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第8章 戦乱の兆しの章 第102話 戦乱の兆し④   

「では行ってまいります」


「うん、よろしく頼んだよキサラ。くれぐれも危ない真似はしないように。何かあったらエル・ドアンに任せて逃げることに徹するんだ」


「判っています、ちゃんと逃げる時には逃げます」


 エル・ドアンと二人と言うのは不安ではあるが安心でもあった。用心棒としてはこれほど頼りになる者も居ない。ただ信用できるかどうか、というところだ。


「ドアン先生、ちゃんとキサラを守ってくれよ」


 エル・ドアンは少しだけ不満げだ。


「判っていますよ。彼女は任せてください。ただ」


「ただ?」


「ストラトス家の召喚魔法の技はいただきますよ」


 そこが問題だ。エル・ドアンを元の世界に戻さないように、というのが当面の俺の使命だった。だがストラトス家の魔法が元の世界からエル・ドアンをピンポイントで召喚できることが判って、その問題は解決したはずだった。


 しかしストラトス家との戦いが始まってしまうとすれば、それどころの騒ぎではない。その戦いに勝つにはエル・ドアンの力はかなり有用なので外せない。


「それは、まあ、なるようになる」


「ちょっと待ってください、そこはちゃんと言質を取っていきたいんですが」


「待てよ、俺の言質を取っても仕方ないんじゃないか?俺に何の権限があると言うんだ?」


 詭弁だった。そもそも俺が依頼したことなのだ、俺が責任を持って対応すべきだろう。


「騙しましたね」


「人聞きの悪いことは言わないでくれ。俺は約束した覚えはないぞ。ただストラトス家の者から教えてもらうことが出来るかも知れない、くらいのことは言ったかも知れないが」


「いいですよ、もう。僕は僕で勝手にやらせていただきますから。もし戦いになって彼らが死にそうになったら僕は逆に向こうに付きます。捕まえたりするにしても僕に召喚魔法を伝授してもらってから、という意味ですが」


「そこは自由にしたらいいさ。ストラトス家の者を殺してしまうことまでは考えていない。その技は伝承すべきものだとは思うからな」


 俺はストラトス家の他にも召喚魔法を使えるものたちが存在することをエル・ドアンには伝えていない。それが吉と出るか凶と出るか。


 言いたい事だけ言ってエル・ドアンとキサラは旅立って行った。


 王都アステアールから南回りでケルンまで馬車で約30日ほど掛かる。俺も北周りでシルザールまで行く途中、ロングウッドの森で魔法使いたちを説得しなければならないので愚図愚図してはいられなかった。


 キサラたちが発った翌日シータ王女と打ち合わせのため城を訪れた。師匠を伴ってだ。


「王女陛下にはご機嫌麗しゅうごさいまする」


 ヴァルドア師匠が変だ。王女の前では大人しい。


「これはヴァルドア・サンザール様、此度こたびはよろしくお願いします」


 何故かシータ王女もヴァルドア師匠に余所余所よそよそしい。


「ヴァルドアよ、我が娘のことをよろしく頼む。決して危害が加わるような事はないように」


「王よ、儂はそのつもりだが基本的には親衛隊が王女の身は守ることでいいんでしょうな」


「それはそうだが、魔法に対しては魔法でないと対抗できんのでな」


「では魔法士部隊を連れて行けばよいでしょう。王都守護隊の魔法士部隊は最強だと聞いておるが」


 王都守護隊所属の魔法士部隊はその構成員が全て特級魔法士以上でありアステア国最強の魔法士部隊と言われているらしい。俺は会ったことも無いし他の魔法士部隊も知らないんだがな。


 また親衛隊は王都守護隊の中でも精鋭の剣士が所属しており王族の守護を担っている。今回はそのほとんどがラムダ・アステア三世の守護のために王都に残るのだがシータ王女の護衛にも一個小隊が随伴することになっている。


「それはそうなのだが王都を離れられんと魔法士部隊の隊長であるトリムネル・アンレスが申すのでな。ヴァルドアよ、そなたがいれば十分でしょうと言われると儂も返す言葉がなかったのだ」


 ヴァルドア師匠の力を過大評価している、とは思わないが全部任せてしまうのもどうかとは思う。 


「国王陛下、いいえ伯父様、これはどういうことなのですか?」


 そこへ突然女性が案内も請わずに入って来た。国王の部屋に勝手に入って来たのだ、それなりの立場の者なのだろうが俺には見覚えが無い。


「なんだハーティ、お前を呼んだ覚えはないが」


「呼ばれてはおりません、伯父様。でもシータを戦場へ送るなどとお聞きすれば黙っている訳には行きませんわ」


 ハーティはハーティ・アストリアス。国王の弟であるジン・アステアの一人娘らしい。歳はシータよりも9つ歳上になる。


「本人の意志なのだ、仕方あるまい」


 国王も納得して送り出す訳ではない。ただ言い出したら聞かない我が娘のことは父親が一番判っているのだ。


「そうですよ、ハーティ姉さま、わたくしが王にお願いしたのです。父上の代理としてわたくしが先頭に立つと」


「危険なのですよ、シータ。怪我をしたり、もしかしたら命を落としてしまうかも」


「全部判っております。でもわたくしは国を統べる一族の者として国を守るべき時はその先頭に立ちたいのです。父には、それこそ万が一のことが有れば大変です。だからわたくしでないと駄目なのです」


「ではあなたの代わりにわたくしが」


「それも駄目です。ハーティー姉さまには幸せになっていただきたいのです」


「それはわたくしも同じです。あなたには幸せになってほしい」


「でもハーティー姉さまは魔法が使えないじゃありませんか。わたくしはちゃんと中級魔法士の資格を得ています。戦場でも役に立てると思っているのです」


 シータは魔法士の試験を受けてはいない。だが王都魔法学校から中級魔法士の称号を得ている。ワルク・ゾルタン校長が与えたものだが校長は本来上級魔法士の資格を与えるつもりだった。それを国王が止めたのだ。本人に魔法士としての才能があることを自覚させたくなかったのだがシータ王女は上級でも十分通用すると校長は国王に進言していたのだった。


「それは確かにわたくしは戦場では役に立たないと思いますが」


「そうですよ、ハーティー姉さまは役に立ちません。だからわたくしが行くのです」


 シータ王女はハーティーを諦めさせるためにわざと冷たく言い放った。


「そっ、それは。判りました、でもくれぐれも危ないことはしないで、お願いだから」


「約束します、ハーティー姉さま。わたくしは無事手戻ってまいります」


「本当に約束よ。破ったら許さない」


 それだけを言うとハーティーはその場を去って行った。とても納得したようには見えなかったが。


「済まなかったな、あれはあれなりにシータを心配しているのだ、判ってやってくれないか」


「陛下、皆判っていますよ、そんなことは。ではもう少し話をすすめましょう」


 俺はその場の雰囲気が堪らなくてそう言った。そしてシータ王女を守らなければ、と再確認したのだった。

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