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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第93話 答えなさいよ。


 コウランは最期に正気に戻った。

 だからこその、最期の言葉。



 コウランは良い教え子で、良い王様だった。

 彼の亡骸を抱き締めて静かに泣くヒョウカさんに。

 その外見の差に――時間の流れに。

 コウランが師に逢いたくても逢うのを我慢していたのは、それを彼自身も気にしてはいたが――ヒョウカさんを思い遣ったのもあるのではと、最期の穏やかな彼を見て、私は思った。


 一人歩く速さが違うヒョウカさんを、彼もまた、置いていくのが……。


 そんな、優しい気持ちもあったのだろう。


 ――それを、恐ろしく罪深い方に天秤を傾けさせられた。

 



 獣王の最期。

 これからこの国はどうなるかな。

 新しい獣王はどうなるのか。

 獣人の皆はそれを考えなくてはならないだろう。


 そこに、私はどうしても気になっていた事があったから問いかけることにした。


 ずっと気になっていた事があった――二つほど。


 一つは、願いごと一つに贄はどれだけいるのかということ。

 それはヒョウカさんもシュンレイさんたちも知らなかったけれど、この儀式の様子をみる限り。この国の儀式では願い一つに対価も一つだったようだ。

 あの森は量より質だったから、ここもきっと同じだったのだろう。


 もう一つは――。


「ねえ、どうしてヒョウカさんの庵にベニユキさんが……贄の白い子が匿われているて、わかったの?」


 ずっと気になっていた。

 そう、もしも贄が、一つなままだったら。


「ベニユキさんたちが、獣王国に帰って来ているって、どうして庵を襲った兵隊たちは知っていたの?」


 まともだった獣王コウランが自分の願いを叶えたいと思ってしまったのは、「予備」があったからだ。

 リョウガくんの他にもう一つ願いを叶えることができる、言い方は悪いが、枠が増えた。

 国の願いと、自分個人の願いを。


 ベニユキさん。

 本来の贄のベニユキさんが、獣王国に帰還していたから。

 獣王の手の届くところに。


 病に倒れ気弱になった獣王は、最期の最期に――その欲に狂ってしまった。負けてしまった。



 だが、誰が獣王にそれを教えた?



 私は、尋ねた。


「ねえ、タキさん。なんでですか?」


 それは贄の兄であり、獣王候補筆頭であったランエイさんの――好敵手。

「答えてくださいよ」

「……は?」

 皆の視線がタキさんと――私に。

 ただ一人だけ、タキさんを見たランエイさんが、はっとした。

「な、なんですか……いや、それは、いったい……」

 タキさんも皆と同じく状況に戸惑っていた。

 儀式が始まり、けれども何故か終わった――獣王が亡くなったことに。

 彼にもこれは予想外だったのだろうか。

「魔物の……子?」

 ゼノンが一見、獣人の子に見えるけれども、その本質は魔物であると、彼らにも解ったのだろう。ここにいるのは皆、それぐらいの実力者ばかりだ。

 そしてゼノンがその腕で抱き、護る存在――私に。

「しゃべってる……?」

 毎度おなじみのそれ。今は無視。


「その御方は、竜……ドラゴンだ」


 それはヒョウカさんではなく、先に現状を把握したゲンヤさんだった。彼は甥と義姉を共に来た精鋭たちに任せて私たちの方に来てくれた。リョウガくんを抱きしめるシュンレイさんを見て、私もうなずいた。良かった。

 彼も教え子だから、ヒョウカさんを心配したのもあるだろう。

 そして彼は同じくベニユキさんの居場所を知っていたけど、彼が何処かに報せた筈がないのは私たちが一番知ってる。信頼です。

 猪で猪突猛進みがある獣人さんだけど、傭兵らしく判断力もきちんとしているひとだから。私はゼノンと二手に別れる前に桑呀の彼らときちんと相談してきた。


 誰が、ベニユキさんの居場所を。


「ドラゴン……はは、まさか……」

 「ご冗談を」と笑うタキさんにゲンヤさんは顎先を撫でて、首を傾げて私を見る。やったれ、と。

「本当だ」

 そしてそれは腕に弟を取り戻したランエイさんも。

 ランエイさんも私を見る。ベニユキさんまで。

 ロザリーさんが最後のひと頷き。

「……ドラゴン?」

 好敵手の友人にまで言われて、タキさんはその鋭い目を丸くして――次の瞬間、口まで開けた。


「私こそが――ドラゴン!」


 私のドラゴンのオーラ全開(フルドライブ)に。

 その場にいた皆が。

 先の獣王の咆哮と同じように。


 再びの静けさ。けれども先ほどと違うのは、獣人の皆さまのうち、私がドラゴンだと知っていたゲンヤさんや双子たち、そして桑呀の精鋭の皆さまはなんとか踏ん張っていた。

 私のお供の二匹は私に侍り、加護を受けたロザリーさんだけが静かに微笑む。


 獣王配下の皆さまは尻尾をさげたり尻に挟んだり、腰を抜かしたり。


 タキさんは――さすが獣王候補の新しい筆頭。ヘタリ込みそうになったのをこらえていた。

 けれどもその顔色は。

 その、焦ったような、引き攣った笑みは。

 自分の理解できないことや予想外な事態が起きると、もはや笑うしかできないのは、人間も獣人も同じようだ。

「は、はは……」

 本当に? と、彼は友人であるランエイさんに、言外に尋ねて。ランエイさんにうなずかれて、彼がこういう嘘を言うようなタイプじゃないと、長い付き合いのタキさんこそが知っていたのだろう。

「……なんで? え、ドラゴン?」

 問いかけているのは、こちらなのだが。

「答えなさいよ、タキさん。私が(・・)尋ねているんだ(・・・・・・・)

 オーラを、彼にだけぶつけた。

 ひくりと、顔を引き攣らせて彼が後退り。


「……私が口を滑らせた」

 ロザリーさんが先に答えて、明かす。

「ランエイ殿たちが獣王国に戻って来ていることを知っていたのは、貴殿だけだ」


 そうなんだ。

 ランエイさんとベニユキさんが獣王国に戻って来ているのを知っていたのは、ロザリーさんからかつての修練場に隠れていると聞いたのは、彼だけだったのだ。


 手紙を預かり、私たちは彼を尋ねた。

 門番やその際にやりとりをした人達は、「旅の間に(・・・・)ランエイ殿に出会って手紙を預かってきた冒険者」というふうにロザリーさんは答えていた。

 その門番たちは獣人のうちでも良心がある人達だったみたいで、人間であるロザリーさんにきちんと対応してくれたし、ランエイさんが弟を連れて逃げたことにも理解をしてくれているようだった。家族を、弟を思う気持ちは自分たちにもわかるのだと。


 後からも知ったけど、門番だからこそきちんとしている獣人たちを配備していたのだと。

 半年の間通ってきた他国の関所や門番には、賄賂をたかったり、身分差や獣人に差別意識がある駄目な役人がいたりした。白銀冒険者なロザリーさんにはへらりと愛想良くしたくせに、次に順番まちしていた青銅冒険者には上から目線だったり。


 獣王コウランこそが、きちんとしていたんだ。


 他国を、人間の世界も、師であるヒョウカさんと旅をしてきて見てきたコウランだったからこそ。そうしたところが大切だと、良く学んで来たから。


 だから門番さんたちはランエイさんが遠くな国に弟と向かっていると思っていたはずだ。入れ違いにロザリーさんが獣王国に向かうから、手紙を託されたのかと。


 ランエイさんの友人だから、彼の安否が気になるのだろうとうっかりと、ロザリーさんがタキさんに口を滑らせた。その優しさが仇となった。

 ランエイさんの友人だから――信用したあまりに。

 ロザリーさんが申し訳ないとランエイさんたちに謝った。

「私がつけられたのだな?」



 だからタキさんはベニユキさんが何処に匿われたか知っていたのだ。




 80話くらいから気にしていたことです。

 一族の長や傭兵団の頭や、先生と呼ばれる竜人…そして白銀冒険者とドラゴンですから、皆さまきちんと判断しました。ちゃんとしている人達です。


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