第9章 絶対防御の章 第127話 ケルンの戦い⑨
「エル・ドアンは街道の北、川の上流に待機している筈です」
キサラは言う。エル・ドアンは川の上流で一定期間水を堰き止め遠征隊が川を渡ろうとするタイミングで水を放流するつもりだろう。
作戦としてはありきたりだが通常は短期間での準備が不可能なので採用されない。それをエル・ドアンが魔法で可能にしようというのだ。
「それなら見付けられそうだな」
情報が本物とすれば俺が裏切らないこととに加えてエル・ドアンを無効化できるとするば戦況はかなり有利になる。
「確認には俺が行こう。エル・ドアンとは旧知の仲だからな」
「ちょっと待ってください。あなたにはやってもらわないといけないことが」
「例の古代魔法ってやつか。それかそれほど大切か?」
「まあ、念のため、というやつです。それにあなた次第で古代魔法を習得してからエル・ド
ンを止めに行くことは可能でしょう」
「なんか、凄く酷いことを俺にさせようとしていないか?」
ダンテは返事をしない。
「おい、何か言えよ」
「とりあえず段取りはヴァルドア様にお話ししてあります。早速お願いします」
「よし、判った」
いきなり現れた師匠に俺は飛翔魔法で連れ去られた。大体の方向で言うとエル・ドアンが居ると思われる方向だ。
「この辺りでいいだろう」
そう言うと師匠は俺を森の中に降ろした。
「こんな場所でどうするんです?」
「だからここで修業をするんじゃよ」
「古代魔法、ってやつですか。そもそもその魔法はどんな魔法なんですか」
「古に忘れさられた、というか捨て去られた魔法じゃな」
捨て去られた?それって相当ヤバいやつじゃないのか?
「どんな効果があるというんですか」
「まあしいて言えば絶対防御魔法というやつじゃ」
「絶対防御御魔法?」
「そうじゃ。全ての物理攻撃、魔法攻撃に対して絶対的に防御出来る魔法というやつじゃ」
そんな魔法が有れば無敵じゃないのか。それがどうして忘れさられたり捨て去られたりするんだ?
「ちょっと待ってください。絶対防御はいいんですが、なにか問題があるから捨て去られたんでしょ?」
「まあ、そういうことじゃな。これは結局誰も習得できなんだ魔法じゃよ。いや、誰も習得しようと思わなかったというべきか」
なんなんだ。怖いからもう早く詳細を教えてくれ。
「それで結局何が問題なんですか。速く教えてくださいよ」
「問題と言うか、まあお前しか習得しても意味がない魔法というべきか」
べきか、は聞き飽きた。
「だから、問題は?」
「この魔法は風邪魔法の応用で身体の周囲に物理攻撃も魔法攻撃も通さない層を作る魔法なんじゃ。そのマナの消費量は半端ない」
なるほど継続するには相当量のマナが必要という訳か。普通の魔法使いでは直ぐにマナを使い切ってしまうってことか。
「なるほど、それは確かに俺でないと聖徳しても意味がないかも知れませんね」
「それとじゃ」
えっ、まだ何かあるのか?
「それと?」
「絶対防御の層を魔法で作るんじゃ、他のものも通さない」
「他のものって?」
「ありとあらゆるもの、じゃよ」
ありとあらゆるもの?ありとあらゆるもの。ん?ということは空気も通さないったことか。
「まさか、空気を通さないってことですか?」
「そのまさか、じゃな。それでマナの消費よりも先に身体の周囲から吸う空気が無くなって術者が先に死んでしまう、という訳じゃ。そりゃ誰も習得しないわな」
当り前だ。絶対防御で攻撃は防げても死んでしまったら意味がない。
「えっと、帰ります」
ダンテも師匠も俺が死なないから習得できると思ったんだろう。馬鹿を言え、痛みとかは普通に感じるんだ、窒息死なんて死ぬほど苦しいだけじゃないか。そんなことで防御しても窒息して攻撃できなければ勝てないじゃないか。
(ゴーン)「痛てててて」
歩き出した俺の前に見えない壁が立ちふさがった。ども師匠の張った結界のようだ。俺を逃がさないつもりか。
最初から結界を張っていたとすればダンテの差し金だな。師匠一人なら出し抜けたはずなんだが。