第7章 王立図書館の章 第94話 転生者の理《ことわり》③
「ところで、ここから出る方法は判っているのか?」
サーリールに確認すると俺とは入った方法が違うようだ。ということは毎回出入りする方法が違う、ということになる。それは朗報かもしれないが、簡単に見付けられてしまう可能性もある、ということだ。
「判らない。今のところ探してもいない」
確かにサーリールとしては完全に目的を達するまでは出られないだろう。ただ、出る方法が見つからなければ、ここで餓死することにならないか?
「少しなら食べ物も飲み物もあるが、二人分となると心許ないな」
「いや、俺も多少は用意しているから大丈夫だが、それにしても出る方法は探しておかないと駄目なんじゃないか?」
「それが判ったからと言って試す訳には行かないことは理解しているだろう。もし一旦ここを出たら、またいつ中に入れるか判らないのだからな」
それはそうだった。入る方法がランダムであるなら、次の機会がいつ訪れるか判ったものではない。
「それに、外には子の中に入る方法を書いたものが見つからなかったことからすると、出る方法を書いたものもこの中には無いのかも知れない」
「それは十分あり得ることだ」
「ちょっと待ってくれ」
俺はさっきの日本人の日記を読み始めた。やっぱりだ、この日記の主はこの部屋に入って出られなくなったのだ。
だが今その日本人がここに居ないという事は出られたのか。もしかしたら中で死んでしまったのだろうか。とすると遺体などはどうなった?
「この日記は閉じ来れられた者が書いたようだが、出る方法はやはり書かれていない」
「だろうな。もし出る方法が見つかったのであれば、その日記も一緒に外に出てしまったはずだ」
「となるとやはり出られない、ということだな」
「いや、逆だ。外には出られる。出ないとその日記の主が今でもここに居る筈だからな」
「じゃあどうするんだ?」
「焦っても仕方ない。それはそうとさっきから喉も乾かないし腹も減らないと感じていないか?」
そう言われて初めて気が付いたが、確かに腹が減ってない。
「確かに。どういうことだ?」
「多分、時の流れが違うのだろう。私が自分の身体の時を止めているようなことが、この部屋で起こっているのかも知れない」
「そんなことが可能なのか?」
「私は自分の時を止めている、と言っただろう。実例が目の前にあるんだ、信じていい」
「そういうものか。今一ピンと来ていないんだが、まあいい。で、この部屋の中なら時間はたっぷりある、ってことでいいんだな?」
「そういうことだ。のんびり行こうか」
それからはまた閉ざされた部屋での本探しが始まった。この所ずっと探しているんで、そろそろ飽きている。
元居た世界に例えばエル・ドアンが魔法を使える状態で戻ったとして、それが俺に何か関係あるのか?
向こうの世界がエル・ドアンの為に滅ぼされたり、支配されたりしたとして、俺が守りたい人が居るのか?
それほど深く他人と関わった記憶は無い。家族も居ないし、恋人も居なかった。元の世界なんて割とどうでもいい世界のような気がして来た。
「ん?なんで俺はこんなにマイナス思考なんだ?」
俺はお気楽社員だった。失敗しても気にしない、ただマイペースを守り続ける、だがそれを乱されても怒ったりしない人間だった筈だ。
「何かの魔法で精神に干渉されている」
サーリールが俺に伝えてくれた。俺には全然探知できていないし、全く自覚も無かったが、外部からの干渉を受けているようだ。
「誰が何のために?それにこの部屋に外から干渉できたりするのか?」
「その絡繰りは判らないが、それが事実だ、できる奴が外に居るのだろう」
「もしかして、それは」
「間違いない、エル・ドアンだ」
エル・ドアンか何かの方法で王立図書館最下層まで辿り着いたのだ。そして、この閉ざされた部屋の存在にも気が付いたが入れない、というところか。
「それで外部から干渉を?何のために?」
「いや目的は判らないが、多分何かの違和感を感じたところに誰かがいるとして、その者を支配しようとしているのだろう」
「それで俺がネガティブに?」
「ネ、なんだって?」
「ああ、なんだ消極的とか陰気とか、まあそういうことだ」
「お前の元居た世界の言葉か。こんどゆっくり教えてくれないか」
「いいけど、そんなことに興味があるんだな」
「ちょっとね。思いついた、というか気が付いたことが有るのでね。それでだ」
「ん?」
「今の状況を利用しよう」
「利用しよう?」
「そうだ。外から干渉出来るのであれば、こちらの意志を伝えることも可能な筈だ。それで私が入った時の方法やお前が入った時の方法を試してもらう」
「エル・ドアンにか」
「他に誰がいる?そして扉を向こうから開けてもらうのだ」
「二つの方法では上手く行かないかも知れないが」
「試してみる価値はある」
「それはそうだな」
俺への干渉は薄まっていた。元の正確に戻ってきたようだ。いいことなのか悪いことなのかは判らないが。




