第9章 絶対防御の章 第128話 ケルンの戦い⑩
「まあ、待て」
「何を待つと言うんですか?修行なんてしませんよ?」
「じゃから、待てと言っておる。この魔法はあのダンテとかいう魔法士と話をしたのじゃが、絶対防御とは名ばかりでじつは攻撃魔法ではないかと言う結論になったのじゃ」
ん?絶対防御魔法が攻撃魔法だと?意味が判らん。
「どういうことですか、ちゃんと説明してください」
「この絶対防御魔法は古代魔法で一度掛けたら解除ができない。解除方法が伝わっておらんのじゃ。ただマナの供給が終れば一定時間で自動的に解除されるらしい」
「それじゃあ、やっぱり俺は攻撃にさらされている間ずっと死に続けることになるでは?」
「だからちゃんと話を最後まで聞けというのじゃ。だれがお主が自分に防御魔法を掛けると言った」
「えっ?俺が絶対防御をする訳じゃないと?」
「そうじゃ。これは相手に掛ける魔法という事じゃ」
あっ、そう言うことか。最初の発想は多分俺なら死なないから使えるんじゃないかと言うところだったのだろう。
ただ逆に言えば相手に掛けることが出来れば相手は自らの周囲に掛けられた絶対防御魔法によって守られてはいるが空気さえも通さない魔法は簡単に中の人間の命を奪ってしまう、ということだ。
「それは。確かに有効そうですが、あまりにも簡単に相手の命を奪ってしまうことになりませんか」
「駄目か」
「相手から投降する機会を奪ってしまいませんか?悪戯に相手の命を奪ってしまうのはどうも」
「優しいことじゃな。相手はこちらの命を奪いに来ておると言うのにか」
戦争なんてそんなものだ。そして雑兵一人の命は上層部からはただの数でしかない。彼らからすると俺の命もただの数だ。
「それはそうなんですが」
「とりあえずは切り札というやつじゃ。覚えておくに越したことはないぞ」
「判りました。覚えることは覚えましょう。相手に反射魔法を使われてこちらに戻ってしまっても俺なら問題ないでしょうから」
反射魔法は簡単ではない。詠唱も長く成功率も低い。ただ成功すればその効果は絶大だ。
修行は単純なものだった。古代魔法の詠唱を憶える。そして発動する。それの繰り返しだ。
俺は古代魔法が少し使えたので、詠唱そのものはそれほど難しくは無かった。ただそれを省略することは困難を極める。
長い詠唱を必要とする魔法は、詠唱している間に狙われれば一溜りもない。無詠唱までたどり着ければ一番なのだが無詠唱は単なる詠唱省略の比では無かった。
ただ俺には無限のマナと死なない身体がある。繰り返し繰り返し詠唱を省略していく過程で無詠唱までなんとか辿り着いた。
元々それほど長い詠唱ではなかった。ただ本当に使う人が居なかっただけなのだ。
無詠唱に成功すると次は魔法の有効時間の確認だった。一旦掛けるとマナの供給を止めても直ぐには魔法が解除されない。
何度も繰り返した結果、マナの供給を停止すると約1分で解除されることが判った。
1分ということは息を止めてもなんとか耐えられる時間だ。ただ空気が無くなってしまう事を事前に知らさせていないかぎりパニックになって1分も息は持たないだろう。
更に解除されるかどうかも判らない状況で息が続くとは到底思えない。
「一旦掛けて直ぐに解除して脅す材料にする、ということでどうですかね」
俺は師匠に提案してみた。やはり簡単に命を奪うのは寝覚めが悪い。
「お主」
「なんです?」
「早死にするぞ」
いや、俺はそうそう死なない。本来の寿命までは死なない。見た目は若いが60歳を超えていることだしな。
「早死にってことはないですよ。俺は歳は取ってますから」
「そうじゃったな。その見た目で騙されてしまうわい」
「師匠もまた若返るんでしょう?」
「まあ、そうじゃな。ただこのままでもよいか、とも思っておるのも確かじゃ」
「このままって、その見た目のままってことですか?」
「割と気に入っておるのでな」
「でも肉体年齢がそれでは、それこそ長生きできないのでは?」
「そろそろ終わりを迎えようかとも思っておるのじゃよ。お主の様な面白い奴にも出会えて事だしな」
なんだかしんみりした話になって来た。500年も生きるともう飽きて来ているのか。
まあ俺は見た目は若くても、もう少しで寿命が来て死んでしまうんだがな。
「それで師匠、誰に絶対防御魔法を掛けるんですか?」
俺が絶対防御生魔法を習得したとしてからの作戦はダンテが考えているはずだった。
「とりあえずエル・ドアンですかね」
「いや違う。エル・ドアンは儂が何とかしよう。お主に相手をしてもらうのはゼノン・ストラトスという向こう側の首謀者じゃ」
ケルン側の首領はルーデシア・ケルン子爵ということになっている。だが結局指揮をしているのはゼノンなのだ。