第7章 王立図書館の章 第97話 転生者の理《ことわり》⑥
「ところで王女様はどうしてここへ?」
俺は話題を変えてみた。本当に疑問だったこともある。
「私ですか?私には特に目的なんてありませんよ?」
「えっ、そうなのですか?」
「ええ、ドアン先生に頼まれてここまでお連れしただけです」
サーリールの時と同じように深夜城で偶然エル・ドアンに出会って頼まれたのだそうだ。
そしてそのまま、直ぐにここに連れてきたらしい。エル・ドアンが中々入る方法を見付けられなかった王立図書館最深部に簡単に入れてしまったのは、そういう訳だ。
ただドアンと王女が出会ったのは偶然ではないのかも知れない。最深部の入る方法を探していたドアンが王女を利用することを思いついたのかも知れなかった。
「ドアン先生の目的はお聞きになられましたか?」
「いいえ、それは重要なことなのですか?」
シータ王女はただ頼まれたことに応えただけで他意が無い。これでは色んな人に利用され放題ではないか?
ただ王女は王女で只者ではないことは間違いない。高位の魔法使いとは少し違うようだが、俺にはよく判らなかった。
「王女様にとっては特に重要なことではないのですが、俺にとってはちょっと問題なことなのです」
「そうですか、よく判りませんが、それは失礼をしました。彼をここへ連れて来てはいけなかったという事ですね」
「そうですね、でももう来てしまったものは仕方ないです」
「それで先ほど少し物騒な話をしておられたのですね」
「確かにここを出たらどこかで決着を付けなければいけないのかも知れません」
俺と同じ元の世界に戻って、向こうで魔法を使って傍若無人に振舞おうとしている。エル・ドアンの魔法が普通に向こうでも使えるのであれば全世界を支配下に治めることも可能だろう。
ドアンを止めたい、俺の願いはただそれだけだった。
「決着を付けるのであれば私が立合いをさせていただきましょう」
ん?この王女様は何を言っているのか、咄嗟には判らなかった。
「えっと、どういう意味ですか?」
「ドアン先生とあなたが決着を付けるのであれば私が立会いますので王立闘技場で存分になさってはいかがですか?」
ああ、王女様は俺とドアンが何かの試合をするのだと勘違いしているようだ。命を掛けた、と言う部分が欠落している。
俺とサーリール、そしてエル・ドアンも丸々一日、持ち出した本の隅から隅までを読み尽くした。あとは再度あの部屋に入る方法を見付けて本を戻せば外に出られる。
念のためキサラにも全ての本に目を通してもらった。俺に万が一の事が有った時の保険だ。
俺はエル・ドアンの目的とそれを阻止したいという俺の目的を王女に話した。全てを聞いても尚、王女の感想は変わらなかったのだ。善悪の基準が違うのか、異世界のことなの歯牙も掛けていないのか、よく判らなかった。
とりあえずは本の内容の確認を終えたので、後は元に戻すことになった。ただ俺は俺だけの秘密を抱えてしまったのだが。
部屋に入る場所も方法も少しづつ違うようで俺が入った時の方法とサーリールが入った時の方法を試してみたが扉は開かなかった。
見付かった二つの方法からすると場所はそれほどズレてはいない筈なので、問題は方法だ。
皆で思いつく限りの方法を何度も場所を変えて試してみたが中々上手く行かなかった。
結局新しい方法を見付けるのには3日掛かった。そして皆で読んだ本の全てを戻して部屋をまた封印したのだった。
ここに来ることは二度とないだろう、と少し感傷的になったが、この数日間は本を読み続けられて本好きとしては幸せなひと時を過ごすことが出来た。
「これでもうここから出てもいいんですね?」
エル・ドアンが無感情でワンナー館長に問う。
「ああ、これでいい。お疲れだったな」
「では、出ましょうか」
「そうだな、やっと出られる」
「疲れました。早く部屋に戻ってゆっくり眠りたいです」
「そう急がなくてもいいだろうに」
俺たちはやっと解放された。王女は疾うの昔に城に戻っていたので残されていたのは館長も含めると四人。四人?今五人いなかったか?
「えっ、誰だ?」
ワンナー館長、サーリール、俺とキサラ。そしてそこにもう一人。
「誰だとは失礼な弟子だな」
「あっ、師匠。どうしてここに?」
それはシルザールにいる筈の俺の師匠ヴァルドア・サンザールだった。




