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14話ー『ミント・ボンハーネット魔道具店』

 熱気のこもった吐息を「えっほ」と吐き出し、ジョギング感覚で裏路地を走り抜ける。

 見えて来たのは、煌火びやかなネオンが光る歓楽街の街並み。


「よし、ようやく南門の入国口に着いたか」


 今回は前回とは違い、違法な手段を用いて入国を果たした。

 右手の甲には、チップは埋め込まれていないし、ぴえんの鑑定魔法もスルーした。


「これでひとまずは安心だな……」


 ドゥクスとレイズも倒して来たし、今はまだ時間にすこしばかりの猶予がある。

 歩幅を緩めて立ち止まり、周囲をぐるりと見回してみる。

 そこには7年前とは、若干異なった景色が映し出されているように感じられた。


「何が変わったって、人が変わったよなぁ……」


 時代が変われば、人も変わるのも当然だ。

 それは普通のことだとは、俺も思う。

 ーーが、


「それにしたって異様な光景だよな」


 行き交う人々の群れの中、どうしてか偏った人種ばかりが目につくように感じる。

 人種と言うよりかは、半人半魔の種族たち。


「人族にウサギ族にカラス族。

 それにドラゴン族のヤツらが目立って多いな……」


 ーー気のせいか?

 見渡して見れば、見渡してみるほど。

 竜人や亜人と呼ばれる異種族の者たちが多い印象を抱く。

 それもかなり偏った印象。


「他の種族のヤツらは、一体どこに消えたんだ?」


 王都マナガルムは、確か「虹色」の旗を掲げる多様性の国だった筈だ。

 それがこの7年を堺に、一気に種族が激減しているように感じる。


「何かあったとしか、考えられない」


 この国の中で、何かが……。

 基本的には、王都マナガルムは中立と言う立場を貫いて来た国家だ。

 それがこの7年で激変していると言うことは、俺が死んで転生するこの7年の国政に、何かしらの大きな変化が生じたことを意味している。


「カイトは一体、この国で何を起こしたんだ?」


 カイトーーなのかは、分からない。

 相手は、カイトじゃないのかも知れないし。

 カイトと同じ姿をした、パラレルワールドの住民なのかも知れない。

 だけど、


(俺には、この真実を確かめる義務がある……)


 世界を救って欲しいと言うあの暗示と、何か関係性があるのだろうか?

 思案げに眉を傾けた俺は、魔道具屋を探して再びジョギングを開始した。



 夜の遊び場と称する歓楽街の昼下がりは、道場に酔っ払いが至るところに倒れている。

 西口の貧民街があるエリアとは随分と異なる。

 南口の歓楽街通りは、もっと栄えていた印象だった。


「なんだか風化しているよな」


 ーー街全体が廃れていて、そこに居る人々に元気がないのだ。

 主に活気があるのは夜ではあったが、昼夜問わず眠らない街として有名だった。


「そんな場所が、たった7年でこんなスラム街みたいな場所になるなんて……」


(あっ、でも……何だろう? この違和感)


 元気がないと感じる人々と、そうでないと感じる人々の間に、一つだけ違いがある気がする。


「気のせいか?」


 その疑問は、未だに晴れない。

 殺風景に転がる酔っ払いたちを横目に、俺はお目当ての魔道具屋を見つけ出す。

 ーーミント・ボンハーネット魔道具店。

 占い師が持つような水晶に、猫が魔法使いらしくハットを被ったペンキ看板。

 木製1階建ての古びた家屋の頭上には、確かに日本語でそう書かれている看板がある。


「目当ての魔道具が手に入れば良いんだが……」


 期待感を胸に、その家屋の扉に手をかける。

 押戸を開いて入店すると、頭上からはドアベルの音がカラカラと降りた。

 ーー店内は、非常に埃っぽい。

 視界の右端には、無数の本棚が丁寧に並び、その中に乱雑に詰め込まれた魔導書のような本が幾重にも見える。


「いかにも知的な感じがするな」


 これには期待感が流石に高まる。

 店内は魔導書作りの工房も兼ねているのか。

 入口から見て左側に位置する作業机の上では、焦げ茶色の跳ねっ毛を三つ編みで結んだ少女が、コクコクと首を傾けて眠りに落ちている。


「この娘が店主なのかな?」


 どう見ても寝ているように感じる。

 真っ先に抱いた感想を無視してひとまず机に近づく。

 椅子に座って寝ている少女の寝顔は、ハッキリ言ってかなり可愛い。

 10代前半ぐらいの幼い見た目に、そばかすのついた明るげな寝顔。

 肌は乾燥しているのか、かなりカサカサで、ご飯もろくに食べていないのか顔色は優れずに不健康そうな印象だ。

 パッチリとした丸目に埋め込まれたエメラルド色の宝石が、ゆったりと開閉したかと思えば俺を眺める。

 横目で「ふぇ?」とよだれを垂らしながら、少女らしからぬ姿をまじまじと見てしまった。


「あぁ~、えーっと……どちら様?」


 そう言って少女は、手元に置かれた小さな丸眼鏡を手に取った。


「んー、はっ!!」


 そして何かに気がついたように顔を上げる。

 きっと寝ぼけていたところに人が現れ、ようやくそのことに気がついてショックを隠せないと言ったところだ。


「あっ、あのッ!! 俺は決して怪しい者ではない!!

 ーーちょっと寝顔を拝見していただけで!!」


 ーーばっ、もっと上手いことを言えないのか俺は。


「あぁ、俺は魔道具を買いたくてこの店にやって来たんだ」


 ぐらい言えないのか!!


「ーーま、待ってくれ!!」


 急に自分の寝起きに、隣で人が立っていたら誰でも驚く。

 しかもそれは知らない人で、「ちょっと寝顔を拝見していた」なんて恐怖でしかない。

 少女のよだれまみれの口元が開閉して、大きく深呼吸して吐息を吐き出す。

 キャー!!

 と叫ばれそうになったその瞬間だ。

 俺は咄嗟に腕を伸ばして少女を羽交い締めにする。


(ーー今、この子に声をあげられたら非常に不味い!!)


 ようやくの想いで辿り着いた歓楽街だ。

 気持ちは分からなくもないが、俺は決して不審者ではない。

 やっとの思いでぴえんを殴り飛ばし、フォーゼンナイト兄弟を巻いて来たと言うのに。

 その途端にこんな形で叫ばれたとあっては、事態を聞きつけて再び国家王国騎士がやって来てしまう。


(それだけは避けなくてはッ!!)


 ーーともかく。

 今必要なのは、俺と言う人間の身の潔白。

 彼女に対する弁明だ。


「ーーこ、声を出さないでくれ!!」


 安心感と安全を持って、彼女に伝えねばならない。

 耳元にねっとりとした息を吹き込み、極力低音ボイスでイケメン風を装う。


「俺は女をぶん殴ってから、一文無しでやって来たただの買い物客だ。

 この意味が分かるな?」


 ブルブルと首を縦に揺らした少女は、何かを得心した様子で目尻に大粒の涙を浮かべている。


「お、お金目当てってことですよね!?

 でしたら私、何も持ってないです!!

 本当です!! 命と神の誓いに替えても貧乏です!!」


 そう言って少女は、今にも気絶しそうな表情で青ざめていた。

 ーー当然だった。



 ミント・ボンハーネット魔道具店。

 歓楽街の一角に位置するミントが切り盛りしている小さな魔道具店だ。


「まさか店主が女の子とは、まだ幼いのに大したもんだ」


「うちの先代のお祖父ちゃんが遺してくれた遺産をそのまま使ってるだけですよ」


 最初はビックリしました。

 そう言ってミントは、作業用の工具机に花柄のティーカップを持って来た。

 あらかじめ茶葉とお湯の入った金色のポットを傾け、コツコツとティーカップにお茶を注いで行く。

 自己紹介も軽く済ませて、俺たちの誤解はひとまず解けた。

 ふわりと香る茶葉の香りが、鼻腔をくすぐってリラックスさせてくれる。

 牛酪を使ったバタークッキーを一つずつつまみ、それぞれ間食を口にしながら話し合いの席についた。


「それで、お探しの魔道具と言うのは、一体どんな魔道具なんでしょうか?」


 何か訳ありの様子でしたけど?

 一文無しである俺にも優しく声をかけてくれたミントは、金がないのを込みで、どんな魔道具が欲しかったのかと訪ねて来る。


「まぁ、ちょっと色々と混み合った事情があってね」


 話そうと思えば、話せる内容。

 それでもひとまず、ミントに自分の正体を打ち明けるのはやめておこう……。


「探しているのは、変装用の魔道具なんだよ」


 鑑定対策の為とは言い出し辛いので、できる限り言葉を濁して「変装用」と伝えておく。


「変装用の魔道具ですか?

 なるほど、それだったら確かにありますね」


 そう言ってミントは椅子から立ち上がると、背後の本棚から魔導書を取り出す。

 持って来た一冊の魔導書は、どうやら魔道具の入ったアンティークの用で、


「こちらでしたらありますけど」


 開かれた魔導書の中から出て来たのは、先端にサファイア色の石が付いたハート型のネックレス。

 女性用とも、男性用とも言い難い。

 男女兼用で使えそうなユニセックスのアクセサリーだ。


「これは?」


「うちのお店で作ってる、新作の魔道具なんですよ!!

 題して“変わるくん”1号!!

 先端についてるサファイアの宝石がカメラになってて、これを首にかけて使うと、そのカメラで収めた人に変装できるアイテムです。

 試してみますか?」


「あぁ、是非」


 そう言って試着がてらネックレスを首に回し、試しに店の窓硝子から見える通行人の写真を収める。

 するとフリフリの白いドレスを着ていた俺の「ターニャ・クライリス」としての姿に変化が起こる。

 ぼふっ、と言うミストがサファイア色の宝石から一斉に吹き上がり、気がつけば俺は「少年」としての姿を取り戻す。

 金髪赤目に、両耳には緑色のピアスが付いたターバン風の格好。

 まるで旅人だ。


「おおっ!! いいねこれ!!」


「カメラに記録された写真から、ミストライト鉱石の生じる霧の原理を利用して、そこにファイアライト鉱石を混ぜるんです」


「熱の原理を用いた視覚の錯覚と言う訳か?」


「はい。なので、元々着ている衣類に関係なく、いつでもどこでも変装が可能な魔道具です」


「それはすごい!!」


 そう言うとミントは、「えへへっ」と笑って頬を赤らめる。


「金髪青目のターニャさんも可愛かったですけど、金髪赤目の少年になったターニャさんもとってもカッコ良くてお似合いですよ?」


「そ、そうかな?」


 素直にそう言われるとかなり嬉しい。


(と言うか俺って、青目金髪の女の子になってたのか……)


 ここに来るまで、自分の容姿を鏡で見れる機会がなかった為、ターニャと言う少女の顔つきなんて知る由もなかった。


「その魔道具が気に入って頂けたなら、レンタルって言うことで貸し出ししても良いですけど」


「本当かい?」


「ええ、お金がないようでしたし。

 ない時のお気持ちは、私にもよく分かりますから……」


 そう言ってミントが切なげな表情で「えへへっ」と微笑むと、ちょうど店内の入口からコンコンと言うノック音が届いた。


「は、はーい!! ただいま!!」


 慌てて椅子から立ち上がったミントが、入口の扉を開きに行くと、開くと同時に半歩と下がる。

 見れば無数の国家王国騎士たちが、ゾロゾロと顔を出しており、その中には見知った顔が一つだけあった。


「勝手で悪いが失礼する」


 そう言ってミントを鬱陶しげに下がらせると、その緑髪の国家王国騎士は、蛇の紋様が入った琥珀色の瞳を気怠そうに細める。


「ーー本日正午、東門の入国口にて暴行事件が発生した。

 犯人は逃走を計り不法入国、この第三内地ヨルに潜伏していると言う情報が届いている。

 当時の証言から、青目金髪の冒険者の女とのことなのだが、何か君たちに心当たりはないだろうか?」


 聞き覚えのある声でそう告げて来たのは、一度俺を殺して来たグレゴリオ・ライオット二世だった。

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