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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第94話 一番歪んでやがったのはこいつか。


 獣王コウランをそそのかした――狂わせた。

 その相手は。

 ランエイさんの友人にして好敵手。

 ともにずっと、獣王を目指して切磋琢磨してきた、鷹の獣人のタキさんだった。


 獣王候補の筆頭にあったランエイさんが出奔して、その後釜にあった彼ならば獣王に近づいてあれこれと吹き込むことは可能だった。

 病床にあり、気も弱っていた獣王は、それに負けてしまった。

 その悪魔の囁きに。誘惑に。


 また旅をしたかった。その遠い日の憧れに。

 獣王は自分の願いごとを叶えてしまった。


 良い王様だったコウランを、その最期を、謝罪なんてことで終わらせやがった。



 一番歪んでやがったのはこいつか。



「……弟の方を先に使えば良かったのに」

 私の問いかけに、すぅ……と、タキさんは――何か、変わった。それは腹をくくったような、今まで我慢していたことを吹っ切れたような。


 ――ドラゴン()の威圧に当てられたか。


「私だけに明かしていたとは、盲点でした。門番たちにも。一緒にいる桑呀の皆さんにとっくに話していると、ばかりに……人間は案外口が固い」

 獣王を、その周りもそそのかし、この国の精鋭を使ってロザリーさんをつけたのは、やはりタキさんだった。今の獣王の側近は犬科の獣人が多く、匂いをたどってつけられたのだとか。それはロザリーさんが気が付かなくても仕方がなかった。

 そしてヒョウカさんの庵を襲ったのは、やはりそうした精鋭を使われて。後から解ったがヒョウカさんの庵に匿われたと、獣王には報せはなかった。そのあたりからはタキさんが指揮を執っていたのだとか。もしも教えて、獣王に正気に戻られたら厄介だったから。

 恩師の住まいを……なんて。それは正気に戻るだろうな。

 その目的は? 理由は?

「何故、子どもを先に使ったんだ」

 タキさんが憎しみをもってベニユキさんを見た。

 それは獣王がリョウガくんではなくベニユキさんを贄にすれば良かったと言うような――いや、彼は本気でそう言ったんだ。

「それよりも先に、病の方をだろうが……っ! 弟を先に、使って! おかげで予定が狂った!」

 タキさんは唆し過ぎたと、小さく舌打ちをした。

「な……にを……」

 ランエイさんが友人の言葉に信じられぬと、腕の中の弟を抱きしめる腕を強くした。

 ランエイさんはタキさんを信頼して、獣王国から出ていくことも相談していた。自分の候補の後を継ぐであろうタキさんに。

 タキさんはランエイさんとベニユキさんの出奔を手助けしたともあった……はずなのに。


「どこか遠くで野垂れ死んでくれたら良かった」


 タキさんは真顔で。心底からそう願ったと、言う。

「そのために色々と準備したのに」

 と。

 準備?

「もしや、マティの実……」

 はっとしたのはベニユキさんだ。

 そうだ、旅の最中、ランエイさんはそれで弱っていた。

「……君、何だ。賢いね? やっぱりランエイの片割れかぁ」

 タキさんも驚いたようにベニユキさんを見た。何だか感心したように。

 ベニユキさんは一族の蔵の中で暮らしていたから、タキさんと会ったことはなかったそうだけど。双方共にランエイさんを介して存在はよく知っていたらしい。


 ランエイさんからのタキさんは仲の良い友人で好敵手として。

 そしてまた、ベニユキさんのことは何よりも大切な片割れで、白い子であることを。


「旅の餞別として、実をたくさん持たせてくれたのは……お前だった」

 獣王国にも輸入され始めていたとても栄養価の高い干し果物。あまり裕福ではない獣王国に、甘味は……おやつとして栄養補給できるマティの実はどれほどありがたかったか。

 その食べる量さえ守られていたら。

 干し果物は旅のお供にも最適だ。

 だからランエイさんたちは餞別で渡されたそれに、今まで疑問も持っていなかった。


 まさか、そこに、仕込まれていた。


 たくさん食べなければ毒ではないのだ。


「……でも、戻ってきた」

 だからタキさんは――。


「お前は、戻ってきた――俺の下に」

 

 さっきの、儀式の様子。

 タキさんはベニユキさんを止めようとしていた。

 そして獣王にランエイさんのことをとりなそうとしていた……。


 それは、一度獣王の座を蹴ったランエイさんは、もう元の位置に――候補の筆頭には戻れない。

 ランエイさんは獣王にはなれない。


 ――自分より、下だ。


「それなら生かしてやろうと思った」

 ランエイさんの能力を彼は良く理解していた。

 自分よりも先に獣王候補の筆頭にあったのだから。

 そんな彼が、これからは自分の下に位置する――その快感よ。

「弟も、これからもお前の枷になるなら生かしてやろうと考えてやったのに」

 そしてベニユキさんは、白い忌み子だ。この国では忌避される存在。

 ランエイさんが弟を第一にすると今回で判明したからには、色々な意味で使い道がある。


 枷としても人質としても――また自分の代に生贄としても。


「マティの実のこと、さては始めから知っていたか?」

 食べ過ぎはいけないこと。その注意。

 ロザリーさんが気がついた。

「商人がその注意を怠るのはおかしいと思っていた」

 そうだ、ロザリーさんはそれを注意するように調べた人を護衛していた。まさに当事者だったんだ。

「マティの実、ね……ええ、知っていました」

 タキさんはため息をついた。

「本当に余計な手紙を……私の手柄にするはずが!」


 マティの実のせいでこの国は病に。その中毒症状が、奇病扱いされていた。

 原因はただの食べ過ぎ。

 それを報せず国に広めた目的は。

 良かれと思って、仕入れられたはずが――。


「その原因を、俺が解明するはずだったんだ!」


 それを手柄にして、獣王の座の決めてとする。そのためにその注意を秘密にした。

 いや、彼の手で、商人からの注意を握り潰してた。


 獣王候補として城にあがっていた彼だからできたこと。


「……なんて小狡い計画たてやがった」



 もしもペンドラがロザリーさんに拾われなかった、ら…だったんですけれどね。


 なんだかすごい寒波。

 少しでも皆様の気晴らしになると嬉しい。

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