第5章 展開する物語の章 第66話 ロングウッドの森を後にした
「それで、一体どうしたっていうの?やっと私のところに修行に来たってこと?」
そうなのだ、元々師匠からルナの元で修業をしろと言われていたのだった。
「そうですね、いずれはお願いしたいのですが、今日来たのはちょっと別件なのです」
「別件?」
俺はルナにジョシュアとセリスがロングウッドの森に居る間、できれば追手から守ってくれないか、ということをお願いした。
「なるほと、そういうことね。でも、それならあなたも一緒にここで彼らを守ってあげたら?」
そうなのだ、それは俺も考えた。でも最終的にはその考えは捨てたのだ。
「いいえ、それは確かにそうなのですが、ジョシュアたちと俺が一緒に居ることのデメリットの方が大きいと判断したんです」
「デメリット?」
「ああ、ええっと俺と一緒に居た方が悪いことが起きる確率が上がる、と言う感じですかね」
「そういうものなの?」
「そうですね」
「それじゃあ、あなたはどうするのよ」
「俺は、そうですね、王都にでも行ってこようかと思っているんですが」
「アステアールへ?」
「そうです。王都に行ってエル・ドアンの顔でも拝んでこようかと」
俺はそう言うまでそんなことを考えても居なかったのだが、まあそれもいいだろう、程度の話だ。
「例の天才少年か。でも大丈夫?捕まったりしない?」
「そうですね。一旦見つかって、そのまま一目散に逃げる、とかになりそうですが」
そうだな、できるだけロングウッドの森から離れる方向に逃げるのがいいかもな。
「俺たちに目を向けてくれると助かるんだが」
「囮という訳ね。いいわ、君がその覚悟で行くなら、ここは任せておいて。伊達に歳は重ねていないから。ナーザレスも手伝ってね」
「何をだ?」
クマさんは今までの二人の会話を全く理解していなかった。ルナが丁寧に説明する。
「なんだ、そういうことか。それなら任せておけ、この森のことなら何でもな」
クマさんは頼りになるのかならないのかよく判らない。
「森の外周に居る魔法使いたちには、見かけない者が来たらすぐに知らせてくれるように頼んでおくわ。普段は誰が来ようが気にしない人たちなんだけど」
やはりナーザレスよりもルナの方が顔が広いようだ。
「変わった人が多いからね。でも私には協力してくれると思うんだけど」
「我にも協力してくれるぞ。皆我を尊敬しておるからな」
「はいはい、あなたは偉いわ」
ルナは相手にしていない。501歳のナーザレスに対して497歳だから少し年下の筈なんだが。
「ジョシュアたちを紹介するからルナ、来てくれ」
俺はルナとクマさんを連れてクマさんの別荘に戻った。
「ここに居る間は、まあ安心しておいてね」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけします」
「いいのよ、時々私やナーザレスの話し相手になってさえくれれば。結構ここの暮らしは暇なことが多いから」
ロングウッドの森では各々が結界を張っていて出会うことが珍しい。たまにナーザレスが迷い込んでくるくらいが関の山だ。あとは余程親しい者同士が行き来しているだけだった。
セリスは自分よりも見た目がかなり若いルナの本当の年齢が信じられなかったが俺のれいもあるから納得するしかなかった。見た目15,6歳の少女に守ってもらうことが少し気が引けてしまうようだ。
「で、コータローは直ぐに出るの?」
「えっ、コータロー様はどこかに出かけられるのですか?」
キサラが驚いて問う。何一つ聞かされていなかったからだ。俺が居ないと二人の邪魔にしかならない。
「そうだな、王都にでも行こうかと思っているんだ」
「そうですか、当然私も連れて行ってくださるんですよね」
それが当然のことと言う感じだ。まあ、仕方ない、ジョシュアとセリスの間にお邪魔虫は不要だろう。
「ああ、まあ、そうだな。ここに置いて行く訳にも行かないか」
「当り前です。私はそれほど野暮ではありません」
キサラは少し怒っているかのように言う。そのキサラにしても自分よりも年下にしか見えないルナが500歳近い魔法使いなのが少し信じられていない。
「王都に行く、ってどういうつもりだ?」
ジョシュアが問う。俺が何もないのに王都に行くなんて言い出す筈がないと思っているのだ。俺のことがよく判っている。
「見物?」
「おい」
「まあまあ。お前が捕まったっていうエル・ドアンをこの目で見たい、とか?」
「あり得ない。あの子供はお前の手には負えないぞ」
「そうか。じゃあ王都見物だけにしておくかな」
ジョシュアは付き合い切れないという表情を浮かべただけで、それ以上は何も言わなかった。俺がやることで自分たちが不利になることはない、と信じているからだ。
「それじゃ、ルナ、クマさん、後のことはよろしく頼むよ、あと師匠が戻ったら俺は王都に行ったと伝えてくれるとありがたい」
それはそれだけ言うとキサラと二人でロングウッドの森を後にするのだった。




