第9章 絶対防御の章 第120話 ケルンの戦い②
「では参りましょうか」
シキは俺を先導する。
「で、どこに向かっているんだ?」
「こちらで用意した魔法士に会ってもらいます」
魔法士に会う?今のところ意味が解らない。
「そうです。とりあえず付いてきてください」
俺はシキの店ではない、少し大きなお屋敷に連れて行かれた。
「ここは?」
「ここはマリア・ウォーレン侯爵夫人のお屋敷です」
マリア?ああ、セリスやシンシアの母親だったか。ん?後妻って言ってたっけ?
「侯爵夫人のお屋敷が別にあるのか」
そこは確かに見覚えのあるウォーレン侯爵家ではなかった。公式なのか内密なのか、夫人のお屋敷があるのだろう。
「そうです。私は今でも侯爵夫人には可愛がっていただいておりますので、少しここを使わせていただいております」
口調からするとどう聞いても悪いことにしか使っていないように聞こえるんだが。
「そうなのか。まあいい、それでここで俺は何をすればいいんだ?」
「少しだけお待ちを」
建物の中に通されると豪奢な居間に通された。
「何かの悪巧みに使っているんだろうなぁ。何かは判らないし知りたくもないが」
俺が思考を巡らせているとシキが見知らぬ顔の男を連れて戻って来た。
「お待たせしました。では早速」
「って、おいおい説明は無しかよ」
「ああ、そうですね。この人はゼノン様が召喚されたニホンジン?というのでしたか、あなたと同郷の方です」
見た目からして日本人っぽいなとは思っていたが、やはりそうだったか。
「初めまして、斎藤正信といいます。あなたが沢渡幸太郎さんですね」
「そうだよ、俺がコータローだ。で、あんたが斉藤さんか、よろしくな」
斎藤正信という男は二十代半ばの精悍な体育会系のマッチョにみえた。何やってた男なんだろう。見た目は俺の方が随分若いが中身は俺の方が倍以上年上だろう。
「それで何をしようって言うんだ?」
「何、簡単なことですよ。あなたが裏切ることを止めないように制約の魔法をかけさせていただきたいのです」
なるほどそう来たか。つまりおれが万が一裏切らなかった場合、当然キサラの命は無いが俺自身にも何かしらの制約を掛けておこうということか。
「なるほど、そういうことか」
「ご理解いただけましたか。では早速」
「ちょっと待ってくれ、斎藤さんはどうみても体育会系なんだが、そんな繊細な魔法が使えるのか?」
「タイイクカイケイ?」
シキには通じない。
「ああ、大丈夫ですよ。攻撃魔法よりは回復とかの方か得意なんです」
こりゃ斎藤くんと話した方が早いな。
「そうか、それなら安心だ」
「では」
「ちょっと待ってくれ」
「まだ何か?」
「俺がもし裏切らなかったらどうなるんだ?」
「それは勿論」
「勿論?」
「命は無い、ということです。そういう制約を掛けます」
「そうか、それは当然だろうな」
斎藤はすぐに詠唱に入った。聞いているだけで高度な魔法だと判る。こいつは上級ではなく特級魔法士クラスだ。
「ケルン側には、あんたのような魔法士が何人いるんだ?」
「私よりも上位の魔法士は少ないですよ。三人といったところでしょうか。私と同等の魔法士は三十人ほどいますがね」
特級以上の魔法士が三十三人、いや四人か。このまま少しでも情報を聞き出そう。




