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22話ー『波紋』

 闘技場内で起きたその出来事は、すぐに第二内地ヒルの各地に波紋した。

 上空を飛び交う無数のドローンによるテレビ中継は、ターニャ(ニシジマ)がグレゴリオに勝利を収める瞬間を確かに証拠として記録していた。


「す、すごいッ!!

 まさかあのターニャさんが、国家王国騎士のグレゴリオさんに勝っちゃうだなんてッ!!」


 格納庫のテレビからその様子を見ていたミントもその一人だ。

 エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせながら、彼女は自分の胸の興奮が冷めやらぬのを確かに感じていた。


(感動が胸の底から、沸々と込み上げて来ています!!

 こんなにも強くてカッコよくてッ!!

 ーーしかも可愛い女の子が身近に居ただなんてッ!!)


 それはミントにとって、初めて抱いた“憧れ”と言う感情だった。

 国家王国騎士の手前、最初からミントは心のどこかで諦めていた。

 自分のような一介の庶民が、国家王国騎士たちに歯向かうだなんて、例えそれが間違った行いのだと思えても仕方がないことだ。

 そういう認識のままに、ミントは今まで自分を卑下しながら生きて来た。

 だけどその現実は、今この瞬間に打ち砕かれた。

 それはある種の希望のようにも思える。


(ーーわっ、私もいつか精進すれば、あんな風にカッコ良い女の子になれるのでしょうかっ!?)


 胸の底から込み上げて来ているのは、まるで初恋のような淡い衝動。

 ターニャが本当は、女の子だとは知っている。

 だけどこの気持ちを抑えるだなんて、今のミントには出来そうにもない。


(いつか……私もあの人に認められたい)


 そして好きだと言って、私のことを抱きしめて欲しい。

 女の子同士だって良いじゃないか!!

 間違っていたって、良いじゃないか!!

 そんな心の暴走に顔面を真っ赤に染め上げながら、ミントは心の中で決心した。


(あの人にいつか認めて貰えるだけのすごい魔道具)


 それをもっともっといっぱい作ろう!!

 それがミントにできる最大限の恩返し。

 ミント・ボンハーネット魔道具店は、まだまだこれから大きくなれる気がして来た。

 ーーそれはまだ遠い未来。

 だけどーーいつかは必ず来る、別の物語……。


「まさかターニャたんが、あのグレゴリオに勝ってまうなんて……ッ」


 興奮していたのは、ナズナも同じだ。

 手にしていた機体整備用のスパナを手元から落とし、頭に被っていた黄色いキャップを脱帽するように脱ぎ捨てる。


「どうなっとんねんあの子ッ!? 最高のデータの登場やんけッ!!」


 まるでお気に入りの高校球児を見つけてしまった時のような、熱血コーチのような熱い興奮。

 機体の整備をする者にとって、エースとなり得るパイロットは、いつだって喉から手が出るぐらいの強い衝動に駆られてしまう。

 それはナズナが一年前、アイズと初めて出会ったことで、潔く裏方に回ることを決心した時と同じ気分。

 確かに自分は、パイロットだった。

 だけどアイズと間近に居たことで、ナズナはその自身の在り方に疑問を抱いた。

 自分が魔導戦機に乗る意味は、果たしてあるのか?

 それよりも、自分よりも優秀なパイロット達が羽ばたいて行く姿を見ていたい。

 置いて行かれることに寂しさなんて無い。

 むしろナズナは、その手に手掛けた魔導戦機の整備としての職務に誇りを抱いた。

 自分で整備した機体、それがパイロットの命や安全を守ったりする。

 責任ある仕事だが、ナズナはその仕事にやり甲斐と言ったものを感じていた。

 だからこそ、より強く思うのだ。


「あかーんッ!! うちは、あの子が欲しくてたまらんッ!!

 アイズたんッ!! この子を捕まえてくれえッ!!」


 ビシッとテレビ画面を指差すナズナは、アイズに向かって無理難題を求める。

 ハッキリとナズナは感じていた。

 アイズほどではないのかも知れない。

 だけど、あるいはアイズ(それ)以上の才能の持ち主。

 言ってしまえば、ターニャはエースパイロットになり得る最高の原石だ。

 整備をする者にとって、彼らのような存在の登場は、この上ない幸せだとナズナは思う。


(ーー待っててやターニャたんっ!!

 アンタに相応しい機体ッ!! うちが必ずいつか整備したるからなッ!!)


 メラメラとその瞳を情熱に焦がしつつ、ナズナはガッツポーズを決めて拳を振り抜く。

 そんな二人の様子を横目に眺めて、アイズも久しく忘れていた恋心のような感情を思い出していた。


(やっぱり……生きていたんですね? ニシジマさん)


 それはアイズだけの知る二人の思い出。

 子供の頃にあの場所と出会ってからと言うもの、アイズは誰よりも彼に焦がれて生きて来た。

 だからこそ、姿形が変わろうともアイズには分かってしまう。


(あの人は、間違いなくニシジマさんだ……)


 そのことに一度でも気が付いていてしまった以上、もうアイズは自分の気持ちに嘘はつけない。

 一度は無理だと諦め、7年前に心を閉ざした筈の好きな人への片想い。

 それがアイズの心の中で爆発寸前まで(たかぶ)っている。


(私は、今日から絶対に貴方の(・・・)ストーカーになりますから……)


 それは誰にも知られてはならない、心からの犯行声明。

 アイズだけの知りえる、恋愛 序章曲 《オーベルテューレ》だ。

 心に巣食う悪い金糸雀カナリア暴走(ねいろ)は、もはや誰にも止められないッ!!


(ゴールデンマッハッ!!

 パァアアアアアアアンツッ!!)


 見様見真似で覚えたニシジマの必殺技。

 それは歌姫アイズが、子供の頃にマジカルモンクを志した理由の一つ。

 その名もーーゴールデン・マッハ・パンツッ!!

 これがターニャに炸裂する日は近いッ!!

 アイズの心が、密かにウキウキと踊っていたッ!!



「まさかあのグレゴリオが敗れるとはね?」


 第二内地ヒルの中核に位置する国立オードリーレイクス魔導戦機学園、その理事室において緊急会議が開かれていた。

 (くだん)の少年であるターニャ・クライリスの処遇について、今後どうするべきかと言う話し合いの場が設けられていたのだ。

 集いし円卓に集められているのは、並の国家王国騎士よりも更に上位の位を与えられた、竜帝騎士団(ラウンズナイツ)と呼ばれるユニーク魔導戦機使いの面々だ。


「予想外でした。

 あのグレゴリオくんが庶民に負けるだなんて」


 そう言って口元に手を添えたのは、黄色い髪に花柄のドレスを纏ったご令嬢だ。

 優雅にティーカップを口につけると、何が面白いのか目を細める。

 彼女らは、この王都のどこかに隠されし第四内地「クレ」の住民たちだ。

 異界送りと称して現代日本への接触を図ろうと言う、ある意味では、もっとも異質な派閥で構成された国家直属の隠密部隊となっている。


「暗部の君たち的には、あの少年はどう思いますか? ニシジマくん」


「魔導戦機を用いた秘密のダンジョン攻略が、もう間もなく始まりますからね。

 腕もあるみたいですし、良いんじゃないでしょうか?」


 一番奥の座席に腰をかける老人に問いかけられ、ニシジマと呼ばれた青年はそう言って暗く沈んだ瞳を曇らせる。

 背丈にして180センチほどの筋骨隆々とした肉体、そして青目黒髪の青年だ。

 彼はその鍛え上げた自慢の肉体の一つである、マジカルチンコを動かしてティーカップの中身を口に含ませる。

 こくりと傾けた柑橘系のレモンティーを飲み干し、カップをソーサラーに戻して嘆息する。


「どの道、隣国のヴィントヘルム帝国とダンジョン資源戦争が始まれば、求められるのはより優れたパイロットであることは間違いありません。

 強いヤツなら、いつでも大歓迎。

 何人至って腐りはしません」


 もう間もなく時を持って始まろうとしている、両国間の資源争いは、入念な計画の元に水面下で進行している。

 あの火種を撒き散らせば、我が国が勝利を収める。


「ふむ、流石は 《ラウンズナイツ》が誇る最高傑作(・・・・)ですね? ニシジマくん。

 貴方に一任しておけば、大丈夫そうだ」


 そう言って御者のじいさんであるレイ・アルバスは、にこりと微笑んでその翡翠色の瞳を緩ませる。

 ほんのりと香るコロンの香りが、理事長と言う座席に相応しい上品な香りを漂わせる。


「彼は、俺が責任を持って迎えに行くとします」


 いずれカイトは、隣国のヴィントヘルム帝国と戦争を起こすつもりで準備をしている。


(その前に使えそうな戦力は、少しでも確保しておきたいからな……)


 そうして座席から立ち上がると、理事長室を後にし学園の廊下を歩いて行くニシジマ・ノボル。

 彼が闘技場に到着したのは、それからちょうど10分後のことになる。

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