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17話ー『7年越しの恋心』

 彼女の名前を知らぬ者は、この王都にはほとんど居ない。

 7年前に国家王国騎士入りを確実視されていた人物の一人。

 歌姫ーーアイズ・クルシュト・レインテーゼ。

 王都マナガルム時代に隣国のヴィントヘルム帝国からやって来た帰国子女と言う噂だ。

 そして、その噂の通り、彼女はこうして7年の歳月を得て、名実ともに国家王国騎士としての地位に就いている。

 それはつまり、彼女を見る者たちの目は、なんら間違ってはいなかったと言うこと。


「潜在冒険者SSSランクの歌姫か」


 本人に出会ったのは、恐らくこれが初めてになる。


「流石はアイドル冒険者だな……」


 雰囲気からして、確かに異なるみたいだ。

 眩いほどの燐光が散る、絶対的な存在感を感じる。

 オーラと呼ばれる類の第二魔力が、彼女の内側から湯水のように溢れ出ている気がする。

 透き通った白磁色の肌に、フランス人形めいた細く長い手足が動く。

 美しいとしか言いようがない、非の打ち所のない容貌。

 サファイア埋め込んだような深く蒼い瞳。

 桜の色の唇と、ふわりと小ぶりの双丘に自然と男として視線が向く。


「私……自分が女かちょっと怪しくなって来ましたね」


 そんなアイドルの登場に、ミントは真顔で自分を卑下する。


「大丈夫だミント。ちゃんとお前も女の子だよ」


 肩に手を乗せながら俺は答える。

 せめてもの情けのつもりで言ったが、ミントは眉根を下げてホッとしたようだ。


「あぁ~ん。起きてしもうたやんかぁ~」


 はぁ~、と大きくため息を吐き出したナズナは、ガックリと肩を落として嘆き始める。

 二人の背格好はよく似ている。

 ちょうど俺とミントよりもすこし高く、身長にしておよそ160センチぐらいの背丈である。


(纏う雰囲気こそ違うが、“仲の良い友人”って言う言葉がしっくりと来るよな)


 そんな感想を漏らしつつ、俺とミントは揃って一礼した。


「ども、ターニャです」


「私はミントです。よろしく」


 二人の挨拶を無視して、ナズナはあたふたと両手を動かす。


「アイズたんはうちが整備しとる間は、身体を休ませて寝とけ言うたやんかぁ。

 こんなアホ共の相手に、アンタみたいな有名人が、わざわざ起きて来たらあかんのやでえ?」


 さり気なく集まった一同をアホ呼ばわりするナズナ。

 再び、長く深いため息が吐き出される。

 その様子を見ていたアイズが片眉をつり上げ、「こら」と叱責するとプーっとその両頬を膨らます。


「まるで子供みたいな仕草ですね」


 ミントの漏らした感想に「うん」と頷いて俺も同意しておく。


「ナナ、何もそんな言い方しなくとも。

 お客人に失礼じゃない」


 そう言って子どもに諭すような優しげな声音で、アイズはナズナを躾けていた。

 なんだかその様子を見ていて、俺もどこか懐かしさを覚える。


(学生時代のアーシャにそっくりだ)


 口調や性格が似ている訳ではないけど、アーシャもよく子供っぽい仕草でカイトを叱責していた。

 そのことを途端に思い浮かべて、俺はなんだか物憂げな気分になる。


(自分にもこんな友人が居たんだよな)


 そのことがすこしだけ物悲しい。

 今は亡き友人らに想いを馳せる。

 その様子を横目で目にしていたアイズが、何かを思い出そうとして首を傾げる。


「どうかしたか?」


「ん……いえ、別に……」


「もう話は良いだろう。

 アイズ殿とナズナ殿には悪いが、私はこの者と決闘をせねばならん身だ。

 悪いがこちらの機体は借りて行く」


「はいはい、好きにせい。どうせ止めても聞かへん」


 鬱陶しそうに手を払ったナズナに、グレゴリオはパンと手を鳴らして合図を送る。

 その瞬間、格納庫の中の照明が灯りを点す。

 ライトアップされた格納庫に白色の光が満ち、両サイドに並ぶ魔導戦機の中から、グレゴリオは剣型の魔導戦機を見る。


「私はこちらをお借りしよう」


 そう言って歩き出したグレゴリオは、機体の背後に立つと背中のコクピットから降りるワイヤーを掴む。

 自動的に登って行く身体が次第に見えなくなり、ガタンと音がしてハッチの扉が閉められる。

 直後に機動した二つのモノクル。

 メインカメラのモノアイが、赤く光る。


「ほれ、アンタも行かんと。

 機体は好きに選んで使ってええで?

 どの道負けるんやし、どれ選んでも同じやろ」


 そう言ってナズナは、両腕を組むとグレゴリオの乗った機体を見上げる。


「グレゴリオさんって、そんなに強いんですか?」


 そんなナズナの態度に釘を刺したのは、ミント・ボンハーネット魔道具店の店主であるミントである。

 彼女は魔道具を作っているマギカ・ツーラーと呼ばれる魔道具士の一人だが、言ってしまえば国家王国騎士や冒険者とは、若干だが毛色が異なる存在でもある。

 そのことに気が付いた様子のアイズとナズナは、二人揃って嘆息する。


「そりゃあ弱くはないわな。

 なんせ国家王国騎士のドラゴン隊で、あれでも一番隊の隊長を勤めているヤツなんやし」


「その国家王国騎士の一番隊って言うのは、一番強い部隊ってことですか?」


「ちゃうちゃう。一番統率の取れた“優れた部隊”ってことや」


「強さだけなら、うちのラビット二番隊のほうが強いやろうなぁ。

 けど、グレゴリオは2年の国家王国騎士の中でも、特筆してスピードに特化した国家王国騎士やねん。

 見たところアンタのパートナー冒険者は、言うても国家王国騎士にもなれてない、ただの冒険者なんやろ?

 ほんなら勝てる訳あらへんよ」


「ぱぱぱっ、パートナーと言う訳では、ない、ですけどッ!!

 けど、それがどうしてターニャさんが負ける要因になるんですか?」


 コクリと首を傾げるミントに、ナズナは欠伸を零しながら答える。


「普通に考えて、速く動けるヤツのほうが先手を取れるよな?

 けど、国家王国騎士と冒険者の絶対的な違いは、まずそのレベル差がありすぎることやねん。

 あいつは言うても、単独でレベル3桁はあるやろうしなぁ。

 ーーとなれば、そこの恐らく2桁台の冒険者じゃ、スピードだけでも手も足も出えへん。

 加えてレベル差がありすぎるってことは、それだけステイタスに違いがあるってことや」


「グレゴリオは、火力とスピードに特化した国家王国騎士なの。

 彼が最も得意とするのは、一撃必殺の即死スタイル。

 スピード勝負で負けている以上、防御力がない冒険者じゃ厳しいと思う」


 締めくくるようにナズナの言葉を引き継ぎ、アイズはグレゴリオのステイタスを構成を教えてくれる。


「それを聞いて安心したよ。

 グレゴリオが火力とスピードに特化した国家王国騎士なら、俺は火力とスピードに特化した冒険者だからな。

 それにーー例えレベル差があっても関係ない。

 やると決めたら、やるまでの話さ……」


 3桁って言うと、一体どのぐらいのレベル差なんだろうなぁ?

 そう言って俺は視線を配らせ、グレゴリオが乗った機体の正面に位置する、拳型の魔導戦機を見つけ出す。


「随分と余裕があるんやなぁ?」


「そうですよターニャさん!!

 今のみなさんの話、聞いてなかったんですか!?

 レベル差があって、火力とスピードに特化した国家王国騎士って言うことは、それよりも防御力が劣ればワンパンでやられちゃうってことなんですよ!?

 そんなにターニャさん、レベルは高くないでしょう!!」


「まぁ、そうは言われてもなぁ~」


 どの道、いずれは超えねばならない相手な訳だし。

 それが遅いか速いかは、別に問題ではないように思える。


「それにここでグレゴリオに勝てるようで無ければ、俺はいつまで経っても、国家王国騎士にはなれないような気がする」


 7年前に夢見た、国家王国騎士としての道のり。

 その証明が出来ると言うなら、戦わずに後悔するより。

 戦かってから後悔したほう絶対に良い。

 だけど一番良いのは、戦って後悔しないことだ。


「ーーならば俺はここで勝つ。いつか勝ちたいじゃない。

 今ここでアイツに勝ちたいんだ」


 その為の二度と無いチャンスを、こうして掴むことにも成功した。

 後はそのチャンスを活かすだけのところまで来ている。

 それを無駄にするなんて、今の俺には絶対に出来ない相談だ。


「これは、俺の存在証明を賭けた闘いでもある」


 そしてーーもう一つ。


「実は言うと、もう一つだけ証明したいことがあるんだ」


 そう言って俺は、ミントの手によりかけられた、この“変わるくん”と言う魔道具を手に取る。


「この魔道具は、ゴミなんかじゃない」


 今の今までしっかりと他人の目を欺き、俺の姿形を変装し隠蔽させてくれている。

 アイズに未だ見破られていないのが、その証拠。

 この魔道具の効果は、既に絶対的な力を発揮している。

 それをゴミと罵り足蹴にしたグレゴリオに、俺がミントに代わって一矢報いてやりたい。

 ただーーそれだけのことなのさ。


「俺はこの機体を貸して貰おう」


 意を決して一歩と歩む。

 そこに佇む拳型の魔導戦機は、これから俺が初めて乗ることになる魔導戦機。


「へぇ~。拳型の魔導戦機かぁ~。

 珍しい機体を選ぶんやなぁ~」


 そう言ってナズナは、ふむと顎下に手を添える。


「ちょうどうちが、アイズたんの為に整備しとった機体の一つや。

 偶然の一致にしては奇遇なもんやけど、うちのアイズたんも拳使いでな?

 その機体、うちのお気に入りの機体の一つやねん。

 正式機体名称はーー」


「A002・ネオだよな? 良い名前だ」


「ふーん。道具である機体に良い名前かぁ~。

 おたくのことちょっと気に入ったわ。

 もしアンタがグレゴリオに勝ったら、その機体アンタに一機あげても良いで?

 ちょうどテストパイロットが欲しかったところやねん」


「そうか、じゃあこの機体は貰って行く。ありがとう」


「ん? まだやる前やん?」


「やるからには、勝つって決めてるんで」


 そう言って俺は、頭上に浮かぶワイヤーを掴むと、背中のコックピットに向かって登って行く。



「ーーそれにしても、どうしてでしょうね?」


 ターニャ(ニシジマ)とグレゴリオが魔導戦機に搭乗した直後、アイズは思案げに指先を唇へと押し付ける。


「なんかあの人の雰囲気って、彼に似てるんですよね~」


「彼って、それってあの7年前に事故って死んだって言う、想い人の話かぁ?

 死んだ憧れの人と似とるも何も、あの子まだ少年やんか?」


「いや、私実は、一回だけ子供の頃に森であの人に会ったことがあるんですけど、雰囲気とかも含めてそっくりなんですよ」


「ふーん。けど、それって他人の空似とちゃうの?

 だってその冒険者って、仮に生きとったとしてもC級冒険者やで?

 まさかあの子を見て、アンタこんなことを思ったんとちゃうやろな?

 あぁ、あの人がもし生きていてグレゴリオと戦ったら~、なーんて言うお花畑な妄想をよ」


「いえ、別にそんなことは……。

 けどーーそうですね。

 もし彼が生きてて戦ってたとしたら、普通にグレゴリオが負けるでしょうね……」


「はぁ? たかがC級の落ちこぼれ冒険者がぁ?

 そんな訳あらへんやん。

 こんな第二内地ヒルの場所になんか、来れる訳もないヤツやで?」


「いや、だって彼は多分、元々C級なんかじゃありませんよ……。

 強いですから、私の好きな人……」


 そう言ってアイズは、今は亡き憧れの人の姿を思い出し、にこりとその眉を優しげに傾ける。

 蒼いサファイアの瞳の奥に、かつてこの世界で起きた、とある事件を想起させながらーー。

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