第9章 絶対防御の章 第134話 絶対防御魔法の謎
「困っているようだな」
オメガの声だ。
「なんでまだこんなところに居るんだ?」
「事の顛末を確認してから逃げることにしただけだ」
オメガの隠蔽魔法はアステア一だ。ルキアを連れて無事にルスカナに連れて行けるだろう。ただ、そこまでオメガを信用できるかどうか、というところか。
「それで困っているのではないのか?」
「困っているさ。頼めるのか?」
「どこに連れて行けばいいんだ?」
「ボワール家でいいよ」
「なるほど。ただ私はあの屋敷には入れない」
オメガは世話になっていたボワール家を裏切ってしまった形になっている。ボワール商会のワリス・ボワール伯爵は、そんなことは気にしないだろうが。
「近くまで送ってくれればいい。頼んだ」
「でもコータロー様、私もここでお役に立ちたいと」
「いや、キサラ、まだお前はルキアの精神支配下に置かれているかも知れない。この場にはいないほうがいいだろう」
「そうですか。判りました、ご指示に従います」
キサラはエル・ドアンを止められなかったことを悔やんでいた。自分が失敗したと思っているのだ。今ここで足手まとい扱いされたと思っているのだろう。
「なんだ、あの娘はルスカナに返したのだな」
師匠が戻って来た。どこに行っていたのやら。
「いい判断でしたね」
ダンテもほぼ同時に戻って来た。
「まあ、まだルキアに操られていたなんてことは御免だからな」
「そうじゃな、裏切られては大変じゃ」
「師匠がいいますか?」
「言うでないわ。ああ、そうじゃ言い忘れておったことが」
「まだ何か?」
「お前の絶対防御魔法のことじゃ」
「絶対防御魔法のことですか?」
使い物にならない魔法のことで、また何かあるのか?
「絶対防御魔法が相手に掛けられないというのは嘘じゃ」
「えっ?」
「あの魔法は術者から離れた場所にも掛けられる、ということじゃ」
自分の周りにしか掛けられなくて空気も遮断されるので掛けた術者自身が窒息してしまう欠陥魔法だった筈なんだが、離れた相手に掛けられるのであれば汎用性が飛躍的に広がる。
「騙しましたね」
「すまん、すまん。お前に絶対防御魔法を使いこなされたら儂でも太刀打ちできんからな」
俺と敵対するために絶対防御魔法は欠陥品だと思わせたかった、ということか。
「絶対防御魔法はその範囲もある程度は変えられるし少しは離れた場所にでも掛けられる。相手の身体の中心に薄く発生させることもできる」
「そんなことをしたら」
「そうじゃ、掛けられた相手は上半身と下半身が分かれてしまうじゃろうな」
防御魔法と言いながら攻撃魔法としてチート過ぎないか?
「それって防御魔法なんですか?」
「れっきとした防御魔法じゃよ。ただこうげきにも使えるってだけじゃ」
防御よりも攻撃に向いている魔法なんじゃないか?物理的な攻撃も魔法も防御できるのは確かだが。
「では向こうの本陣に忍んで行って首魁を捉えるってことでいいでしょうか」
それがダンテの作戦だった。隠蔽魔法で出来るだけ近づいてバレたら俺の絶対防御魔法で脅すって寸法だ。それでいいのか?雑過ぎないか?
「ロメス隊長の許可は?」
「いいえ。ただシータ様にはお話をさせていただきました」
「それは拙いんじゃないか?」
ロメスは王都守護隊の将軍であり今回の遠征隊の隊長を担っている。ただその全ての上位に立つ存在がシータ・ラフティア・アステリアス王女ではあるんだが。
「ロメス隊長の許可は得られないでしょう。正攻法で勝つことしか考えておられませんから。でもそれでは多数の死傷者が出てしまいます。王女殿下はそれを望んでおられないのです」
遠征隊もケルン守護隊も同じアステア国民に違いは無い。その命は同等と王女は考えているのだろうか。お優しいことだな。その優しさがいつか自らの身に災いをもたらさないといいが。




