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16話ー『歌姫アイズ・クルシュト・レインテーゼ』

 第二内地『ヒル』の敷地内は、楕円形の城下町のちょうど中心部に位置している。

 高速道路の料金所のような施設のゲートを潜り、飛行機の滑走路のように広い大通りの道路を歩く。

 コンクリートで舗装された道路に燦々と煌めく太陽の陽射しが照り付け、反射熱によって大気中の空気が蜃気楼のようにゆらゆらと揺れる。


「ここは本来、選ばれしエリートのみが入場を許された国家王国騎士たちの聖地だ」


 そう言ってグレゴリオはゲートを潜ると、堂々とその道路のど真ん中を歩いて行く。

 車両はない。

 ただし、歩行者は他にもちらほら歩いており、グレゴリオの姿を見かけるとこぞって黄色い声を沸き立たせていた。


「おい見ろ。あいつドラゴン隊に所属してる一番隊のグレゴリオだぜ?」


「前衛遊撃隊のエースパイロット候補生か。

 また第三内地ヨルの庶民に魔導戦機で決闘を申し込んだのか?」


 上下白い制服に金色のワッペン。

 グレゴリオと同じく国家王国騎士ーーつまりは、学生である生徒らの無数の憶測が飛び交っていた。


「随分と人気者なんだな?」


「ふん、当然だ。国家王国騎士たる者、この程度のことで、いちいち動じては居られない。

 分かったか冒険者? これが今現在ある、私と君との絶対的な力量差だ」


 そう言ってグレゴリオは、フッと口角の端を吊り上げて済まし顔を浮かべる。

 ポケットに片手を突っ込みながら歩くグレゴリオは、背丈にして190センチと細身の体躯だ。

 色めき立つ脚光を浴びながらも片手を挙げて挨拶を交わせるぐらいに、彼は自分自身に対する余裕と自信、それと色気に満ち溢れていると言ってもいい。


「流石にカリスマは一流だな?」


 俺が隣からそう告げると、グレゴリオは視線だけを降ろして、その蛇の紋様が入った琥珀色の瞳を細める。

 ギラリと釣り上がった眉に剣呑そうな雰囲気が相まり、側に居るだけでも周囲の空気が張り詰めてしまう。

 そんな男の手前、俺はグレゴリオに茶々を入れる。


「どういう意味かな?」


「別に……ただ知名度があるからと言って、=それが騎士としての実力とは、限らないんじゃないかって話」


 所詮、人気は人気に過ぎない。

 そこにあるのは、有名人か無名人か。

 その違いが、一つだけ存在しているだけの話。


「人気があり有名であると言うことは、その言葉の通り、国家王国騎士として実力があるからこそ成り立つ物だ。

 つまりそれが無い貴様ごとき、国家王国騎士に歯向かうことさえ、本来なら許されん身だ。

 ーー所詮、貴様ごときなど一介の庶民に過ぎない。

 我々エリートの足元にも及ばん存在だと、貴様はその身を持って知らねばならない」


「確かに。お前の言うこともすこしは分かる気がするよ。

 でも、国家王国騎士だって、誰もが最初は“冒険者”じゃないか?

 なら、先に国家王国騎士になっているからと言って、必ずしも冒険者が劣る理由にはならない筈だ」


「それこそ世迷い言だな。

 国家王国騎士であることは、本人がそれだけ多大な努力を費やし、功績を残したと言う証明でもある。

 その上で才能があると認められた者のみ、この場所に上がることを許される存在だ。

 貴様は、その我々の積み重ねて来た努力と才能を愚弄しているだけの、ただの小童に過ぎん。

 当然ーーそれらの世迷い言は、元来なら“万死”に値する狼藉だ」


「かも知れない。

 けど、お前は一つだけ何か勘違いをしているよ」


「勘違い? この私がか?」


「あぁ、だってお前。

 それじゃ、まるで自分だけが努力をして来たみたいに言うじゃないか?」


「そう言っているんだが?」


「俺だって、努力はして来たつもりさ」


「それが世迷い言だと言う。

 お前のして来た“努力”と言うのは、あくまでも冒険者としての努力に過ぎないのだ。

 我々は”国家王国騎士”として、今まで努力をして来たと言っている」


 ピリリと張り詰めた言葉のやり取り。

 俺とグレゴリオの隣では、気まずそうにミントが俺のターバンの袖を引っ張る。


「ターニャさん、本当に大丈夫なんですか?」


 小声で俺の顔色を伺いながら、背中を丸めてミントは俯きがちに歩く。

 蛇の紋様の入った琥珀色のグレゴリオの瞳が、ギラリと敵意に満ちた視線を向ける。

 それだけでミントは完全に萎縮しきった様子で、褐色肌に赤目金髪の少年の姿をした、俺の腕へと抱きついて来ている状態だ。


「まぁ、何とかなるでしょ」


「聞かなくとも分かることを一つだけ訪ねておくが、貴様に魔導戦機の操縦経験はあるのかな?」


 横合いから再びグレゴリオに尋ねられた俺は、無言のまま静かに首を振る。


「別に聞かなくたって、分かってることだろ?」


 底意地の悪い笑みを向けて来るグレゴリオに、俺はめいっぱいの対抗心を燃やして返す。

 そのことにグレゴリオ率いる一番隊の国家王国騎士から、嘲笑のような笑みがわっと溢れた。


「聞いたか今の」


「あぁ、あいつ操縦経験も無いのに勝つ気で居るぞ?」


「そんなの不可能に決まってるじゃないか?」


 そんな笑いのすべてを受け流す。



 辿り着いたのは、シャッターの降りきった工場のような施設の前だ。


「ここが格納庫になる」


 顎先でクイと部下に合図を送ったグレゴリオ。

 その指示に頷いた何名かの部下が、一斉に配電盤の元へと駆け寄って行く。

 シャッターの隅に取り付けられた配電盤のカバーを外し、レバーを下げてスイッチを入れると、ウィーンと言う開閉音の後、ガラガラと音を立ててシャッターが登る。

 その視線の両サイドに見えて来たのは、無数の魔導戦機が立ち並ぶ圧巻の光景。

 量産型の魔導戦機アンチス。

 それもどうやら改良途上の、新型の量産機であるように見える。

 基本骨子はアンチスと同じだが、見たところ手にしている装備がそれぞれ違う。


「大剣に片手剣、銃や弓の魔導戦機もあるな……」


 要するにクラスジョブに特化した機体と言う訳だ。

 無難に誰もが乗れそうな量産型機体・A00Zアンチスは、ほとんど練習用の機体と言っても差し違えはない。

 どれも似たような装備品ばかりだし、誰が乗ってもやれることも決まっている。


「これが現在、王都で開発中の新型の量産型機ーーA002ネオと呼ばれる機体だ。

 見て分かる通り、この機体は国家王国騎士や冒険者の持ち得るクラスジョブ。

 その強さを最大限に引き出す為に設計されている、一点特化型の機体となっている。

 貴様が一番自信のあるクラスジョブ、それに見合った機体を選ぶと言い。

 まぁーーどれを選ばうとも、結果は何も変わらないがね?」


 そう言ってグレゴリオが格納庫に足を踏み入れた時、ちょうど暗がり格納庫の奥から、少女の明るい声が響き渡る。


「もぉ〜、何やね〜ん。

 今、機体の調整中やねんに〜。誰〜?」


 コツコツと歩いて現れたのは、猫のように細い糸目の瞳に、頭に猫耳を生やした獣人族の少女。


(グレゴリオと同じ白い制服、彼女も国家王国騎士と言うことか)


 第二内地ヒルに居るのは、生徒である国家王国騎士を除けば、概ね施設の職員関係者ばかりが滞在していると聞く。

 だが、逆を言えば職員でないと言うことは、ここで出会う者たちは、みな曲がりなりにも国家王国騎士の地位に就いた重鎮たちだ。

 煩わしそうに眉根を傾けた少女は、口元をタコのようにすぼねて苦笑いを浮かべる。


「これはこれは、ラビット二番隊の副隊長。

 ナズナ・ナツメ殿」


 そう言ってグレゴリオは、態度を改め丁寧な礼を払う。

 紳士のような微笑みを浮かべるグレゴリオを見て、俺の背筋に怖気が走る。


(まさかグレゴリオが、他人に対してお辞儀をするなんてな)


 律儀に一礼をして頭を下げる彼の姿は、グレゴリオらしい態度とは言い難い。

 自分を一度殺して、ついさっき再び会って決闘をするに至った短い間柄とは言え、グレゴリオの性格自体は理解しつつある。

 プライドが高く、国家王国騎士としての自分に誇りを持っている。

 そんなヤツが他人に対して一礼を尽くした。

 それはつまり、


(グレゴリオは自分が認めた存在には、最低限の敬意を払える性格と言うことだ。

 ーー相手は、かなりの実力者なのか?)


 ちらりと視線を配らし、俺は彼女の上下白い制服を眺める。

 金色の刺繍が施された胸元のワッペンには、ウサギをモチーフにした紋様が刻まれている。


(確か国家王国騎士の紋様は、その部隊分けを意味するものだ……)


 ドラゴンをモチーフにした紋様であれば、俗にドラゴン隊と呼ばれる前衛遊撃部隊だし。

 カラスをモチーフにした紋様であれば、王都を守衛する伝令伝達の部隊になる。


(その中でもウサギをモチーフにした部隊と言えば、確か後方支援の任に付いているラビット隊か……)


 与えられている役割は、整備や医療などのバックアップの分野。

 先刻に東門のブースで出会ったぴえんなんかは、ちょうどこのラビット隊に所属している筈だ。

 それぞれの紋様には、それぞれの役割があり、派閥や力関係も若干だが異なる。

 その中でも2番隊と言うことは、ラビット隊の中でも2番目に優れた部隊と言うことだ。


「なんやぁ、グレちゃんかぁ。またグレてんのかいなぁ〜。

 どうせまたここの機体を勝手につこうて、決闘させてくれ、ちゅうんやろ〜?

 そこの冒険者を見たら分かるわぁ〜」


 ナズナと呼ばれた女生徒は、そう言って俺に無遠慮に指を指すと、すぐに呆れたように頭を掻く。


「ーー失礼だがナズナ殿、僕の聞き間違いだろうか?

 この僕の目の前で、あろうことかグレゴリオ様をグレちゃん弱ばわりとは、どういう了見なんだい?」


 そう言ってナズナに食ってかかり目を光らせたのは、先ほどからグレゴリオの隣にピタリと着いて歩いていた少年だ。

 ボーイッシュな黒髪のボブカットに、少女にも思える中性的な見た目の容姿。

 肌も白く、高い声質も相まり、ハッキリ言って性別はどちらか検討も付かない。

 そんな少年の抗議に返事をしたのは、ナズナではなくグレゴリオの方だ。


「やめろパトリック。

 ナズナは2年になってラビット隊に転向しているが、元は1年の時にドラゴン隊に所属していたヤツでもある。

 魔導戦機の腕前は、今の俺たちよりも遥かに立つ」


「ーーなッ!? ラビット隊の分際でッ!?」


 パトリックと呼ばれた少年は、グレゴリオに首を回すと眼を見開いて絶句する。


「まぁ、そういうこっちゃ。

 分かったら、1年の坊っちゃんは静かにしたってや?

 うちのお姫様が起きちまうやんか?」


 ナズナにそう言われたパトリックは、「うぐっ」とうめき声を漏らして黙り込む。


「手痛いな?」


「先輩としての序列を、明確化しておいただけの話よ」


 俺がナズナにそう告げると、彼女は手の平を鬱陶しそうに振って答える。

 その背後、ふいに鈴のような音色が響く。


「ナナ……どなたか騒がしいようだけど、こんな場所にお客人?」


「あちゃー」


 と額に手を当てたナズナは、ゆっくりと首を回して声の主を見る。

 金髪のストレートヘアーに、深い青の瞳。

 寝ぼけ眼を擦るご令嬢が、燐光のような存在感を放って格納庫の奥からやって来る。

 その姿を見て声をあげたのは、俺の隣に立っていたミント・ボンハーネット。

 彼女は口をだらりと大きく拡げて、


「あーっ!! 私この人知ってますよ!!

 アイズ・クルシュト・レインテーゼ!!

 絶世の歌姫冒険者ですよ!!」


 そう言ってミントは、格納庫の中で絶叫した。

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