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第2章 回り始める物語の章 第20話 ルスカナの街で死ぬ気でやったみた

 俺は宿に戻る前に本屋によって魔法の指南書を買ってきた。勿論初級編だ。いきなりそんなに高位の魔法が使える筈もないので、とりあえずは簡単なところから試してみることにする。


 街はずれの人気のない所で俺はさっき買ったマナフエールという(なんて名前だ、センスを疑う)怪しい薬を1錠飲んでみた。しばらくは何ともない。マナが増えたようにも思えない。


「騙されたのか。」


 それらしい売り文句(実際には売らない文句)で如何わしい薬を高く売りつけていたのだろうか。


「おっ。」


 なんだか急に身体中が熱くなってくる。心臓の鼓動が少し速くなった。本当に何かの効果があるみたいだ。俺は早速初級指南書にある火の魔法の詠唱をしてみた。


 指先に炎が灯る。凄い、成功した。あの店はぼったくり店じゃなかったのだ。体調は今のところ悪くならない。いくつか魔法を試したが問題なく使えるようだ。この状態が約半日続くなら普通の魔法使い並に魔法が使えるんじゃないのか?


 俺はその日から毎日魔法の詠唱をいかに速く唱えられるか猛練習した。詠唱に手間取っていてはイザというときに間に合わないからだ。


 体調は確かに悪くなる時がある。死にそうになることも。しかし俺は死なないので、その意味では特に問題は無い。但し、この薬の副作用は身体中の関節を鈍痛が襲う。インフルエンザのときみたいだ。高熱も伴うのでまさにインフルエンザだ。本当ならそれかもっと酷くなって最終的には死んでしまう人もいるのだろう。ただ俺は死なないのでシンドイだけで終わってしまう。


 魔法が使える時間は薬を使うたびに少しづつ伸びている。逆に短くなっていって最後には使えなくなるかもしれないと思っていたのだが、どうやらマナの量は一旦多くなって元に戻る時には多くなった分より少し減る分が少ないようだ。つまり飲めば飲むほどマナの総量は蓄積されるということだ。


 毎回毎回死ぬほどシンドイのは堪ったものではないが魔法が使える基本的なマナの量が増えるのはありがたいかった。


「お前は毎日何処に行ってるんだ?」


 ジョシュアには魔法のことは黙っていた。驚かそうという企みだ。


「俺が一生懸命仕事をして情報を探っている間、遊んでいるんじゃないだろうな。」


「そんな訳ないだろう。よし、そろそろいいかも知れない、ちょっと付いて来い。見せてやる。」


 ジョシュアは俺が魔法を使えないことを知っている。ジョシュアも殆ど使えない。二人とも魔法とは無縁だと認識していたのだ。


「見てろよ。」


 俺はいつも魔法の練習をしている場所にジョシュアを連れて行って少し離れたところに居るように指示した。


「火球!」


 俺は練習で詠唱を省略して魔法の種類のみで使えるようになっていた。勿論ちゃんとした詠唱を唱えた方が同じ火球の方なら、より強い威力になるのだが咄嗟にはこれで十分だった。


 俺が放った火球は何回も練習で当てた大木に向かって飛んで行った。スピードも最初のころからはかなり速くなっている。


「おい、火球って、お前魔法が使えるのか?」


「そうなんだよ、使えるようになったんだ。俺もただ遊んでいた訳じゃないぜ。」


 俺は魔法が使えるようになった経緯を説明した。寿命が尽きるまでは絶対に死なないこともジョシュアには話した。そこを省いては信憑性がないからだ。


「そうなのか。それで死ななかったんだな。でも死ぬほど痛かったりするのは問題だな。」


「問題じゃないさ。」


「そうなのか。」


「大問題だ。」


「おい。」


「まあ、なんとかここまで来たんだ。いっぱしの魔法使いとして見劣りしない程度には成れたんじゃないかと思うが、どうだ?」


「確かに、あの火球の魔法はそこそこのもんだと思う。だが本物の魔法をあまり見たことが無いからな。」


「それはそうだ。魔法使い同士の戦いなんて見る機会はめったに無いだろうな。それと攻撃魔法ばっかりじゃなくて回復や隠蔽なんかもそこそこ覚えたから屋敷に侵入できるんじゃないかと思っているんだが。」


「俺は正攻法で、お前は魔法で隠れて、これは上手く行けるんじゃないか?」


 ジョシュアの目が輝いている。


「少し目途が立ったのはいいが、もう一つ大問題があるぞ。」


 俺はジョシュアに釘を刺す。


「なんだ、何が問題なんだ?」


「セリス本人の意思だ。」


 セリスが屋敷から逃げたいと思っていないと話にならない。本人承諾の元、俺たちと別れた可能性も十分考えられるのだ。意に染まない結婚の回避や姉の御付でベルドア・シルザールの元へ行かなくて済むのなら何も屋敷を出る必要はない。


「それは。」


 ジョシュアにも確信は無かった。そもそも自分がセリスに必要とされているとは思っていないのだ。俺はさっさと告白でも何でもすればいいのに、と思うのだが身分は、とかいらぬことを考えて躊躇っているのだろうと思っていた。ちょっと面白いので態と告白なんてシチュエーションにならないように持っていった俺の責任でもあるのだが。


「まあ、屋敷に戻る前までは普通に俺たちを紹介するって言っていたのが、あんな感じで追い返されたんだからセリスの意志ではない、と考えるのが普通だろうし、とすると今の状況はセリスの意に反している可能性は高い、ということでお前は安心するか?」


「おお、確かにそうだろう。彼女はきっと助けをもとめている筈だ。俺も時々屋敷に行けるようになってはいるが広すぎてセリスの部屋には近づけないし、彼女のことも使用人に聞いたりはできないんで今彼女がどういった状況なのか全く判らない。少しでも彼女のことが判ればいいんだが。」


「そう焦るなよ。屋敷の中の彼女の部屋さえ判っていないんだからな。」


 ウォーレン家の屋敷はいくつも建物があるし、その中で彼女が居る部屋を特定しなければならない。前に追い返された建物は判っているが、そこはウォーレン侯爵が住んでいる屋敷だと思われるので、彼女が一緒にいる可能性は高いとは思うが、幽閉されているのならまた別のそう言ったことに使いやすい建物がある可能性もある。貴族は外に出せない一族の一員を幽閉することなんて日常茶飯事だったりするんじゃないか、とか邪推してしまう。


「そうだな、まずはそこか。」


「屋敷の魔法使いが居るかどうか、それだけでも聞き出せないか。」


 俺が隠蔽魔法で隠れて侵入しても屋敷に居る魔法使いに見つかったら元も子もない。もしくは、居るとしてもどの程度の魔法使いかを知って置かないと万が一の時に対処できない。俺より全然凄いのがいたら元々駄目だが、それなら居ない時を狙うとか、色々と作戦を噛んんがえる必要も出てくる。


「わかった、少し話をするようになったメイドも居るから聞いてみる。」


「なんだ、浮気か?」


「ばっ、馬鹿を言うな。」


「だよな。ジョシュアはセリス一筋だからな。」


「たっ、だから、それは。」


 俺はジョシュアを揶揄うのが趣味になってきている。またジョシュアもちゃんと顔を赤らめてアタフタしてくれるので揶揄いがいがあるというものだ。


 そして次の日から俺たちのセリス奪回作戦が本格的に始まった。

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