第7章 王立図書館の章 第88話 シータ・ラフティア・アステリアス
「見ているも何も、そこにいらっしゃるではありませんか」
少女にはサーリールの隠形魔法が全く意味をなさなかったのだ。というか、隠形魔法を見破ったのではなく、特に意識している訳でも無く普通に見えている、といったところか。
「そうですね。何をしているとのご質問ですが、その前に一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何です?」
「お嬢さんこそ、こんな時間にここで何をしていらっしゃるのですか?」
その場所は誰が居ても可笑しい場所だが少女の方がより可笑しいのだ。
「わたくしは夜の散歩です。いつもこの時間に一人で城内を散歩しているのです」
これは相当変なお嬢さんだとサーリールは思った。貴族の娘にそんな少女は居ない。まして使用人にも居ないだろう。
「散歩ですか。お散歩をされるには少し遅い時間だと思うのですが」
「この時間しか自由な時間が無いのです。昼間はお勉強やお作法、ダンスなどで全く時間がありません。ですからこの時間にお散歩をしているのです。それで、あなたは何をしているのか、教えてくざたらないのですか?」
「これは失礼しました。私は国王陛下の古くからの友人でサーリール・ランドと申します。今日は陛下にお礼を言うために参った次第です」
サーリールは少女の問いに正直に答えた。答えざるを得なかった、というのが正しい。少女の言葉に逆らえなかったのだ。
「サーリールさんですか。初めまして、父のご友人の方なのですね、それは失礼しました」
「父?国王陛下のことを父だと仰るのであれば、あなたは」
「申し遅れました、わたくしはシータ・ラフティア・アステリアスと申します」
現アステア国王ラムダ・アステア三世の一人娘シータだった。
「これはこれは陛下のお嬢様でしたか、それは重ね重ね失礼をしました。私は魔法士をやっておりまして実は国王陛下にお頼みしたことをお聞き届けいただいたお礼をお伝えに参ったのです。このような時間に、とは思いましたが、陛下は私のことを城内の皆に知られたくないのではないかと、斯様なお時間になりました」
やはりシータには嘘が付けない。ただこの場合は嘘を吐く必要もない、ということだったが。
「そうでしたか。ではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「えっ?このまま私を行かせていいのですか?」
「はい、勿論。父の古くからのご友人なのですよね。父も喜ぶでしょう。ではわたくしはここで失礼をいたします。父にはわたくしとここで会ったことはご内密に」
そう言うとシータは行ってしまった。
「変わったお嬢様だな、これは国王も大変だ。それにしても彼女の力は何だ?初めての、そう魔法とも言えない、ただとても強大な力だ。国王よりよっぽど娘の方が曲者かも知れないな」
そしてサーリールは国王の部屋を訪ねた。国王の部屋は図書館最深部と同様結界が張られており、壁抜けが出来ない。中から開けて貰わないと入れないのだ。国王の部屋には控えの部屋に使用人たちが居るので、その使用人が開けてくれる。
「サーリール様ですね、どうぞ」
深夜の訪問に驚く様子も無く中へと通された。国王は予想していたのだろうか。
「今日あたり来るのではないかと待って居ったぞ。大臣は役に立ったか?」
「ありがとうございます。お陰様で多分明日にでも最深部には入れることになりそうです。ただ暫らくは通わせていただくことになるでしょう」
「いや、そなたの役に立てればそれでよい。次の機会には父の時の様に儂の頼みを聞いて貰えればな。礼に来る必要もない、ワンナーの爺さんに言って好きにすればよい。報告も要らん」
「判りました、ではワンナー館長に国王のお言葉をお伝えしておきましょう」
「そんなことはせずとも良い。もう遅い、儂は休む。ここには来なくていいぞ」
そう言うとアステア三世は天蓋付きのベッドに向かってしまった。
「失礼をいたします」
サーリールは国王の内心が手に取るように分かったが、これ以上苛めても得るものも無いので、そのまま下がった。
「これであの者にも少しは顔か立つか」
あの者とはサワタリ・コータローのことだ。
「さて、次はエル・ドアンということになるな」
そう言うとサーリールは魔法学校の寮へと飛ぶのだった。コータローの部屋に着いた時にはコータローは熟睡していた。不用心極まりないが一応結界魔法などは施してあるようだ。但しサーリールには通用しない。元々サーリールが戻ってくることも配慮しての結界だった。
「これはコータローの魔法ではないな。あの小娘の仕業か。結界や防御は見るべきものがあると言うべきだな、コータローより代ほど優秀らしい」
サーリールは一人で居る時間が途方もなく長かった所為で独り言が多い。
「さて、どうするものか」
サーリールは何かを迷っているようだ。
「どちらの肩を持つつもりもないのだが、まあ仕方ないということになるか」
「それにしても、面白い時代になったものだな。そもそもどんな絡繰りでこうなってしまったのかが結局判らず終いなのも少し腹立たしいことではある」
「それにしても、こいつは起きないな」
そう言うとサーリールはコータローの顔を覗き込んだ。
「なにほど、そういうことか。一応法則はある、ということなのだな。となると、もう少しこの者にも詳しい話を聞く必要があるな」
「しかし、このままではあまりにもこの者が不利だと言える。私が手を貸すことが本当にいいことなのか、それとも何かを捻じ曲げてしまう行為になってしまうのか」
「煩いぞ、さっさと寝ろ」
コータローの声がした。起き上がったりはしていない。
「なんだ、起きていたのか?」
「寝ていたけどあんたが煩くて目が覚めたんだよ、さっさと寝ろ」
そういうとまたコータローは寝てしまった。
「判った、明日のこともある、寝ることにしよう」
サーリールは自分の寝床に入った。コータローがどこまで独り言を聞いていたのか、少し考えながら寝入るのだった。




