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12話ー『第三内地ヨル潜入計画』

「そう来ると思ってましたよ……」


 ーークソッ、結局こうなんのかよ……。

 御者のじいさんの馬車から降りると、再び俺は憲兵兄弟の検問にかかっていた。


(ここから前回と同じような道を繰り返してしまえば、俺に待ち受けている運命は死なんだよな……)


 とは言え、どうする?

 手持ちの金がないから、結局はここで降りるしかない訳だけど、じいさんに嘘をついて隣国のヴィントヘルム帝国まで迂回する言うのも微妙な線だ。

 よくよくこの状況を見れば、それも危ない。


(わざわざ眼の前に止まった馬車が、急に方向転換をして走り出したらかなり不自然だもんな……)


 そんな不自然極まりない馬車の行方を、この二人の門兵が見逃してくれるとは思えない。

 つまり、俺はどの道ここから、動き出しようがないと言う訳だ。


(なら、一体どうするべきが最善だ?)


 少なくともこのまま前回通りに物語が進むと、そこに待ち受けている未来は自分の死だ。

 グレゴリオの率いる魔導戦機部隊に俺は襲われ、背後から心臓を撃ち抜かれて即死することになる。

 それでは、せっかく死に戻りして未来を見て来ているのに、結果としては何一つとして変えられないと言うことになる。


(変えるべきは、入国するまでの中身のほうだ……)


 ちらりと視線を動かし、俺は城門を取り囲んでいる楕円状の外壁を眺める。


(高さにして約10mってところか……)


 冒険者をして来ている俺なら、これを飛び越えようと思えば、軽く飛び越えられるぐらいの高さではある。


(だけど、それをさせない為に居るのが、この二人の門兵なんだよなぁ……)


「ーー悪い。ICチップは持ってない」


「オーケイ。なら、そっちのブースでチップ埋め込みの手術を受けてくれ。

 君の魔力識別コードを登録させて貰いたい」


 兄のドゥクス・フォーゼンナイトの声に続き、横合いからは弟のレイズが声をかけてくる。


「ヘイ、シスター。兄のドゥクスに代わり、俺がブースまでの案内係を務めさせて貰うレイズ・フォーゼンナイトだ。

 転ばないように気を付けながら着いて来てくれ」


 再び繰り返される同じやり取り。

 この場を突破する方法が、正直俺にはもうアレしか思い付かない。


「あぁ、分かってる。ちゃんと着いてくよ」


 隣接されている施術ブースまでの距離は、歩いて徒歩およそ10秒になる。

 その間、レイズの後ろを着いて歩く。

 この時に何もしなければ、やって来るのはユウナ・ぴえんと言う女医風の少女だ。

 

「うしッ、それじゃあここで俺の案内は終わりだ。

 ウサギ隊のユウナ・ぴえん君から、そのままチップの施術を受けてくれ」


「あぁ、ありがとう」


「施術が終わったらいつでも入国可能だから、終わり次第コッチに声をかけてくれ」


「分かってるって」


 レイズに手を振って送り返すと、入れ替わりに背後からぴえんが声をかけてくる。


「それでは始めましょうか。

 そちらの座席におかけくだちい」


「そうだな。一緒に始めるとしようか?」


 ーー共同作業を。

 そうして俺はブースの座席に腰を落ち着ける振りをする。

 先に対面に腰を落ち着かせたぴえんの左目は、紫色のボブカットに覆われていてまだ蓋は閉じられている。

 ガーゼ状の眼帯の下、そこには鑑定用の赤いカラーコンタクトが存在している。

 つまり、それを取り外される前なら、僅かながらフリーになれる時間が出来上がる。

 この間、ドゥクスとレイズは城門前で、別の入国者の手続きに取り掛かっている最中だ。

 この二人の目を欺き、今の俺にやれることは一つしかない。


「ーー道徳観で、この高い壁は超えられねえんだッ!!」


 やると決めたら、やってやるッ!!

 ギュッと右拳に力いっぱいの覚悟を決め込み、グーにした片手でそのままぴえんを殴り飛ばす。

 これから始まるのは、壮絶なまでの凄いDV。

 名をーースーパー・ドメスティック・バイオレンスだッ!!


「スゥパァアアアアアアッ!!

 ドメスティィ〜〜〜〜クッ!!

 パァアアアアアアアアアアンチッ!!」


 ーー間髪構わず殴り抜けッ!!

 例え女だろうと、容赦なく殴ると決めた覚悟の拳は、俺に男女平等と言う名の邪悪なロードを歩ませる道標となる。


(左、右、AB、下下、横横、波動拳ッ!!

 ーー昇龍拳ッ!!)


 格闘ゲームさながらのリズム感でコンボを決めた俺は、吹き飛んで泣き叫ぶぴえんを見下ろす。


「ぴぇええええええええんッ!!

 痛いでちぃいいいいいいッ!!」


 マジでゾクゾクするわッ!! この瞬間ッ!!


「煩えッ!!」


 手当たり次第に設営されていたパイプ椅子を掴み、放り投げては今度はパイプテーブルを片手で持つ。

 プロレスの選手が、パイプ椅子で敵の背中を殴るように。

 俺もまたーーぴえんの背中を殴打しまくるッ!!

 テーブルに乗った医療器具や文房具などの備品の数々が、足元の砂利に落ちてカラカラと乾いた音を立てていた。


「心など、もはや痛めねえかんなッ!!」


 ーーやっちゃうかんなッ!!

 意を決してそのまま沈黙させようとしたところで、背後からはレイズの視線が冷たく突き刺さる。


「貴様ッ!! そこで何をしているッ!!」


「流石は、国家王国騎士だなッ!!

 まさか、もう気が付くとはッ!!」


 だが、まだ俺の蛮行に気が付いているのは、弟レイズの一人のみ。

 言うならば、1対1の状況だ。


「走り抜けば間に合うか?」


 すかさず外壁へと向かって走り始めた俺は、殴り飛ばしたぴえんを置き去りにして壁走りを開始する。

 L字に曲がって壁を登り始めた俺の背後を、レイズ・フォーゼンナイトも同じように壁走りをして着いて来た。


「待てぃッ!! 不届き者ッ!!」


「待てと言われて、待つヤツがどこに居るッ!!」


 一目散に壁走りをする俺の背後では、レイズが手に取ったブロードソードをチリチリと外壁に当てて火花を散らす。

 音で合図を下のドゥクスに送り、それに気が付いたドゥクスがハッとして顔を振り上げた。


「レイズッ!! どうしたッ!?」


「兄者ッ!! この者がぴえんを殴り飛ばして、不法入国をッ!!」


「なにッ!? 女を殴ったのかッ!?

 ゲス野郎めッ!! 成敗してくれるッ!!」


 怒号となって響き渡る、ドゥクスのバスのような低音。

 ぐるりと半円を描いて駆け出したドゥクスは、そのまま俺とレイズを追いかけて壁走りをして来た。

 直後には、俺とレイズの身体が、ほとんど同時に外壁の頂上へと到達する。

 ロケット花火のように撃ち出された俺たち二人の身体が、砂埃を散らしながら上空へと舞い上がる。


「あとは降りるのみだッ!!」


 ふわりと宙に浮いた俺の眼下、広がっているのは煉瓦造の街並みだ。

 東門入国口にて、俺とレイズの空中戦闘が始まりを告げた。

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