第9章 絶対防御の章 第124話 ケルンの戦い⑥
「おい」
俺がウォーレン侯爵の屋敷内を探していると誰も居ない所で声を掛けられた。
「オメガか」
「ああ、そうだ」
「キサラをどうした?」
「ちゃんと助け出してきたさ」
「今はドコに?」
「少ししたら見れるようにしてあるこの紙を渡そう。そこに居場所を書いてある」
「それを見れるまでに時間が必要ということか」
「そうだ。その間に私は逃げさせてもらう。ただ君の力で追手が掛からないようにできないものだろうか」
オメガは確かに逃げようとすれば逃げられただろう。キサラを放置して行っても良かったはずだ。ただその場合は追ってが掛かってしまうと判断したのだろう。
それで俺に追手が来ないように手を回してもらう為にわざわざ屋敷内に残っているのだ。
「俺が断ったら?」
「この紙は渡さないし彼女の身柄は二度と見つからないだろう」
オメガが逃げた後に探してもキサラが絶対に見つからないよな隠し場所があるのか?ただのブラフだと思うんだがな。
ただそうは言っても確実ではない方法の選択は無かった。
「判った。そっちも約束は守れよ。もしキサラの身に万が一のことが有ったら俺が追っ手になる」
「判っている。そんな下手な真似はしない。ではこれを」
俺の手に紙が触れた。手に取ると神が見えるようになった。ただ今は何も書かれていない。時間が経てば浮き出るようになっているのか。
俺か追っ手になる、と言ってもオメガに本気で隠形魔法を使われたら俺には見つける術はない。まあ、そのことを教えてやる必要もないが。ダンテの探知魔法をすり抜けるオメガの隠形魔法はやはり相当なものだ。
俺が紙を受取った次の瞬間にはオメガは居なくなっていると思って間違いない。俺は屋敷内を探す振りをして紙に書いてあることが読めるようになるのを待っていた。
「どこにもいませんね」
ダンテが話しかけて来た。
「丁度いい所に来た。相談があるんだ」
俺はオメガとの話を正直に全部伝えた。問題はオメガの隠形魔法がダンテの探知魔法をすり抜けられることだ。マナの量も探知できない。普通に逃げられてしまう。それならキサラを返してもらって追っ手を掛けない方がいい。
元々冤罪(盗んだという意味では冤罪ではない)で捕まっていたのだ。
「基本的に悪い奴じゃないとは思うんだよ。マシューと同じで向上心というか名誉欲が強すぎただけなんだ」
マシューと同じと言われたことでダンテは不満顔だが否定はしなかった。
「だしはそれほど信用できませんが。まああなたがそうすることが正しいと判断したのであれば私もそれに倣うとしましょう」
一応ダンテも賛成してくれた。このままちゃんとキサラが見つかればダンテの件はもみ消してくれるだろう。ダンテにそれだけの権力があるという事ではないが色々と交渉して処理してくれるはずだ。
「なんじゃ、見つかったのか?」
師匠も合流した。俺たちが探していないことに違和感を感じたのだろう。
「見つかったのではないが、何かしらの情報は得られた、というところか」
「まあそんなところです。聞きます?」
「いや聞きたくはないな。お前たちの悪巧みになぜ儂が加担しなければならんのじゃ」
「そう仰らずに。お力を貸していただきたいこともありますので」
ダンテが師匠に詳細を説明した。
「確かにあのオメガという男は悪い奴ではなさそうじゃったな」
師匠としては『赤い太陽の雫』の件で迷惑を掛けたと少しは思っているのか、素直に現状を受け入れた。
「だが本当のあの娘は大丈夫なんじゃろうな。儂にも責任があるのでそこは譲れんぞ」
「そこは俺も譲れませんよ。もしキサラに危害が加えられていたりしたら俺と師匠とダンテでオメガを世界の果てまで追い詰めましょう」
「世界の果てとな。やはり面白い表現をするものじゃの」
そんな話をしている時だった。オメガから渡された紙に変化があった。
「あ、何かが浮き出て来た」
それは地図だった。ルスカナの街の中心部の地図だった。ウォーレン侯爵の屋敷に印がしてあったが、もう一つ印があつた。俺はその場所に覚えがあった。マリア・ウォーレン侯爵夫人の屋敷だ。
「拙いな、ここは公爵夫人の私邸だがケルン側の人間も出入れしている場所だ」
「知っているのですか?」
「俺がケルン側に寝返るように言われて制約魔法を掛けられた場所だよ」
「それなら一刻も早くキサラさんを助け出さないと」
俺とダンテは師匠の飛翔魔法で侯爵夫人の私邸に急いで向かった。




