第8章 戦乱の兆しの章 第105話 戦乱の兆し⑦
「サッケードさん」
「なんだ?」
「まだサーリールの所までは遠いですか?」
もう半日は歩いている。木々の隙間、道なき道を進んでいるのだが、それにしても相当な距離を歩いたはずだ。
サッケードは時折立ち止まって方向を変える。それが道を思い出しているのか、間違って迷っているのかがよく判らなかった。
「もう少しで着く。もう少しだ」
その言葉が自分に言い聞かせているようで少し怖かった。
「こんなところで何をしている?」
それは、さっきのサッケードの同じセリフだが聞き覚えのある声だった。
「サーリール、よかったやっと会えた」
「遅かったではないか。ヴァルドアは先に着いて寛いでいるぞ」
「師匠は飛翔魔法で一っ飛びだからな。俺は普通に馬車で来たんだ」
「なぜお前も飛翔魔法を使わないんだ」
「使わないんじゃなくて使えないんだよ。ちょっと練習はしてみたが、どうも相性が悪いようだ」
ロングウッドまでの旅の間、俺は飛翔魔法を練習してみた。ノートとサシャも飛翔魔法はまだ使えない。
しかしいくら練習しても上手くならなかった。飛ぶことはできるのだが思うように動けないのだ。壁を超える高さまで飛ぶことはできるが、移動が出来ないので壁の向こうには行けない、という感じだ。
俺の飛翔魔法は索敵には少し役立つかもしれないが実戦には到底使えなかった。
「それでどうだ?」
「どうだ、とは?」
「師匠と一緒にロングウッドの魔法使いを仲間に引き入れてくれたんだろ?」
俺や師匠であるヴァルドア・サンザールがロングウッドの森に来た目的は少しでも多くの魔法使いを参戦されるためだ。
「それはまあ、そうなんだが」
サーリールにしては歯切れの悪い反応だ。どうも上手く行っていないらしい。
「誰も来てくれないのか?」
「いや、それどころか誰も探し出せないのだ」
ロングウッドの森の魔法使いたちは各々結界魔法を多重に掛けているのでなかなか探し出せないのだ。出会うことだけでも一苦労ということだ。
「ヴァルドアはもう諦めている」
それで寛いでいるのか。
「みんな魔法使いとしては一流だが自分のことしか考えていないやつらだからな。国がどうなろうとあまり気にはしないようだ」
あんたを筆頭にな、とは思ったが突っ込まないでおこう。一応師匠と一緒に手伝ってくれる魔法使いを探してはくれたのだ。
「すると師匠とあんたとルナくらいか。ナーザレスはどうなんだ?」
「あれは私の使い魔だが、この森から出られない」
「やっぱりそうか。そんな事じゃないかとは思っていたんだが」
「それにルナも無理だと思うが」
「そうなのか?なぜだ?」
「彼女は攻撃魔法は全く使えない。そもそも他人と争うことが大嫌いだ。防御魔法や治癒魔法はアステア一だがな」
「それなら、なんとか随行してもらえないものかな」
防御魔法や治癒魔法はとても有用だ。こちらの陣営には俺も含めて攻撃魔法が得意な魔法使いが多いが概して防御や治癒は不得意なのだ。
特に俺は基本的に死なないので治癒魔法は殆ど使えなかった。防御魔法はそれがないと攻撃に繋げられないので多少は使える。あと隠形・隠蔽魔法はかなり得意だ。
「直接頼んでみたらどうだ?多分ヴァルドアは断られていたと思うが」
「そうなのか。で、師匠は何処に?」
何一つできていないのに、どこで寛いでいるんだ。
「確か前に行ったことが有るだろう、私の屋敷に今は居ると思う。そこで数日前から寛いでいる筈だ。行ってみるといい、道中は迷わないで行けるようにしておくから」
「なんだ、連れて行ってくれないのか?」
「私は私でやることが有るのだ。お前たちだけで行ってくれ。ルナのところにはヴァルドアが連れて行ってくれるだろう」
そういうとサーリールは何処かに行ってしまった。
「では私はこれで用済みだな」
「いや、サッケード、実はお願いもあるんだが」
「私は行かないぞ。他の魔法使いも同様だろう。自身の魔法の研鑽以外興味がない魔法使いたちが集まっているのがロングウッドだからな」
判ってはいたが、ここの魔法使いたちは自己中ばかりだ。




