 それが俺からの提案だ」


「なるほど……」


 ドラゴン隊と言うことは、グレゴリオと同じ部隊か……。

 俺もかつて、国家王国騎士として、この国で成り上がることを夢見た一人。

 それ自体の夢が叶うと言うなら、別段これを断る理由は特にない。


「分かった。その提案を断る理由はどこにもない。

 俺にとっての夢の続きを見させてくれると言うなら、俺はその提案に乗っかるよ」


「そうか、ではこれより期日は2週間後。

 その日が、君の国家王国騎士としての始まりの日だ。

 転入における筆記試験や、入学実技試験などは不要だろう?

 どの道、グレゴリオとの一騎打ちに勝ったヤツだ。

 こちらからもその旨、事前に手配して準備を進めさせて貰うよ?」


「あぁ、分かった」


「それと一つだけ、君には入学後に出向いて貰いたい場所があるんだが、そちらに関しても了承して貰えないだろうか?」


「それは構わないが……一体どこへ?」


 俺がニシジマにそう尋ねると、穴の下から見上げて来ているグレゴリオの魔導戦機が、その口元のスピーカーから慌てたように声を荒げる。


「ーーッ!! まさかニシジマさんッ!!

 ターニャを俺の昇格試験に連れて行こうなんて言うつもりじゃないでしょうねッ!?」


「もちろんそのまさかだよ」


「ちょっ!! そんなッ!!

 いくらなんでも、こんな急に国家王国騎士に成り上がったようなヤツと私の部隊では、練度が流石に違いすぎますッ!!」


「だが、そう言ってお前は、ターニャに負けた……」


「それは……そうですが……」


「俺はなグレゴリオ、今回の昇格試験において、必ずターニャの力が必要になるんじゃないかと思っているんだ」


「一体どういう意味です?」


 首を傾げて問いかけたグレゴリオに、


「いずれ分かるさ」


 ニシジマは口元にしっと手を当てる素振りを見せる。


「なぁ、その昇格試験って言うのは何なんだ?」


「俺のユニーク魔導戦機を獲得する為に必要な、ダンジョン探索の昇格試験だ……」


「ダンジョン探索?」


 へぇ〜、そいつは面白そうだな〜。


「一体どこのダンジョンに向かうんだよ?」


「向かうのは、秘密のダンジョンだ」


「秘密のダンジョン?」


 俺がグレゴリオの言葉をなぞって聞き返すと、横合いからはニシジマがグレゴリオの話を引き継いだ。


「現在、ダンジョンフィールドと呼ばれるエリアには、秘密と名の付く、世界未踏のエリアフィールドがあるのは知っているかな?」


「あぁ、それは知ってる。

 秘密のダンジョンには、金銀財宝がたくさんあるんだ。

 冒険者して来てるヤツらなら皆知ってる、言わば俺たちのロマンみたいなもんだ」


「ちょうど最近、その秘密ダンジョンが新たに発見されたのは知っているかな?


「いや、それは知らない」


 なにせこの7年間の人生が、俺にはない。

 死亡して転生するまでの7年間、俺はこの世界がどう変わって来たのかなんて、知る由もないのだ。


「一つは、北の隣国に位置する隣国のヴィントヘルム帝国と、この東の大国王都との間に位置する大森林。

 かつて、囚われの渓谷と呼ばれていた、必要冒険者レベルにして315を超えるエリアフィールド」


「ふーん、囚われの渓谷ねぇ……」


 何かどっかで聞いたことのある名前だな?


「その場所は、もう何十年も前に、突如として姿を消した危険特区となっている。

 巷ではその時、宇宙人の襲来に遭っただとか、未来人がやって来ただとか。

 まぁ、根も葉もない噂を辿れば、見聞できる人の声なんて星の数ほどある。

 今回のグレゴリオの昇格試験と言うのは、つまりはそこの調査も兼ねた物なんだが、行ってみたくはないかい?

 ーー君もその秘密のダンジョンに」


「なるほどな。俺もそれに付き添う訳か」


 俺が納得して口元に手を当てると、隣ではグレゴリオが反論の意を唱える。


「ニシジマさん、そうは言っても、こいつはまだ国家王国騎士にこれからなろうと言うヤツなんですよ?」


「それが?」


「いや、だから現代のダンジョン探索には、魔導戦機を用いたチーム戦が要となっていることについては、ニシジマさんだってご存知の筈でしょう!!

 俺のチームにターニャを入れるのは、俺は別にそれは構いません!!

 しかし!! いきなり入って来たばかりの新人に、他の者たちが良い顔をするとは……」


 そう言ってグレゴリオは、剣型の魔導戦機のメインカメラを俯かせて瞳を伏せる。


「それも踏まえた上でのチームリーダーだろう?」


「それは……そうですけど……」


 苦心した様子で答えたグレゴリオに、ニシジマは腕を組みながら片目を閉じるような仕草を取る。


「お前が強者を認められる性格なのは、俺も充分に熟知している。

 随分とターニャと打ち明けたのか、一人称も俺になってるじゃないか?」


 そう指摘されたグレゴリオは、自分でも気が付いていなかったのか、「うがッ!?」と言ってメインカメラを背ける。


「しかし、だからこそ俺は、お前にこう思う訳だ。

 お前が率いる今のチームは、ひょっとしたら危ういのではないのかと……」


「どういう意味です?」


「この世には、自分の崇拝する対象以外、決して認められん者たちも居ると言うことだ……」


「……? それは一体、どういう意味です?

 仰っている言葉の意味が、私にはあまり理解できないのですが……」


「いずれグレゴリオにも分かる日が来るさ。

 さて、時間だ。俺は別件の用事があるので、このまま帰らせてもらうとするよ。

 入学おめでとう、ターニャ・クライリス」


 そう言ってニシジマ・ノボルは、入って来た東口の歩道に向かって背を向けると、そのまま歩いて踵を返して行く。


「そんなに俺がチームに入るのが嫌か?」


「当たり前だ。俺はともかく、他のヤツらがどういう顔をするか知れた物ではない……」


「けど、それも踏まえた上でのチームリーダーって言ってたろ?」


 そう言って俺は、再びグレゴリオに手を差し伸べる。

 今度はちゃんと機体の腕部からワイヤーフックを降ろし、「ここにフックを投げかけろ」と言う意味を示す。


「礼は言わんぞ?」


「あぁ、礼なんて求めてないから気にすんな」


 吊り下げたフックにフックを引っ掛けたグレゴリオは、それを頼りに穴の底から、のっそりとした足取りで這い上がって来る。


「ふぅ~。これでひとまずは、一件落着か……」


 しかし分からないのは、あの男の正体だ。

 俺はそう思い、這い上がるグレゴリオとは別の方向ーー歩き去って行くニシジマ・ノボルの背中に目をくれる。

 自分と同じ顔と名前の人間が、今もこうして生きている。


(この死亡後の世界が、仮にパラレルワールドだとして……)


 この分だとその考えも、あながち間違いと言う訳でもなさそうに思える。

 ただ、そうなると気になる点が一つだけある……。


(どうしてあっちは、生きてんだ?)


 もし、この世界がパラレルワールドじゃなかった場合。

 あの7年前の事件の関係者に、俺は自分の名前がバレているから、それがてっきり引き金になって殺されているのだとばかり思っていた。

 その根底が、あの男の登場で覆されているように感じる。


(仮にパラレルワールドなら、全く前世と無関係の俺が、あの時グレゴリオに殺されたのはどう考えてもおかしい)


 だから、多分この世界はパラレルワールドではない。

 断言できるが、この世界は間違いなく未来の世界線。


(だけど、仮にそうだとするなら、もう一人のニシジマ・ノボルが生きていると言うのも不自然だ)


 名前バレが俺の死亡に繋がっているケース。

 これが確かなら、あのニシジマ・ノボルにしたって、同じ名前と容姿なんだから、死んでいなくては辻褄が合わないだろう?


(考えられるのは、俺の存在そのものが、この世界にとって何らかの不都合だからだ……)


 問題なのは、その不都合とは「一体何だ?」と言うこと。

 それに、


(やっぱり……この王都の内部に、あの7年前の事件の関係者が居るのは、間違いない……)


 それは、一体誰だ?

 カイトとこのニシジマが繋がっているとして、アランと籠の目の冒険者はどこに消えた?

 それにアーシャの行方も未だにわからず終い。


(今のところ考えられる理由は、成りすましと言う線が妥当か……)


 アランと籠の目の冒険者が、カイトとあのニシジマに成りすましている可能性を考える。

 それは考えれば考えるほど、無くはない線だと俺には思えた。


(問題なのはその線を、今の俺がどうやって確かめるかだ……)


 疑わしい存在が目の前に居る。

 だけど俺には、それを確かめるだけの手段が、何一つとして備わってはいない。


(せめて俺にも鑑定魔法さえあれば……)


 ぴえんの持っていたあの鑑定用の魔道具を奪うか?

 あるいは、ミントと強力して別の魔道具を作り上げる。

 どちらにせよ、


(一度冒険者ギルドに顔を出して、アランの行方を探してみるのも悪くはないか……)


 この世界が本当に未来の世界線だとするなら、そこにアランは居る筈だ。

 幸いにも今は、ターニャ・クライリスとして仮の姿で世を忍び、この第二内地ヒルの学園特区まで潜入して来ている。


(仮に探したところで、既に鑑定対策はバッチリだ。

 今の俺なら、アランに真の姿と名前がバレることは、多分ないだろう……)


 元居た勤務先に出向いてアランに直接会えれば、それであの7年前の事件の解決まで、最短ルートを進める筈だ。


 ーー待ってろよアラン。

 ーー必ずお前に一泡吹かせてやるからな!!

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