第9章 絶対防御の章 第122話 ケルンの戦い④
「なんとかなりそうです」
ダンテはそれ以上説明しない。
「それだけか?」
「それ以上がひつようですか?」
「まあいいんだが、少しくらいは」
「仕方ありませんね」
ダンテは最初から話すつもりで俺を揶揄っている。いつもと立場が逆だ。
「あなたの師匠にお願いしました。ただヴァルドア様はそう簡単には見つからないのでオメガさんを使いました」
オメガ・サトリームか。隠形魔法は超一流だ。
「なるほど。それで師匠は見つかったのか?」
「ええ。そしてキサラさんの居場所も確認しました。今二人で脱出させている所です」
本来ならオメガ一人でも大丈夫な筈だが万が一の場合の師匠、ということか。流石はダンテ、素都がない。
「多分今夜中にはここに連れて来れると思いますよ」
「それで万全ということか」
「あなたのは活躍してもらわないといけませんから。ただあなた自身に掛けられた魔法は直ぐには解除できません」
「判っているさ。ただキサラが居なくなったら予定通りに俺に指示が来るだろうか」
「それはなんとも言えませんね」
エル・ドアンは俺が寿命が来るまでは不死であることを知らない筈だった。だからキサラが居なくなっても俺が指示通り裏切ると思っている可能性はある。
「俺自身は死んでもキサラが助かったのなら裏切ったりしない、という風に思って指示を止めないだろうか」
「それほどあなたを信用しているでしょうか」
「それはあまり自信がない」
もしかしたらキサラから聞き出している可能性もある。ただそれなら俺に制約魔法を掛けたりしないだろう。やはり俺が不死なのは知らないと見ていい。
「まあ、俺が裏切らなくても向こうの作戦に影響はないだろうがな。ただ俺が裏切った方が確実に勝てる、という意味くらいしか考えていないだろう」
「そうですね。いずれにしても相手にとってはあなたの魔法、というよりはノート君とサシャさんとの連携魔法は驚異です。そして今はまだその威力を知らない。これはかなりこちらが有利だと思います」
「謙遜はしないよ。確かに普通に俺が魔法を放つよりは数段ノート達との連携魔法の方が強力だ。ただ向こうの特級魔法士もその実力は計り知れない。エル・ドアンは言うまでもなくな」
特級魔法士の数なら師匠を数に入れてやっと同数だ。師匠は伝説級魔法士だがあまり当てにはできない。上級魔法士ならケルン側の方が多い。その辺りがどのくらい戦況を左右するかだな。
実際のところ勝敗は五分、少しだけ遠征軍が有利というくらいだと見ている。
「大丈夫ですよ。マシュー様もいらっしゃいますし」
ダンテなりに主人に気を使っているのか。
「そのマシューはどうしているんだ」
「マシュー様は何やらトリムネル・アンレス様とお話になっておられます」
トリムネル・アンレスは遠征軍の魔法士部隊長でマシューと同じ特級魔法士だ。
「接点がある二人とも思えないが」
「王都の魔法省に、というような事をお話になられていると」
「おいおい、それでいいのか?」
「私はマシュー様が行かれるところであれば、どこまでも付いて行きますよ」
マシュー・エンロールとダンテ・ノルンの関係もよく判らない。マシューの方が少し若いはずだがマシューは特級、ダンテは上級ということでダンテがマシューの下に付いているのは判る。
しかし二人の関係はそれだけではない物を感じる。
「お前たちは一体どんな関係なんだ?」
思い切って聞いてみた。
「私とマシュー様のことですか。あなたには関係ないことです。下手に首を突っ込まない方が身のためですよ」
いつになく真剣な眼差しでそう言うダンテは少し怖かった。
「判ったよ、もう聞かない。で、決戦は明日か明後日になるのか?」
「多分明後日でしょうね。こちらがルスカナを、向こうはケルンを出るとちょうど中間地点辺りに平原があります。そこが戦場となるでしょう」
ルスカナとケルンは馬車で一日の距離だ。その中間には森も何もない広い場所がある。人も住んでいないので被害が出る可能性も低い。戦いを前に商人や旅人も街道を通ってはいない。
「少しだけ時間があります。あなたに提案があるのですが」
ダンテが突然言い出す。何の話だ?




