第8章 戦乱の兆しの章 第110話 戦乱の兆しⅡ②
「それで公爵の方はどう思う?」
マシューは自らとダンテの参戦の承諾を得に行ってくれた。
「マシュー様なら説得してくださるだろう。公爵様もこの国の一大事に出し惜しみすることは無い筈だ」
「オメガの件は?」
「それは何とも言えない。恩赦的な措置でもないと、ということもあるが実際『赤い太陽の雫』は見つかっていないことだしな」
「見付かればいいのか?」
「おい」
「なんだ?」
「やっばり何か知っているな?」
「いや、知らない。お前と同じ程度に知らないよ」
多分ダンテも同じ結論に至っている筈だと思っていたのでカマを掛けてみた。
「なるほど、そういう意味か」
ダンテは自分の中で納得したようだ。
「それでどうするんだ?」
「公爵の元に返す」
「できるのか?」
「条件がある」
俺が出した条件は『赤い太陽の雫』を戻すのはケルン側との戦いの後、ということだった。それと誰が持っていたのかは不問にする、ということだ。
「その条件は私が責任を持って呑もう」
「それならオメガも参戦させてくれよ」
「それは」
流石にそれは難しいか。でも戦力は多い方がいいことは間違いない。
「まあいい、それも何とかしよう」
ダンテがそう言ってくれれば安心だ。何とかしてくれるだろう。方法はお任せだ。
「でもなんでそれほどオメガに拘るのだ?」
「うーん、なんでだろうな。自分でもよく判らないけど、なんでかオメガが何かの鍵を握っている気がしているだけなんだ」
それは本当の事だった。ただの勘と言えばそうなのかも知れないが、オメガを参戦させた方がいいんじゃないか、という考えが浮かんでからはそれに固執してしまっている。自分でもよく判らない。
「何の根拠もない訳か。それはただの賭けと言わないか?」
「多分そうなんだろうな。でも案外そんなことが戦況を左右するんじゃないか?」
「危険な賭けのような気もするがな」
そこにマシューが戻って来た。
「シルザール公爵の許しが出た。僕とダンテは大丈夫だ。あとの三人は待機するという条件付きだが、それは想定通りだから問題ないな」
「よかった。それでオメガの件は?」
「それも条件付きで許しが出た」
「条件?」
「そうだ。コータロー、お前が公爵に仕えること、だそうだ」
「えっ」
それは俺はダンテが同時に発した言葉だった。なんで俺が?
「どういうことだ、それは」
「僕が知る訳ないだろう。公爵はお前が今城に居ることもご存じだった。それでオメガの件はお前が全責任を持って監視すること、戦いが終ったら恩赦で開放すること、そしてお前が公爵に仕えること、それが条件だと仰ったんだ」
「公爵は何を知っていて何を考えているのか全然判らないな」
公爵とは面識はないがシルザールに着いて直ぐに毒殺されかかった経験しかない。少なくとも俺に好印象を持っているとは到底思えない。
それがどうして俺を配下にしようとしているのか。飼い殺しでもするつもりか?
「条件は伝えた。あとどうするかはお前の決断次第だ。で、どうするんだ?」
「全部飲むさ、それで俺の目論見は全て揃うことになるんだからな」
「では僕の手下になるんだな」
「なんでお前の手下なんだよ」
「公爵にお仕えするという事なら僕の後輩になるから手下も同然だろう」
「いや、引き抜きなんでお前の上司的存在に成るかもよ?」
「まさか」
マシューの表情は少し強張っていた。




