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第7章 王立図書館の章 第98話 転生者の理《ことわり》⑦   

「よくここまで入って来れましたね」


「館長とは幼馴染なのでな」


「馬鹿を言うな、なぜ儂がお前と幼馴染などにならなければならんのだ。そろそろ500歳を超えているだろうに」


 師匠と幼馴染であればワンナー館長も500歳くらいになってしまう。


「そうだったか?まあ、旧知の仲であることには間違いないだろう」


「それはそうだが、お前に入室の許可を与えた記憶がないぞ。不法侵入であれば牢獄行きだ」


 館長は物騒なことを言う。ただ確かに無許可にここまで入って来たとすれば十分あり得る話だ。


「それは大丈夫だ、ちゃんと許可は取ってある」


「何?儂は聞いておらんが?」


「ほれ、国王直属の許可証だ」


 館長が確認すると、それは間違いなく本物だった。


「なるほど、そう来たか。まあいい、素性は知れているのだ、問題は無かろう」


 館長はあっさり認めてしまった。俺やエル・ドアンが苦労してここまで入って来たのに師匠はあっさり入って来たことには少し嫉妬してしまう。


「だが折角入って来たのに、お前たちはもう出てしまうのか?」


「そうです師匠、俺たちの目的はもう達してしまったので今から出るところなのです。でも師匠はどうしてここに?」


「儂か、儂はコータロー、お前を追って来たのだ」


「えっ、俺ですか?」


「そうだ。お前を訪ねて王都に入ったのだが、お前が王立図書館最深部に入ったと聞いてな」


「俺にどんな用があったのですか?」


「その二人の前では話せん」


 ヴァルドアはサーリールとエル・ドアンの二人を指さした。


「なんだ、ヴァルドア。エル・ドアンはまだしも私にも言えないことなのか?」


「ちょっと待ってください。僕も仲間外れにしないでください」


 ヴァルドアの目的はサーリールもエル・ドアンも気になるのだろう。それはそうだ、目の前で二人には話せない、と言われたのだから気にならない筈がない。


「悪いな、師匠と弟子の間での内密な話、という意味だ、それ以外に他意はない」


 それは中々通用しないいい訳ではあったが、ヴァルドアにそう言われては引き下がらざるを得ない。


 エル・ドアンは図書館を出たらすぐに俺との決着を付けようとしていたのだが、それも師匠が一緒であれば流石のエル・ドアンも二人同時に相手は出来ない。


 俺は図書館を出ると師匠とキサラを連れて宿舎に戻った。そこで師匠の話を聞くことにする。


「それで俺に用とは?」


「それよりも助かったであろう」


「えっ?」


「エル・ドアンとの直接対決を回避できただろう、と言っておるのだ」


 なるほど師匠の用の一端は俺とエル・ドアンの決着を先に延ばすことだったのか。


「でも師匠、どうしてそれを?」


「いや、少し前からあの場所に居ったからな、聞いていただけじゃ」


 流石に師匠、あのメンバーに気が付かれないように潜んでいたのだ。確かに俺も声を掛けられるまで師匠の存在に気付かなかった。


「なるほど。という事は本来の用事は別にある、ということですね」


「そうじゃな。儂の目的という用事はあの場所でお前たちが得た知識を共有したい、ということじゃ」


 そう来るとは思っていた。ただその知識の内容の何を、どの部分を師匠は知りたいのだろう。


 俺たちが得た知識は異世界からの召喚・逆召喚方法。但し、それを使えるのはストラトス家の者ともう一つの家系の者のみ。


「師匠がそれを知ってどうするのですか?」


「儂か。多分サーリールと同じ、だろうな」


 サーリールが俺やエル・ドアンと同じ本を探していたことは判っているが、確かにサーリールのその本の使い方は聞いてはいない。何がしたかったのか。


「サーリールと同じ、何です?」


「異世界渡り、じゃよ」


「師匠が俺が元居た世界に、ということですか?」


「そうじゃな。サーリールは自分の世界に戻りたい、というか行き来したい、ということが目的であっただろう。自らその魔法を使えるのであれば自由に行き来できるだろうて」


 サーリールは元居た世界に戻りたかったのか。ただ500年ほどもこの世界に馴染んでいたのだから、今更ではないのだろうか?


 エル・ドアンが元居た世界を支配したい、という欲望とは少し違う気がする。ただの郷愁なのかも知れない。元居た世界の敵対勢力との関係もよく判らないが。


 師匠のそれはただの好奇心のように思える。師匠の場合500年も生きて来て、この世界に飽きた、というあたりか。


「それと、召喚魔法などという高位魔法を儂が使えない、というのも腹立たしいのでな」


 それがもしかしたら一番の本音かも知れない。


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